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【出版の裏側】新刊のカバーデザイン制作、ほぼ実況中継
こんにちは。
フォレスト出版の森上です。
書籍づくりにおいて、本文の中身は言うまでもなく大切なのですが、「売れ」を大きく左右するものに、「カバーデザイン」があります。
新刊が次々と刊行されることに加え、書店さんの限られた棚スペース内には多くの書籍がズラッと並べられています。
対象の書籍を買っていただくためには、書店の棚前に来られた読者に、まず手に取ってもらう必要があります。いや、手に取ってもらう前に、その本の存在に気づいてもらわないといけません。
当たり前ですが、本に口がついていて大声が出せるわけもないわけで……。タイトルや帯コピーとともに、カバーデザインで目に留めてもらい、手に取ってもらわなければ話になりません。どんなに中身が素晴らしい内容の書籍であっても、手に取ってもらわない限り、そのせっかくの素晴らしい内容も伝わりません。
書店の店頭では、文字(タイトルや帯コピー)とグラフィックデザインだけで勝負する世界とも言えます。読者の方とのファーストコンタクトが、書名タイトルとカバーデザインです。その勝負時間は、0.1秒ぐらいでしょうか(あくまで個人的な感覚ですが)。
あれだけ多くの書籍が並んでいる中で、対象書籍に目に留めてもらい、さらに手に取ってもらう。それだけではありません。中身を吟味してもらって、レジまで持っていって精算されてはじめて「売れ」につながります。これがどれだけ大変なことなのか。イチ読者として書店に足を運ぶたびに、あらためて実感します。
さて、そんな書籍という商品を実売につなげる第一歩として重要な役割を果たす「カバーデザイン」。そのカバーデザインは、具体的にどのような制作過程を経ているのか。今回は、直近の担当書籍『「女子ボス」のトリセツ』(川村佳子・著)を例に挙げて、まとめてみたいと思います。
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カバーデザインの制作過程をお伝えする前に、今回の書籍の概要を下記にざっくりまとめておきます。
【書名】
「女子ボス」のトリセツ
【内容】
職場・ママ友・同僚・趣味サークルなど、「女子の人間関係」のキーマン的存在、「女子ボス」からの攻撃から身を守るために、どうすればいいか? 女子の人間関係に精通している産業カウンセラーが、「女子ボス」の特徴と対処法を徹底解説。
【読者対象】
◎女子の人間関係に悩む女性(メイン)
◎女子ボスに悩む、組織の男性管理職(サブ)
どのデザイナーさんにお願いするか?
まず「どのデザイナーさんにデザインをお願いするか?」からスタートです。
書籍デザイナー(装幀家/グラフィックデザイナー)は、世の中に数多くいらっしゃいます。書店で気になった書籍デザインがあれば、その書籍のクレジットページで担当デザイナーさんの名前をチェックしてお願いする場合もあれば、過去に自分がお世話になったことのあるデザイナーさんや、普段から同僚がお世話になっているデザイナーさんにお願いしたり、時には著者さんからのご指名されるケースもあったりします。
どのデザイナーさんにお願いするかは、編集者によってそれぞれ基準があるものですが、その中の1つに、「その書籍コンセプトや読者層に合ったデザインを得意としているデザイナー」という基準が挙げられます。
デザイナーさんの過去の作品をチェックしながら、そのデザインの方向性や特徴をつかみ吟味します。
今回は、ハードなものからソフトなもの、王道的なものからポップなものまで、幅広く器用にデザインし、徹底的に書籍を1つの商品としてデザインしてくださるデザイナーさん、FANTAGRAPHの河南祐介さんにお願いすることにしました。
河南さんとは個人的にも数多くの作品づくりをご一緒していただいていることもあり、MTG中に出てくるお互いのキーワードのニュアンスや意図も阿吽の呼吸レベルで相互理解できる関係にあり、いわば、スムーズに意思疎通ができるデザイナーさんの一人です。会社単位でもお付き合いが深く、弊社の会社案内のデザインもご担当いただいたデザイナーさんでもあります。
▼フォレスト出版_会社案内の表紙(デザイン:FANTAGRAPH河南祐介)
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デザイナーさんとのMTGで、デザインの方向性を探る
書籍のカバーデザインを決める、主な要素はいくつかあります。かつて、私にとって出版業界のメンター的存在の編集者から教えられた主な要素は次のとおりです。
◎書体選び
◎文字の置き方(文字サイズ含む)
◎色選び
上記に加えて、ヴィジュアルが必要なデザインには、「イラスト・写真」という要素が加わります。※用紙や加工などは除く。
もしかしたら、意外と少ないと思う方もいるかもしれませんが、この主要3要素+ヴィジュアル素材が、書籍カバーデザインの9割を決めると言っても過言ではありません。そのセンスが問われます。
今回の書籍『「女子ボス」のトリセツ』のデザインには、主要3要素に加えて、ヴィジュアルが必要だと考えていました。
というのも、「女子ボス」というワードが強いキーワードであり、どうしてもネガティブなイメージがつきまといます。
そこで、カバーデザインはできるだけポップな方向に持っていったほうが、読者は手に取りやすいのではないかと考えていました。ポップな方向に持っていくためには、主要3要素だけ、つまり、文字と色だけのデザイン(レタリングのみのデザイン)だと、ポップ感にも限界があると考えたわけです。
その意向をデザイナーの河南さんにもお伝えしご相談したところ、やはり同じ考えでした。
写真でいくか、イラストでいくか
主要3要素に加えて、ヴィジュアルを加えたデザインにしていくことが決まったところで、今度はヴィジュアル素材の検討に入ります。
ヴィジュアル素材には、大きく分けて2つあります。
「写真」or「イラスト」です。
今回、私の中では1つの答えを持っていました。
「イラスト」の一択しかない、と。
今回の『「女子ボス」のトリセツ』というタイトル&テーマを鑑みて、ヴィジュアルを写真にしてしまうと、妙に生々しさが出てしまうのではないかという懸念がありました。人間関係がテーマなので、ストレートに考えれば、複数の女性が写り込んだ写真というのもありえます。ただ、そうなると、ノンフィクション作品のイメージが強くなってしまう。もちろん、写真の内容にもよりますが、写真だとポップ感が出すのにどうしても限界があるのではないか。そんな不安が拭いきれなかったのです。
目指したいのは、ポップ感です。やっぱり「イラスト」しかない。
そんなことをデザイナーの河南さんと相談しながら、ヴィジュアルはイラストでいくことになりました。
イラストのタッチ(テイスト)、イラスト場面案をどうするか?
