【フォレスト出版チャンネル#170】出版の裏側|外国語書籍の版権を買う
このnoteは2021年7月8日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
会場も規模も熱気も世界最大級のフランクフルト・ブックフェア
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める今井佐和です。本日は編集部の森上さんと寺崎さんとともにお伝えしていきます。森上さん、寺崎さんよろしくお願いします。
森上・寺崎:よろしくお願いします。
今井:本日は「海外の書籍を買う」というテーマで、お2人にフリートークでお話いただけるということで、以前「編集者が本を売るためにやっていること」という放送でちらっとお話が出てきた海外版権についてお聞きしたいんですけれども、そもそも海外版権ってどういったものなんですか?
森上:海外版権っていうのは、いわゆる本の翻訳権というか、出版権を売り買いする事業っていう感じで、大きく2つあります。1つが、買う仕事。ビジネス書でも海外の著者方の本が翻訳されて出ていたりとかすると思うんですけど、それは出版社が翻訳権を買っているわけですよね。で、もう1つは日本で出した本を売る仕事。その2つ。で、今日は買うほうの仕事についてお話しするということで。
今井:ではさっそく、翻訳権を買う仕事ということでお話を伺っていきたいんですけれども、どんなふうに買っていくんでしょうか?
森上:そうですね。まず、翻訳権を買う仕事っていうのは、世界主要都市とか欧米諸国とか英語圏を中心にブックフェアっていうのが開催されていて、そこで海外の出版社から……。発売前のものもありますよね、寺崎さん?
寺崎:ありますね。発売前から鳴り物入りで、「何カ月か先にこの本が出ます。さて、この版権は日本のどの出版社が買いますか?」みたいな。
今井:例えば、ハリーポッターシリーズとかそういう感じですか?
寺崎:ハリーポッターとかもそうなのかな?
森上:ハリーポッターの場合はもう出版社が決まっていますから、静山社さんっていう。ちょっと別ですけど。いわゆるその鳴り物入りで、例えばスティーブ・ジョブズが生きていたら「スティーブ・ジョブズが新刊を出します」って言ったら、それだけでやっぱり世界中の国々は欲しがるわけじゃないですか。そういう発売前から予定されている目玉商品みたいなものもあれば、発売されて「その国で今売れています」っていったものを紹介してもらったり、そのブックフェアで商談をするって感じなんですよね。国としては、だいたい欧米だと、ドイツのフランクフルトだよね。
寺崎:あとはイギリスのロンドンブックフェア。
森上:そうだね。その大きな2つのブックフェアは有名です。
今井:ちなみに、どんな会場でそのブックフェアは行なわれているんですか?
森上:ドイツのフランクフルトのブックフェアは、10月に毎年行なわれているんですけど、2017年、18年、19年にうちの編集者が当番制というか、持ち回りで。
寺崎:2人1組で。
森上:行ったって感じだよね。寺崎さんは2018年に行ってるのか。
寺崎:そうですね。
森上:僕は2017年に代表の太田と一緒に行ってきたんですけど。フランクフルトの会場はビッグサイトみたいなところだったよね。
寺崎:ビッグサイトが5つぐらいあるような感じ。
今井:広い(笑)!
森上:会場を歩くのが大変なんですもん。
寺崎:1日ではまわれないですね。
今井:ビッグサイトだけでも広いのに、その3倍から5倍……???
森上:そう。
今井:想像ができないですね。
森上:東京ビッグサイトって、基本的にはワンフロアじゃないですか?
今井:はい。
森上:あの広さのフロアが5階くらいまである感じ。
今井:すごいですね。
森上:すごいですよね。確かフランクフルトが一番でかいブックフェアなんじゃないかなと思うんですけど、世界中の出版社(が集まる)、それこそアラビア語とかもあったよね。
寺崎:うん。ありとあらゆる世界中の本が集まってる商談会。広いから、今の商談と次の商談の時間を考えないと、大変なことになっちゃう。ものすごく遠いから(笑)。
森上:そうそう。(間に合わないから)走っちゃうみたいな。
今井:スケジュールはあらかじめ、こことここに商談に行くって、組み立てて行くんですか? それともそのときのインスピレーションに従って行く感じなんですか?
