【営業】リモートワーク時代にあらためて「リアルの良さ」を考えてみる
こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
コロナ禍をきっかけに一気に加速した「リモート」中心の働き方。多くの職種の中でも、特に営業職はかなり大きな変革となりました。いろいろなことがオンライン化され、移動コストが激減することは、本当にいいことです。リモートのメリットを知った組織やビジネスパーソンは、コロナ禍前の完全リアルの状態に戻ることはほぼないでしょう。
リモートワークが本格化して約2年、リモートのメリットはもとより、リアルのメリットも浮き彫りなってきています。リモートに切り替わってよかったことがある一方、リアルでしか得られないメリットとは何か?
「絶対達成」で知られる超人気営業コンサルタントの横山信弘さんがトップ営業パーソンたちの取材を通じて、自身が考えていることをすり合わせながら、「変わること」「変わらないこと」をランキング形式で解説した新刊『新時代の営業「変わること」「変わらないこと」を1冊にまとめてみた』の中で、「変わらないこと」の第3位に「残るリアルの良さ」を挙げて詳しく解説しています。今回は、その該当箇所を一部編集・抜粋して公開します。
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残るリアルの良さ
「新しい時代になっても、営業で変わらないことと言ったら、リアルの良さです。その人の雰囲気は、リアルでないと味わうことができませんから」
こう言ったのは、『リモート営業の極意』の著者、財津優さんです。リモート営業の第一人者が言うのですから、説得力があります。
「1回目はリアルで会い、2回目以降はリモートで打ち合わせをするとか。お客様に合わせて使い分けることが基本です」
ソーシャルセリングの第一人者、吉岡諒さんも同様に強調します。
「リアルな関係値がSNSなどオンラインに移行したとは思います。ただ、オンラインで知っているだけの人に仕事の相談はしづらいと思っているので、リアルで会うことをより重視するようにしています」
SNSをフル活用して営業しているイメージの吉岡さんでさえ、リアルの重要性を訴えます。実際に、地元の県人会や趣味のコミュニティにおいて率先して幹事を務め、リアルの人脈づくりにも手を抜くことがありません。
お客様のビジョンに焦点を合わせた営業活動を提唱する高橋研さんも、オンライン一辺倒の営業活動に強い警鐘を鳴らします。
「リアルとオンラインの使い分けができないといけないでしょうが、やはり重要な局面では、リアルのほうがいいと私は思います」
経営者との対話から、問題発見につなげる高橋研さんらしい考え方です。
「現場レベルが抱えるお困りごとを知るだけなら、オンラインで十分でしょう。しかし、経営トップと会い、理念や価値観を徹底傾聴し語り合う場合は、やはりリアルですべきです」
「リアル」でないとダメなこと
リアルなのか、オンラインなのか。どう使い分けるかは人それぞれかもしれません。しかし、私自身はオンラインを積極的に取り入れることで、短時間でいろいろなことが実現できました。そう感じている方はとても多いと言えます。たとえコロナが終息しても、この流れは止まらないでしょう。
とはいえ、忘れてはならないことがあります。
オンラインでは手に入らないことがあることも事実です。リアルでないとダメなこともたくさんあります。
しかし、それを正しく言語化できる人はどれだけいるでしょうか。
もちろん、
「キャッシュレスもいいが、現金もいい。というか、現金のほうが、お金のありがたみを感じられていいじゃないか」
という情緒的なベネフィットではなく、です。
「給料は現金で手渡ししてもらったほうが、もらった感がある」
と言っていた人が、昔はたくさんいました。
しかし、今はそんなことを口にする人などいません。このように情緒的ベネフィットは、いずれ機能的ベネフィットに打ち負かされるのです。
だから
「やっぱりリアルのほうがいいよ。オンラインだと、相手の反応がよくわからないもんね」
などと主張しても、それは単なる情緒的なものだと一蹴されます。正しく相手の顔に照明が当たっていれば、相手の反応がわからないなんてことはありません。それどころかオンラインのほうが、相手の顔をしっかり洞察できます。表情も息遣いも読み取ることができます。リアルであれば、相手の反応がわかるというのは思い込みにすぎません。真正面に相手が座るとは限りませんし、ジロジロと眺めるのは気が引けます。
そもそも相手の感情を読み取るために、表情や目の動きをキャリブレーション(洞察)するのは、そう簡単ではありません。リアルのほうがわかり合えると思うのは、明らかに思い込みです。
実験してみればわかります。
応接室などでリアルに会った場合と、Zoom などでオンライン商談した場合とで、比べてみます。4~5人を集め、お客様役をやってもらいましょう。その方々に対して30分ぐらいいろいろな質問を投げかけ、それぞれの反応を伺います。4人全員の名前の横に、質問に対する反応をすべてメモしておきましょう。
本当にリアルでやったほうが反応を読み取りやすいか、ぜひ実験してみてください。
オンラインでは絶対に得られない「無駄」と「遊び」
当然、オンラインは万能ではありません。すべての面でリアルよりも優れていることはないでしょう。それでは商談において、オンラインでは絶対に得られないことは何でしょうか。
その1つに「無駄」、「遊び」があると私は思っています。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させる営業コンサルタントです。徹底的に合理化を進め、ムリ・ムダ・ムラを排除するような支援をするイメージを、多くの人が持っています。
そんな私が「無駄」や「遊び」が必要だと主張すると、違和感を覚える人も多いでしょう。
しかし、日々の「無駄」や「遊び」があるからこそ、新しい仕事のアイデアや次のビジネスチャンスに巡り合えるのです。徹底的にオンラインを使いこなしている私たちだからこそ、それがわかります。
営業がオンライン商談を使いこなすと、主導権を握りやすくなります。しかし、そのためには、徹底した準備が必要です。1時間の商談なら、その商談のなかでどんな話し合いをするのか、どの順番で発言してもらうか、落としどころはどこなのか。事前にあらゆるシミュレーションを検討します。会議やセッションの前に電話やメールを駆使して情報収集したり、布石をうったり、根回しをします。
主導権を握るためには、あえて「無駄」や「遊び」がないよう仕込むことが多いと言えます。これはリアルの商談でも同じことが言えます。
では、どの場所に「無駄」や「遊び」があればいいのでしょうか?