主要3要素に加えて、イラストというヴィジュアルを使ったデザインの方向性が決まりました。次に考えるのは、どのようなイラストタッチ(テイスト)で、どのようなイラスト場面にするか、です。
イラストのタッチは、ご承知のとおり、そのデザインの方向性を大きく左右します。今回のメインテーマ「女子ボス」をどのように描くかも重要になってきます。
デザインの方向性として「ポップ感を強く出したい」という意向に加えて、そこに上乗せするキーワードとして私の頭の中にあったのは「コミカル」でした。
「女子ボス」をあまりにも怖い存在として描きたくない。できれば、マンガ「ドラえもん」に出てくるジャイアンぐらいにしたい。その脇にスネ夫がいて、のび太がジャイアン、スネ夫に意地悪されている。そんな場面案が思い浮かんでいました。
ただ、やはり人間にしてしまうと、キャラが限定されてしまう可能性があります。
そこで、デザイナーの河南さんとミーティングする中で出てきたアイデアが「動物」でした。描くものを「人間」ではなく「動物」にすれば、「ポップ感」はもとより、いい意味で「コミカル感」も出てきます。何よりも、変な生々しさが払しょくされます。
最終的に、「女子の人間関係」を人間ではなく、動物でコミカルに描いたイラスト場面案でいくことになりました。そこには、ジャイアン(女子ボス)もいれば、スネ夫(子分)も、のび太(意地悪されている人)もいます。
それぞれをどんな動物で表現するかは、デザイナーの河南さんとイラストレーターさんにお任せすることにしました。自分のイメージ以上に、デザイナーさんとイラストレーターさんがいいアイデアを出してくださるのではないかという期待があるからです。
MTG後、デザイナーの河南さんからイラストレーターさんの候補者が数人挙がってきて、検討した結果、くにともゆかりさんにカバーイラストをお願いすることになりました。
デザイナーによるイラストディレクション
担当編集の私とのMTGで固まった方向性、内容をもとに、デザイナーの河南さんによる、イラストレーターのくにともさんへのイラストディレクションがスタートです。
河南さん、くにともさんのお二人から許可をいただき、デザイナー河南さんからイラストレーターくにともさんにお送りしたイラストディレクション資料が以下のとおりです。
▼デザイナー河南さんがイラストレーターくにともさんにお送りしたイラストラフイメージ
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▼イラストサイズの指定
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なかなか公開されることのない、貴重な資料だと思います。今回の記事のために、デザイナー河南さん、イラストレーターくにともさんがこれらの公開を許可してくださいました。ありがとうございます。重ねて御礼申し上げます。
イラストラフアップ&完成
ここまでの過程を経て、くにともさんからイラストラフがアップ。私も確認させていただき、期待以上の仕上がりに感銘を受けて即OK。デザイナーの河南さんにイラスト実データが納品され、カバー最終ラフにデザインにイラストをはめ込んで完成です。
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*
最後は駆け足でしたが、新刊のカバーデザイン制作の過程を、“ほぼ”実況中継的にまとめてみました。
今回ご紹介した新刊『「女子ボス」のトリセツ』(川村佳子・著)は、7月13日(Amazonでは7月11日発売/現在、予約受付中)です。
◎いつも攻撃的な態度で、マウントをとる。
◎新人が入ってくるたびに、いじめ続ける。
◎同僚なのに、上司面する。
などなど、「女子の人間関係」を支配、コントロールする女子ボス。
『嫉妬のお作法』の著者であり、女子の人間関係に精通する気鋭の産業カウンセラー・川村佳子さんが、職場・ママ友・同級生・ご近所さん・趣味サークル……、どこにでも生息する「女子ボス」の生態と、嫉妬、陰口、マウンティング、集団無視……といった「女子ボス」からのめんどくさい攻撃から自分を守る方法を徹底解説した1冊です。 興味がありましたら、ぜひチェックしてみてください。
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