【マネジメント】人を動かすなら、「コーチング」ではなく「ティーチング」
こんにちは。
フォレスト出版の森上です。
会社やチームの「空気」は、その結果やメンバーのモチベーションに大きく左右します。「メンバーをいい方向に持っていきたい」「自分の組織やチームの悪い空気を浄化したい」と思ったら、具体的にどのように変えていけばいいのか? リーダーとしてやるべきことは何か?
現場に入って、目標を絶対達成させる超人気コンサルタントとして知られる、アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長の横山信弘さんは、著書『「空気」で人を動かす』の中で、「チームの空気」を変えるためのテクニックを複数紹介しているのですが、前回の記事にひきつづき、そのうちの1つのテクニックを解説している箇所を一部編集して公開します。
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「コーチング」ではなく「ティーチング」──「空気革命」テクニック②
新しい「場の空気」が受け止められそうな下地をつくりつつ、並行して「可燃人」を変える方策をとっていきましょう(対象は、「可燃人」のみです)。
「自燃人」は、リーダーが改まった話をしているだけで察することができます。そもそも「自燃人」は「場の空気」が悪いことを気にしていたので、背中を押す必要はありません。
しかし「可燃人」は、他人に火をつけられないと燃えません。意識が変わらないのです。
ですから、正しいやり方で背中を押していきます。以前なら「作話」などで抵抗されたでしょうが、ある程度「下地」ができていたら、その空気で中和されていきます。
「確かに、もう変わらなくちゃいけないな……」
と思うでしょう。
しかし、「可燃人」はすぐに変わりません。周囲を眺め、他のメンバーが以前と変わり始めているなら真似します。しかし、まだ「様子見」をしている状態なら、なかなか変化できません。
その際、大事なスタンスとは、「ティーチング」です。「コーチング」ではなく「ティーチング」。つまり、引き出すのではなく、教えるというスタンスです。
①徹底して「教える」
「守(しゅ)・破(は)・離(り)」という言葉があります。これは、日本の「○○道」と呼ばれる世界における学びの過程を端的に表した、非常にすばらしい言葉です。
◉「守」……決められた型、師匠の教えを守って繰り返すことにより、基本を習得する段階。
◉「破」……身につけた基本に自分なりの工夫を加え、基本を破り、発展する段階。
◉「離」……型や教えから離れて、独創的な型や教えを生み出す段階。
ティーチングとは、「守・破・離」における「守」であると私は考えています。
それぞれチームには、遵守すべきルール、価値基準があり、「締まった空気」があったときは、それが正しく守られていました。
しかし、いろいろな事情でなあなあになっていくものです。「自分のやり方がある」と言って、基本ルールを破り、自分が創り上げた新しいルール、価値観を求めてチームを離れることはあるでしょう。しかし、チームに留まっているにもかかわらず、守るべき価値基準を破って好き勝手に振る舞っていると空気が悪くなっていきます。
一流と呼ばれる組織では、「守」が徹底されています。何度も何度も「守」について全員で確認する。ですから、良い「空気」を保っていけるのです。
好例は、歴史と伝統があり、業績もすばらしい一流ホテルや一流レストランです。チームとしての原理原則を確認し、初心に返る時間が定期的に設けられています。つまり、「規律」を守るための教育が繰り返し行なわれているのです。
何もせずに、良い「空気」が持続することはあり得ません。何度も何度も、基本に立ち返って教え続けること。「守」を徹底すること。それが、「空気」を変える上で、リーダーにまず必要な姿勢なのです。
②「あるべき姿」と「現状」を数字で語る
では、リーダーは、いったい何をティーチングすべきなのか?
