#428【出版の裏側】編集者にとっての出版営業とは?
このnoteは2022年6月30日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
「出版営業」とはどんな仕事なのか?
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める、今井佐和です。今回は、「編集から見た営業はどんな存在か」をテーマに、2人の編集者さんをお呼びいたしました。フォレスト出版編集長の森上さんと副編集長の寺崎さんです。よろしくお願いいたします。
森上・寺崎:よろしくお願いします。
今井:「編集から見た営業はどんな存在か」というテーマなんですけれども、森上さんはいかがでしょうか?
森上:これはもう営業さんあっての編集だと言いたいですよね。我々がつくっても売る人がいなければいけないわけで。そのためには編集が本をつくって、営業が取次さんを流通して、書店さんに……ということで。ビジネスパートナーとして。でも、僕は出版業界に入って改めて思ったのは、出版社に就職希望の人はだいたい編集希望かなと思っていたら、最初から営業希望だっていう人がたまにいるんだよね。このVoicyに出てくれた西浦さん、あの人は最初から営業志望だったんですよ。
寺崎:そういえば、そうでしたね。なかなか珍しいかもね。言っていたよね、たまたまアルバイトだかインターンだったかで働いていたところの先輩が営業で、編集よりも営業のほうがかっこよかったとか言っていたよね。
森上:言っていた、言っていた。あの人は学研に新卒で入って、最初から営業をやりたかったって言っていたもんね。だから、そういう方がたまにいらっしゃるのでね、営業のスペシャリストの方が。みんな本がつくりたくて、編集をやりたくて入ってきているのかと思ったら、そうでもないっていう。
今井:ちなみに出版社の営業というのは、一般の会社の営業とは何か違ったりするんですか?
森上:そこは全然違うかもしれないです。出版における営業は、雑誌とか持っている出版社だと、広告の営業っていうのがありますよね。で、一般的な我々みたいな書籍とかをやっている出版社の営業とかになってくると、書店流通の営業になってくるんですよ。となると、例えば取次さんに営業したり、書店さんに営業したり、いろいろある業種の営業の中では、ルート営業と呼ばれるようなものになるのかな。寺崎さん、それは間違いなさそうだよね?
寺崎:そうですね。対象が書店になるので、担当の書店を営業するという。ただ返品もできる業界なので、ちょっと特殊ですよね、出版業界の営業マンはね。
森上:そうなんですよね。だから、例えば書店さんの担当者から注文をもらったと。でも、言い方は合っているかわからないけど、その書店の担当者さんは売る責任は負っていないよね。
寺崎:ぶっちゃけ、返品ができるという意味ではね。
森上:そう。そういう意味では。だから、例えば10冊を100冊でも注文しようと思えばできる。もちろん予算が各書店さん各ジャンルにあるから、そんな無謀なことは当然できないんだけども。基本ありますね。そういった返品制度っていうのが裏にある中で注文を取ってくる。ただ、それは絶対的な売上ではないというか。返品制度があるから。という感じですよね。だから、Aという商品があったときに、Aの商品が売れそうな店舗はどこかなっていう、その部分の嗅覚が営業マンには必要なのかなと思うよね。メリハリをつける必要があるというか。
寺崎:この本がA書店では売れないけど、B書店では売れるっていうのは結構よく聞く話だから、それをちゃんと把握して営業する、というのがきっと大事なんですよね。
森上:そういうことですね。だから、A書店で売れるものをB書店に多めに入れちゃって、そこを間違えると大変なことになるよね。あと、これは他の業界の営業も一緒かもしれないけども、人との付き合いは相当重要なんだろうなと。
寺崎:すごく属人的ですよね。営業の力で、1つの書店でもあっちこっちで展開してたりとかっていうのがあって、それは絶対に営業マンの書店員さんとの関係性の賜物だろうし。その逆も然りで。
森上:それ以外で、編集という点から見ると、書店の情報を上げてくれる営業マンはやっぱりいいよね。
寺崎:そうですね。「書店でこういうのが売れているよ」とか、「あんまり大々的には知られていないけど、実はこのジャンルの本がずっと売れている」とかね。そういう情報をくれるといいですね。
森上:そうね。だから、そのあたりの嗅覚には個人差が出るんじゃないかな。我々もこの会社でも営業マンと何人も付き合ってきたし、前にいた会社でも営業マンと付き合って、そのあたりって相当個人差が出るよね。
寺崎:前の出版社で結構やり手の営業マンのAさんがいて、その人は開店前の店の前に立って待っているって言ってた。
森上:それはどういうこと?