森上:基本は全部(商談スケジュールを)決めてから行きます。やっぱり商談の時間をちゃんと決めないと、相手も取り合ってくれないので、基本的に決めていきます。
寺崎:僕が行ったといには商談はそんなに多く組めなかったので、1日見て回って、こことこことここはうちと合いそうだなっていうところがあったら、飛び込みで「商談入れさせてくれ」って言って。飛び込みで何件か、2日目と3日目とかに入れてもらって商談しました。
森上:そうですね。飛び込みもありといえばありですね。相手さえよければ。相手からすると売る側だから、こっちは買う側だから。だから、喜ぶよね。
寺崎:そう。基本はウェルカム。
今井:売れたほうがうれしいですもんね。
森上:そうそう。で、出版社が各ブースを持っていて、一般の人も入れるんだっけ。
寺崎:一般は入れない。
森上:そっか。
寺崎:一般は、土日は入れる。業界人だけっていう。
森上:そっか、そっか。とにかく広くて、移動が大変っていうイメージだったよね。
今井:コミケみたいなものを私は脳内でイメージしているんですけど。そんな感じですか?
森上:そんな感じです。
寺崎:森上さんのときもそうだったかな? ちょうど同時期に。
森上:ジャパンフェアでしょ! アニメのやつ。
寺崎:そう。コスプレしてる人がいっぱいいて。
今井:ドイツ人がコスプレを!
森上:やってた。ドラゴンボールとかいたもん。孫悟空とか。
今井:本格的。
寺崎:皆、体がデカいから、すごく目立つんですよ。
今井:リアルですね、コスプレが。
森上:そうですね。とにかく広くてデカいっていうイメージがありますね。世界中の人たちが集まる祭典です。お祭り。
今井:世界中の出版社が集まるということなんですけど、言葉は英語なんですか?
寺崎:英語です。
森上:基本、英語ですよね。
寺崎:我々は英語しゃべれないので、現地在住の日本人の通訳さんにお願いして、商談しました。
今井:通訳さんにお願いするんですね。
森上:フランクフルト在住の方だったので、空いている時間とかにいろいろと案内してくれて。
寺崎:市内観光がてら、いろいろとまわって移送してくれるんですよ。時間がちょっとあると。
今井:いいですね。ドイツはお水よりビールが安いなんて話を聞くので。
寺崎:そうそうそう。だから僕はビールばっかり飲んでた。で、食べ物は本当に肉ばっかりなんですよ。
森上:あとジャガイモね。
寺崎:ソーセージとか。で、肉もデカいの。だから、ビールと肉、ビールと肉の毎日で、日本に帰ったら具合が悪くなっていて、大腸検査に行ったんですよ。そしたら、ポリープができていて。
今井:えー! ポリープができるほどですか(笑)!
森上:本当にそれでできたのかな?
寺崎:たぶんそうだと思う。
森上:そんなに簡単にできちゃうのかな、ポリープって。
寺崎:ポリープ切除したもん、俺。
森上・今井:(笑)。
今井:大変でしたね。
森上:そんな感じで、まあ、英語ですね、基本的には。
海外の版権はどのように買い取るか?
今井:現地の通訳さんにお願いするということなんですけど、気に入ったもの、これぞっていうものがあったら、どんなふうにして買うんですか?