まずはチームとしての「あるべき姿」と「現状」を部下に教えるのです。そして、正しく理解してもらうべきです。
その際、相手の解釈次第でいかようにも取れる話し方は避けるべきです。先述したとおり、「ぼかし表現」をやめて、「4W2H」を使って話します。
「あるべき姿」は、その名のとおり「あるべき姿」であり、リーダーが考える規律、価値観の「合格点」です。「ぼかし表現」を使うと、「あるべき姿」を現状のチームの「平均点」だと勘違いするメンバーが出てくるのです。
「キチンとやってほしい」「積極的にやってくれ」といった「ぼかし表現」だと、「平均点」以下だったメンバーは、現時点のチームの平均点をとることを目標にしてしまうかもしれません。
ですから、「あるべき姿」を明確に提示します。そうでないと、いつまで経っても問題意識を持つことはありません。
問題とは、「あるべき姿」と「現状」とのギャップのことを指します。
ですから、自分がどうあるべきか、それに比べて自分の現状はどうなのかを正しく理解している人は謙虚になります。自分の問題を真摯(しんし)に受け止めるから、「問題意識」を持つようになるのです。
謙虚になれない人は、「あるべき姿」と「現状」のどちらか、もしくは両方ともキチンと理解していない可能性があります。ですから、やって当たり前のことでも「やらされ感」を覚えたり、「結果が出ないのは外部環境のせいだ」などと他責にしたりして、空気を悪くしていきます。
リーダーが「ぼかし表現」をしていると、メンバーも同じように「ぼかし表現」で反応します。
「どうして君は自主性を発揮しようとしないんだ」
「私なりに頑張ってやってるつもりです」
「俺からすると、やっているようには見えない。もっと努力してくれないと」
「私だって一所懸命やってます。それなのに全然評価してくれないじゃないですか」
といった不毛な応酬が展開されます。「自主性」「頑張る」「努力」「一所懸命」……といった、「ぼかし表現」をどちらも使っているので、まったく話が噛み合いません。険悪なムードが広がっていくばかりです。
「ぼかし表現」を禁止する必要はありません。しかし、この表現のみに頼っていると、ただの「精神論」「根性論」になっていきます。
③チームにおける役割を教える
チームにおける「あなた」の役割は何なのか?
「〜をやったら……と評価する」といった評価云々以前の問題で、リーダーは、メンバーに対して、何をするのが「当たり前」「常識」「普通」なのかを正しく教える必要があります。
「わがチームの役割は、工場の生産性を上げること。生産性の数値目標実現のために方策を考え、提言し、実行し、検証する役割を担っている。君はチームの一員なので、君もまたその役割を担う」
このように明確に伝えます。「そんなことはわかっている」というリアクションが返ってこようとも、事あるごとに伝えます。
その上で、
「最近、時間外労働がとても多い。この3カ月間、平均して50時間も残業しているじ
ゃないか。生産性を上げるための方策を考える私たちが、効率の悪い仕事のやり方をしていてはまるで説得力がない。いかにして残業を減らすことができるか工夫することも私たちの仕事だ。今月から残業は20時間以内に抑えてくれ」
とティーチングします。
問題が発生してから、「それは違う」「こうすべきだ」と正しく教えるのです。空気を引き締めるためです。
言われた相手は、少しは葛藤するでしょう。以前なら「そう言われても、残業しなくちゃいけないことだってありますよ」とまず反論し、それからなぜ残業すべきだったかの理由を探すという「作話」へと展開していったのですが、そうはなりません。
テクニック①を踏まえ、新しい空気を受け入れる下地がつくられているし、相手も「可燃人」だからです。
(リーダーは、このチームを変えようとしている。少しイラッとしたけど、確かに自分にも非があるかもしれない……)
このとき、「あるべき姿」と「現状」を正しく教えます。
「言う」「伝える」のではなく、「教える」という姿勢が重要です。「緩んだ空気」が蔓延しているときは、自主性を重んじすぎないようにします。
メンバーは「あるべき姿」と「現状」とを正確に受け止めることで謙虚になっていきます。この繰り返しが必要であり、一度や二度で人は変化していくものではありません。
「場の空気」が悪い環境では、問題が発生するたびに「教える」という行為をすると、
「私はそこまでやらなくちゃいけないんですか? 聞いてませんし、それならそうと最初から言ってください」
という反論が返ってくる可能性があります。
「あるべき姿」と「現状」との間に距離があるため、リーダーが指摘しているのに、謙虚な姿勢で受け止められません。
しかし、本人の問題ではなく、「場の空気」がそのような態度にさせているのだと受け止めましょう。チームに入ったばかりの人がこのような言動をするはずがありません。
私なら、相手次第でストレートに言うことなく、後述する「プリフレーム」「マイ・フレンド・ジョン」といったコミュニケーション技術を使いながら、間接的に迫るようにしていきます。
いずれにしても、リーダーはこのようなティーチングの姿勢を崩してはなりません。
④適度なストレスを与える
規律を守らないメンバーにルールを守らせようとすると、その人たちは大きなストレスを感じます。特に、長くチームにいる人は、たとえ「可燃人」であろうと、「今さら何?」「言われなくてもわかってる」と反発したくなるでしょう。
「緩んだ空気」に慣れてしまっているチームは、長い間、規律を守らなくていい時間を過ごしてきたので、ストレス耐性が低くなっています。
リーダーに当然のことを指摘されてもストレスを覚え、ムッとしてしまうことがあります。
そのストレスを中和するのが「空気」です。繰り返しますが、事前に下地をつくっておくことが必要です。その空気があることで、少々のストレスなら軽減されます。
「ストレスは悪である」というイメージを持つ人がいます。しかし、必ずしもストレスが悪とは限りません。事実、「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と呼ばれる法則により「適度なストレスがパフォーマンスを最もアップする」ということが証明されています。
私は理想の空気を「締まった空気」と表現しています。まっすぐ前を向いて背筋を伸ばしている感じの空気です。
多少のストレスをかけないと、その状態を続けられない人もいるでしょう。今までふんぞり返っていた人にとっては、けっこうストレスを覚える姿勢です。しかし、これは適度なストレスであって、精神衛生上良くない過剰なストレスではないはずです。
チームにとって有効なストレスのレベル
では、チームにとっての適度なストレスとは、どのようなものでしょうか?