寺崎:それは「印象付けるためにやっているんです」って言っていたよ。
森上:すごいね。キャラづくりと言うか。
寺崎:うん。「また、あいついるわ」みたいな、そういう感じ。だから僕も冗談で、うちの営業マンのTさんに「はちまきして営業すれば?」って提案したことあるけどね。
森上:(笑)。
寺崎:「はちまき野郎、来たぞ」みたいな(笑)。却下されましたけど。
森上:(笑)。営業マンとして覚えてもらうっていう、その発想はどこの業界もあるんだろうな。出版もあるってことだよね。やっぱりキーマンっていうのは、各書店さんにいらっしゃるから、その方とどう信頼関係をつくっていくかっていうのが、営業マンの大事なところなんだろうなと思いますね。あと社内的なところで言うと、うちの場合だと企画会議で営業マンの意見は聞くよね。このVoicyで結構いろんな出版社の編集者をゲストにお招きして企画の決め方みたいな話をいろいろと聞くけど、意外とうちは珍しいかもしれない。
寺崎:そうだね。俺もそれは聞いていて思った。意外とみんな営業って企画に意見をしないんだと思って。
森上:いわゆる編集が通した企画で出てきたものを売るとか、企画に対してあまり意見を言わない。
寺崎:うちも前はそうだったよね。
森上:俺は、それはあんまりいいことじゃないなって個人的には思っていて。うちが今やっていることはいいことだと思うんだけど。
寺崎:そうそう。なんでそうなったかって、今でも覚えているけど、営業部が「自分たちが納得できないものは売りづらい」みたいな。「だから自分たちも企画から入らせてくれ」みたいなことを言ったのは覚えているな。
森上:そうだね。でもそれって逆の立場からするとすごく納得するよね。自分が営業だったらそうだもんね。最初の企画っていうところがどんなものなのかっていうのは。ある程度、編集を尊重するにしてもっていうところが。
寺崎:自分が営業だったら、「こんなもん作りやがって」みたいな。「そんなもん売れるわけねーだろ」みたいな。そんなものを売ってこいって言われるみたいな。
森上:(笑)。そこは対等であるべきだし、そこでバチバチしちゃうのは、ある程度しょうがないことだし。それが健全なことだとは思うよね。
「書店にお客さんが戻らない問題」をどうするか
今井:先ほど、書店さんによってどういう特性の本が売れるかの違いがあって、その嗅覚が大事だというお話があったんですけども、今はリアル書店さんよりもネットで買う人が増えているんじゃないかなと。なんとなく本屋さんに行っても、人が今までよりも少なくなったなあっていう印象が個人的にあるんですけど、営業さんはその辺で苦労が増えていたりするんですか?
森上:そうですね。チラチラそのあたりは、聞いたことがあります。営業もコロナをきっかけに余計にそれを感じているっぽいですよね?