森上:基本的に締め切りがあって、入札制ですよね。
寺崎:そう。日本語の翻訳権を各社が取り合うということになるので、我々としてのライバルは日本の出版各社。
森上:だいたい、間にエージェントが入っているので、エージェントに入札していくわけなんですけど、「うちはいくらで買うよ」「うちはいくらで買うよ」と。その金額は言えないんですけど、人気のあるアイテムとか事前に話題になっているアイテム、先ほど言ったすごく著名な著者の目玉アイテムなんていうのがやっぱりあるんですよね。そういうものはもう開催中に締切とか。
寺崎:そう。すっごく煽るの。「もう今決めないと決まっちゃいますよ」みたいな。
森上:どっちみち決まっちゃうんだけどね。
寺崎:そう。で、時差があるんだけど、1回会社に電話するんだよね。それで、その場で営業に判断してもらって、取りにいくか取りにいかないか決めてもらって、こっちは現地で入札するっていう。
森上:だから、僕が代表の太田と1回目に行ったときに、「これ、入札したいな」と思っていた案件があったんですよ。話題になっていて、行く前から決まっている案件があって、「じゃあ、取り行こう」と思って、その場で一応入札はするわけですよ。そのときに一応、会社に1回連絡を入れて、「この案件について、ちょっと取りたいんだけど」って言って、お財布を仕切っているところがあるので、そこの担当者に連絡を取って、「これくらい出したいんだけど」っていう許可を得てっていうのがあって。でも、時差があるので。だいたい半日くらいだよね。
寺崎:そうだね。12時間ぐらい違うね。
森上:なので、翌朝になっちゃったりするんですけど、そこですぐ連絡をもらって、入札したはいいけど他社に取られるっていう……。
寺崎:そういう人気タイトルは場合によっては数千万するときもあるんですよ。
今井:数千万! 版権だけで。
寺崎:版権だけで。だから、それだけ売れると(見込んでいる)。日本で売れると見込んで投資しているわけですよね。ただ、その見込みが外れて、日本語版で苦戦してるっていうのも耳にするよね。
森上:耳にする。うちはそういうリスクを負うような……。
今井:危ない橋は渡らない(笑)。
森上:まあ、でも聞きますね。「あれ、相当の金額で買ったはずだぞ」っていうのは、だいたい情報が流れてくるんですけど。
今井:(笑)。
森上:「日本で出したけど、そんな売れないな」みたいな。
今井:大赤字になっちゃいますね……。
寺崎:まあ、現地はお祭り気分だから、ちょっと非日常で買っちゃったりするんですよ、他社を見てると。
森上・今井:(笑)。
寺崎:「今、買っちゃったろ!」みたいな。
今井:そういうテンションなんですね。
森上:でもそれ、ほんとヤバいよ。買う側の人間としては。
今井:ちょっと冷静さを持って買わないといけないですね。
森上:「これはいけるだろう」みたいなノリでね。
寺崎:ノリ! そう。僕もそれをやっちゃったんですよ、1個。
今井:何やっちゃったんですか(笑)?
森上:(笑)。
寺崎:ノリで買っちゃったら、全然売れなかったっていうのがあって。
森上:それは大した金額じゃなかったけど。あるよね、そういうのね。
今井:煽られたり、お祭りの雰囲気だったりすると、やっぱり。
寺崎:ちょっと魔力がね。あっちは、商談といっても夕方の商談とかになるとお酒が入るんですよ。
今井:お酒オッケーなんですね。
森上:ブースのところで飲んでるもんね、みんな。
寺崎:もう4時ぐらいから、飲んでるんですよ。ワインとか。
森上:今、ちょうど時間が夕方の3時15分だけど、もうこれくらいの時間から飲んでるよね。
寺崎:飲んでる。飲みながら商談してる。だから、ノリで買っちゃうんですよ。
森上・今井:(笑)。
今井:楽しそうなお仕事だ。
森上:高い酒だなってやつですよ。
今井:ほんとに、ほんとに。
森上:まあ、それは半分冗談なんですけど、実際空気が違うというか、そういうのはありますよね。エージェントさんは煽ってくるからね。騙されないように。あんまり大きな声では言えないけど……。
寺崎・今井:(笑)。
森上:お付き合いがあるエージェントさんだから……。
今井:エージェントさんも「これいいですよ、いいですよ」みたいな感じで、勧めてくるわけですか?
森上:そうそうそう。で、入札してからも金額をせり上げたいっていう意思がやっぱりあるわけじゃないですか。エージェントさんの手数料もやっぱりあるわけなので。まあ、煽ってくるよね。
寺崎:自分がその立場だったら、煽るね。
今井:(笑)。
森上:俺も煽ると思う、エージェントだったら。
今井:そういうお仕事ですもんね。
フォレスト出版の海外翻訳本を紹介
森上:そうですね。でも、うちは翻訳本がめちゃくちゃ強いってわけじゃないよね。
寺崎:逆にはっきり言って、弱いよね。
森上:弱いって言っていいよね。
寺崎:つくる力、売る力が弱い。そもそも翻訳本って目利き力が必要なので。
今井:目利き力。
寺崎:そう。だいたい、翻訳本が得意な人って、外国語が堪能な編集者が多いよね。
森上:本当にね。何人かいらっしゃるんですけど、あの方がつくれば、っていう。他社さんにいらっしゃる編集者で、すごいよね。
寺崎:そう。だから、日本語しか読めない我々はダメ。
今井:ちょっと不利な戦場というか。
森上:そうなんですよね。はい。
今井:そんな目利きの力とかが必要な翻訳本なんですけれども、フォレスト出版として買った版権っていうのはどんなものがあったりするんですか?