どこに「無駄」や「遊び」があればいい?
商談中は、ホスト側の営業が想定したとおりに事が運べばいいのです。
しかし、その前後に、想定外のことがあってもいいでしょう。いや、あったほうがいいのです。
つまり、「無駄」や「遊び」は、商談が始まる前、もしくは商談の後にあることが望ましいのです。
たとえば、営業2人がお客様のところへ到着し、応接室に案内されている最中、廊下でばったり、ある課長に会ったとしましょう。
取引先の課長:「あれ? 今日はどうされたんですか?」
営業:「今日は生産技術の係長とお打ち合わせでして」
取引先の課長:「そうでしたか」
営業:「そういえば部長さん、お元気ですか。昨年末、入院されていたそうですね」
取引先の課長:「実は先月ようやく退院しまして、今月から職場に復帰したんです」
営業:「 え! そんなに長い期間、入院されていたんですか。申し訳ございません。存じ上げなくて」
取引先の課長:「いやいや、社外の人でも知っている人は一部でしたから」
営業:「今度、日を改めてご挨拶に伺います」
──このように偶然、廊下でばったり顔を合わせれば、このような情報をつかむことができます。
商談が終わった後もそうです。たとえば、その係長がエレベーターまで見送りにきて、待っている間などは時間を持て余します。
このような「無駄」な時間があるからこそ、次のような会話が生まれます。
営業:「 あ、そういえば、先ほど話題に挙がったX社の件ですが、よろしければ担当者を紹介しましょうか?」
取引先の係長:「え、いいんですか?」
営業:「はい。もしご興味があれば」
取引先の係長:「それは助かります。ぜひ、お願いできますか?」
営業:「かしこまりました。お任せください」
いつも、このような展開になるかというと、そんなことはありません。
しかしながら、「そういえば」とか「ところで」とか「実のところ」など、想定外の話題が出るのは、いつも計画の外にある時間帯です。キッチリ準備されたオンライン商談の中に、そのようなセレンディピティ(素敵な偶然)は生まれないものです。
リアルだからこそ味わえるセレンディピティ
仕事を効率的に進めるために、私は常に「樹」をイメージするようにしています。最も本質的な部分を「幹」にし、その「幹」に直接関係のある要素を「枝」とします。そして次に「葉」を描きます。
組織の問題であれば、問題の本質の部分が「幹」です。その問題を解決する具体策が「枝」。そして、それらの具体策を補完する情報や仕組み、方法論などが「葉」にあたります。
このように「樹」をイメージして頭を整理すれば、必ず「無駄」がなくなります。自然と、効率よく問題解決に向かっていきます。
だから商談などでは、樹の「幹」「枝」「葉」の要素がバランスよくディスカッションできればいい。それだけで十分なのです。余分なことは「無駄」だからです。
ところが、その前後では、その「樹」とは直接関係のない別の論点──、つまり「無駄」が出てくるからおもしろいのです。これがセレンディピティです。
商談のテーマとは別の「樹」の話ができたりすることがあり、これが新たな仕事につながることがあります。
商談が始まる前、まだ部長が会議室に登場する前に、先方の課長から
「せっかくですから、別の提案もお願いしますよ」
とささやかれたり。
飲み会で先に来ていた社長から、
「まだ専務が来る前だから言うけど、今度グループ会社へ転籍することになってね」
と教えてもらったり。
セミナー後に名刺交換した社長から、
「今度、うちの企業に講演に来ていただけませんか?」
とオファーをもらったり。
オンラインだと、すべてのお膳立てができている状態でスタートすることが多いので、こういった「無駄」や「遊び」がほとんどありません。「実は……」とか「そういえば……」といった、ちょっとした思いつき、ひらめきのようなものをこそっと話す機会に恵まれません。
だから商談が終わったあとの、エレベーターホールに行くまでの間、エレベーターを待っている間の「遊び」のような時間が、すごく大切なのです。
いろいろなことがオンライン化され、移動コストが激減することは、本当にいいことです。しかし、想定外のひらめきや思いつきに恵まれなくなるというデメリットもあります。
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いかがですか?
「絶対達成」で知られる超人気営業コンサルタント・横山信弘さんの新刊『新時代の営業「変わること」「変わらないこと」を1冊にまとめてみた』では、「業種を問わず、全営業パーソンにとって、新時代に必須の思考&スキルは何か?」という命題に対して、「変わること」「変わらないこと」のそれぞれベスト10をランキング形式で詳しく解説しています。興味のある方はチェックしてみてください。
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