チームごとに異なるので一概に示すことはできませんが、私はストレスを「慢性ストレス」と「急性ストレス」の2種類に分け、それぞれのレベル感を「10段階」に定義すると、ストレスをコントロールしやすくなると考えています。
2種類のストレスの定義は次のとおりです。
◉「慢性ストレス」……普段なら何でもない問題がとてつもない難題に思えるほど、長期間強い影響を与えているストレス。
◉「急性ストレス」……まさにその都度やってくるストレス。
さらにわかりやすく、それぞれの10段階中1、5、10のレベル例について書き出してみます。
【慢性ストレスのレベル例】
◉レベル1……ほぼ正常。何事も前向きに受け止められるレベルのストレス。
◉レベル5……体が少しだるい、たまに倦怠感を覚えるといったレベルのストレス。
◉レベル10……寝ている状態から体を起こすことも困難なレベルのストレス。
【急性ストレスのレベル例】
◉レベル1…… 歩く、物を手で取る、紙を切るなど日常行為で感じるレベルのストレス。
◉レベル5…… 過去と比較して高い目標、プレッシャーをかけられるレベルのストレス。
◉レベル10…… 近親者の死別、天災による家屋の崩壊などのレベルのストレス。
私は、体が受け取るストレスレベルを、「慢性ストレス」と「急性ストレス」のかけ算で数値化できるのではないかと考えています。
「慢性ストレス」が【7】の状態の人が、【5】レベルの「急性ストレス」を受けたときは、【35】のストレスをかけられたと体が感じます。ですから、「これ以上やってられるか! このままだと会社に殺されてしまう!」という反応を示します。
逆に、「慢性ストレス」が【1】の状態の人が、【5】レベルの「急性ストレス」を受けたとしても、【5】レベルのストレスとしか受け止めません。そのため「やってやろうじゃないの! それぐらい大きな目標を持たないと楽しくないですしね」という反応になります。急性ストレスのレベルが同じ【5】でも、反応が異なるのは「慢性ストレス」の状況レベルが異なるからです。
「慢性ストレス」がハイレベルにある人は、何でもない問題さえ難題だと受け止めます。したがって、ちょっとしたストレスでも、かなり極端な反応を示します。
ひどい場合は、1か2程度の「急性ストレス」しか受け止められなくなり、事実上、生活や仕事が困難になっていきます。家から外へ出ることも、食事をすることさえも「キツイ」「厳しい」という生理的な反応を示します。
「場の空気」を良くするため、リーダーが部下にストレスをかける場合、この「慢性ストレス」と「急性ストレス」の2つを意識してください。
その都度、ストレスレベルを数値化する必要はありません。「ストレスをかける/ストレスをかけない」の2極で物事を考えないためです。感情のコントロールができない人は、両極端な発想をするものです。この「極論」が空気を悪くします。
ストレスの種類とレベル感を頭に入れ、何事にもバランスが必要だということをリーダーは知るべきです。
「悪い空気」を浄化するために、そして「守・破・離」を確立するために、「あるべき姿」としての目標数値を立てて達成していく――。
これは、非常にまっとうな急性ストレスの与え方です。
リーダーは、臆することなく自信を持って、部下へ適度なストレスを与えるべきです。
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いかがでしたか?
今回は、複数ある「空気革命」テクニックのうちの1つをご紹介しました。
【NLP理論】【脳科学】【行動経済学】に基づいた、良い「空気」に変えるための究極メソッドをまとめた『「空気」で人を動かす』(横山信弘・著)は、おかげさまで、長きにわたり多くのビジネスパーソンに支持され続けているロングセラー作品となっています。一人でも部下を持つリーダーにとってマネジメントのヒントが満載の1冊です。興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。
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