森上:何冊かあるんですけど、最近10万部超えた本があるよね。
寺崎:シュガーマン。
今井:シュガーマン!マーケティングの!
寺崎:そう。『シュガーマンのマーケティング30の法則』。
森上:これは、爆発はしなかったんですけど、ずっと売れ続けたんですよ。
寺崎:ずっと地味に売れて、メンタリストDaiGoさんがYouTubeで紹介してくれて、そこでまた再び火がついて10万部突破したんですよ。
森上:一気に加速した感じだよね。
今井:おー! 私もフォレストに入ったとき、「一番はじめにこの本を読みなさい」と渡されたのが、『シュガーマンのマーケティング30の法則』でした。
森上:そうでしたか。
今井:鳥垣さんに「これを読んでおくといいよ」って。
森上:そうなんですよ。名著的な感じにはなっていて、これが、弊社翻訳本における一番の成功事例じゃないですか。
寺崎:そうなるのかな。
森上:ちょっと前の本だと、フォトリーディングの第一人者の方でポール・R・シーリィさんの本だったりとか。『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』。
寺崎:あと、マイケル・ボルダックさんね。我々が入社する前の本ですよね。
森上:そうですね。ポール・R・シーリィさんも入社前ですよね。マイケル・ボルダックさんは『目標達成する技術』。自己啓発系の本ですよね。
寺崎:あと、森上さんが実際に担当された本もありましたよね。
森上:はい、はい。ドイツ系アメリカ人のジョン・F・ディマティーニっていう方がいらっしゃって、『世界はバランスでできている!』とか。あと、本田健さんが翻訳した『正負の法則』っていう、これはうちの本じゃないですけど。ディマティーニさんの本は何冊か。
今井:我が家にも何冊かあって愛読しております。
森上:佐和ちゃんは、うちとの出会いがディマティーニだったんですよね。
今井:ディマティーニですね。
寺崎:そうだったんだ。
森上:あとは、『日本人のためのお金の増やし方大全』。これは『ロバート・アレンの実践!億万長者入門』を日本版にリメイクしたんですけど、ロバート・G・アレン。この人の本もそこそこ売れましたね。
あとスピリチュアル系の……。
寺崎:ディーパック・チョプラさんね。ディーパック・チョプラさんは、うちは何冊か出していますね。チョプラさんの本は多いかも。
森上:そうですね。だから、お金系、自己啓発、スピリチュアルっていう感じですね。ジャンル的には外国人著者さんはそっち系ですね。それを我々は本+セミナーとか教材をセットにしていく、パッケージ化していくというのが多いパターンではありますね。
今井:だから、ディマティーニさんはセミナーみたいなものもあったりするんですね。
森上:そうです。講座をやったりとか、そういう感じですね。
今井:ということで、本日は「海外の書籍を買う」というテーマで、ドイツのフランクフルトのブックフェアのお話などを伺ってきたんですけど、ビッグサイトの3倍から5倍もあるような大きなところで、しかも階が何階もあるようなところで、商談していくなんていうお話は初耳だったので、すごく驚きました。体力が必要だなあっていうふうに感じましたね。
森上:本当に体力勝負ですね。
寺崎:夜、疲れてホテルですぐに寝ちゃうもんね。本当は遊びに行こうと思っていたのに、なかなか遊びに出れなくて。
森上:出られないですよね。
今井:しかも許可を取るのに12時間ぐらい時差がある日本の経理部門と相談もしてっていうところが、いろいろと関門があるなあと感じましたね。まさか手軽に読んでいる海外版権の本がそんな苦労の末に出来上がったものなんて、ちょっと感慨深い気持ちになりました。
ということで、本日は「海外版権を買う」というテーマでお話をしてきました。明日は「自社の書籍を海外で売る」というテーマで、またフリートークをしていきたいと思います。本日は編集部の森上さん、寺崎さんにお越しいただきました。どうもありがとうございました。
森上・寺崎:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)