寺崎:それは言っていますよね、本当に。結局、お客さんがもう戻ってこないと。飲食店と一緒ですよね、書店も。お客さんが戻ってこないっていう問題。
森上:そうだよね。緊急事態宣言が解除されたけれども、それでコロナ前に戻っているかと言ったら、飲食店もそうだし、書店さんもそうだしっていう。例に漏れないっていうことだもんね。
寺崎:この間の金曜日に、丸善丸の内本店に行ったんだけど、金曜日は結構人がいっぱいいて。それで、うちの営業に「この前行ったら結構人がいましたよ」って言ったら、「それはたぶん金曜日だからじゃないかな」と言っていましたね。「平日は結構きついんですよね」って言っていた。
森上:なるほどね。そうなんだろうな。丸の内あたりは大手企業が多いだろうけど、リモートワークの体制は取っているところが多いでしょ。フルじゃないにせよ。だから、当然といえば当然なんだろうね。
寺崎:その分をアマゾンで買ってくれているならば、それはそれでいいんだけど、もっと大きな問題があるなと思っていて、日本人がこの先、本を読まなくなると、国民のレベルが下がるなと思って。民度が。
森上:なるほど(笑)。でも、海外のブックフェアとか行くと思うけど、日本人の識字率とか、出版文化が他の国に比べても高いと言われている中で、知識の源泉が当然のことながら出版物っていうこともあるんだろうね。そこがどういうふうに変わっていくのか。やっぱり絶対的に下がるものなのかな、本を読まないと。
寺崎:どうなのかね? 文字以外の音声で売るとか、そういうことも考えていかないといけないかもしれないですね、これからは。
森上:そうですよね。編集論になっちゃいますけど、編集という仕事は、企画を立ててコンテンツにするというところ、入稿するまでは変わらないよね。人とか物事をコンテンツ化する。それを印刷所に入れて、書店の流通に乗せるっていうことは、もしかしたら少なくなってくるかもしれないけど。ただ、営業さんはどうなるんだろうっていうところだよね。
寺崎:そうだよね。そこはどうしても変えていかないといけないよね。もう書店に人がいないって言ったらどうしようもないよね。
森上:そこは変えようがないもんね。
寺崎:変えようがない。そこは本当にどうしようもない。
森上:流れだもんね。そうなったときにどうするっていうところだよね。書店さんはだいたい駅の一等地にあって、まだ立地条件は最高なところが多いよね。
寺崎:そうですね。これまでずっと出版不況だと言われていて、20年、30年ぐらい。いよいよ本当にきているなって感じがしますよね。
森上:そうだよね。それこそ昔はショッピングセンターの上のほうとか、駅ビルの上のほうにあって、シャワー効果的な、ね。今は商業施設自体が集客を苦労しているっていう話も聞くし。ECサイトでの購買を含めてね。だから、「どこで売るかよりも何を売るか」だと思うんだよね。そのときに何を売るかっていうのが、もしかしたらヒントになるのかな、出版営業にとって。書店の流通を使って何を売るか。そこは考える余地はいろいろとあるのかななんていうのは、思ったりするけどね。たまにずっと出版営業をやっていて編集者に転身された方というのもいらっしゃるけど……。もう放送されているんだけど、自由国民社の方にゲストで来ていただいたんですけど、その方は書店営業をずっとやっていて、編集者に転身して、やっぱり着眼点が違っていたり、売り方についてもいろいろと確立されていたりっていうのもあるみたいですね。
寺崎:なるほどね。
森上:営業の経験があるからこその観点というか、発想というか、それはあるみたいですけどね。勉強になりました。
編集から見た「営業」とはどんな存在か?
今井:では、最後に「編集から見た営業はどんな存在か」を一言で言うと、どんな存在でしょうか?
森上:じゃあ、私から。基本的には大事なパートナーです。そこはもう変わらない。その中で、書店流通はさておき、それは当たり前にやりつつも、クリエイティビティでありたいなと。一緒に物をつくっていきたいし、届けたいっていうのがありますよね。
今井:寺崎さんはいかがでしょうか。
寺崎:ひと言では、道連れ!
今井:道連れ(笑)。一蓮托生的な感じですかね。
寺崎:そうですね。一家心中かな(笑)。
森上:それはパートナー解消っていうのはありえないの(笑)?
寺崎:どうなんだろう(笑)? 今の時点ではパートナー解消は難しんじゃない。
森上:そこは全然そんなつもりはないけどね。こんなことを言っちゃうと変なことになっちゃうからよくないね。道連れっていうのも、すごくざわつくけどね(笑)。そんな感じでしょうか。
今井:はい。ということで、本日は「編集から見た営業はどんな存在か」をテーマにお送りいたしました。森上さん、寺崎さん、どうもありがとうございました。
森上・寺崎:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)