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#345【出版の裏側】編集者がこだわる文字・書体

このnoteは2022年3月8日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

明朝体とゴシック体の違い

土屋:皆さん、こんにちは。フォレスト出版チャンネルのパーソナリティーを務める土屋芳輝です。本日は、編集部の森上さんと寺崎さんとともにお伝えしていきます。今日のテーマは「編集者がこだわる文字・書体」ということで、マニアックな話になりそうですが……。
 
寺崎:そうですね。マニアックですね。
 
森上:以前、紙の話をしましたよね、この3人で。今回は文字ということで。文字って結構大事というか、世界観が変わるよね。
 
寺崎:編集者の場合は文字を読むのが仕事みたいなものだから。例えば我々は年間で9、10点の本を作っているじゃないですか。で、1冊8万字ぐらいですね。で、校正を原稿の段階で読んで、初校を読んで、再校を読んで、念校を読んでってやると最低4回は読むんですよ。で、ざっくり計算すると、年間で300万字ぐらい読んでいる。
 
森上:おー。1冊あたり8万字計算で、4回ということは、1冊あたり32万字読んでいるってこと?
 
寺崎:うん。で、×年間の刊行点数。だから、結構な文字量を読んでいるなと。
 
森上:まあ、そうだよね。仕事だけで、っていう話でしょ。
 
寺崎:実際の原稿の段階だと、森上さんは何かこだわりがあるんですか? 僕はかえって癖のある書体とか使うと、ちゃんとして見えちゃうから、MS明朝と、MSゴシックしか使っていない、ワードの段階では。
 
森上:ワードの段階では、俺もそうだよ。この2種類しか使ってない。いわゆる明朝体とゴシック体。まあ文字ってだいたいそうだよね。2種類に分かれるから。そこで使い分けるぐらいかな。それさえ使い分けない人もいるもんね、著者さんによっては。見出しもさ……。
 
寺崎:あー。全部、明朝体?
 
森上:そう。明朝体とか。
 
寺崎:まあ、明朝体とゴシック体っていうのが大きく2つあるんですよ。それは土屋さんも?
 
土屋:はい。わかります(笑)。
 
寺崎:失礼しました(笑)。で、明朝体はすごく筆文字っぽい、柔らかい感じで、ゴシック体はカクカクしていて、ちょっと機械的な。
 
森上:ちょっとポップな感じなのかな。
 
寺崎:うん。本文は明朝体で組むことがほとんどですよね。
 
森上:だいたい読み物系になってくると多いですよね、明朝体のほうがね。
 
寺崎:で、ビジネス書だと必ずやるのが、強調ゴシックっていうやつで、地の部分は明朝体で、強調したいところ、ストレートにドーンと伝えるという意味で太字のゴシックにする。
 
土屋:全部、明朝体じゃないんですね。イメージとしては全部明朝体だと思っていました。
 
森上:本の中をパーっと見たときに結構太字がありますよね。
 
土屋:ありますね。
 
寺崎:ビジネス書とか多いよね。で、見出しもだいたいゴシックが多いですよね。
 
森上:多いですね。
 
寺崎:ゴシック体はとにかく前に出てくるので。
 
森上:強いからね。そういう使い分けはまずしているっていうことですよね。

文字のチョイスは読み手によって使い分ける

寺崎:で、たまーに本をゴシックで組むこともあるでしょ?
 
森上:ほとんどないかな。まあ、実用書とか占いの本とかだと、そうしたいなってときはあるよね。ああいう系の。普通のビジネス書にゴシックはあまり使わないかな。
 
寺崎:最近だとね、『新版 呼吸の本』っていう谷川俊太郎さんと、呼吸の専門家の加藤俊朗先生の共著の本なんですけど、これは元々他の出版社から出されていたものをうちで再販したんですけど、元々の本も本文がゴシックで、縦組みで。でもね、やっぱり加藤さんのキャラクターが明朝よりもゴシックのほうがしっくりくるんですよ。偉そうな感じじゃないというか。なんか明朝だとちょっと偉そうに見えちゃう、呼吸の専門家ということで。なので、キャラクターがにじみ出る……。竹を割ったようなだキャラクターなんですよ、加藤先生は。だから、やっぱりゴシックだよなって感じがして。
 
森上:これはゴシックの具体的な書体って何になるの?
 
寺崎:何だっけな……。忘れちゃった。
 
森上:本文でよく使う明朝の書体って、あんまりこだわりがないって言ったら語弊があるけど、いわゆる定番だと「リュウミン」とかだよね。あれも明朝だけどね。
 
寺崎:あと、たまにオールド明朝体を使うときもありますよね。イワタ明朝とか。
 
森上:そうね。
 
寺崎:古めかしい書体。
 
森上:ちょっと活版時代の香りがするというか。今はモリサワっていう、デザイナーの皆さんが使っている、あれが多いよね。だから、Macで組み合わせることが多いけど。元々結構多かったのは写研……。写研って使ったことある?
 
寺崎:俺はなくて、この世界に入ったときはすでにDTPだったので。
 
森上:ああ。ほんと。俺は最初の頃、そうだったのと、前の会社が写研にこだわっていて。でも写研、ないんだよね。印刷所ももう写研を持ってなくて。
 
土屋:写研って何なんですか?
 
森上:写研はいわゆるモリサワみたいな、書体を持っている会社というか、書体メーカーというか。だから、「石井〇〇」って付く書体は、だいたい写研ですね。
 
寺崎:モリサワで「新ゴ」っていうゴシックがあるんですけど、これが写研のゴナというものにものすごく似ていて、写研が訴訟を起こしたんですよ。著作権侵害だったかな。
 
森上:あったよね。
 
寺崎:それで、写研が負けちゃってね。最高裁までいったんだっけ。
 
森上:最高裁までいったの、あれ?
 
寺崎:うん。それでモリサワが勝って、その後はモリサワがフォント界を席巻していくっていうね。そして、今はアドビと組んでサブスクになっているじゃない。
 
森上:モリサワの書体を見て、写研の書体を見ると、写研を基にしているなっていうのが結構あるよね。写研で「秀英明朝」っていうのがあって、それが結構見出しとかに使ったりする、ちょっと太めの味のある書体なんですけど。それが、モリサワになると、田中一光さんという、タバコのピース缶とか。
 
寺崎:ピースのロゴだよね。
 
森上:そうそう。あと、西武百貨店の緑の模様とか、ロフトのロゴとかを手掛けた大御所のグラフィックデザイナーの方がいるんですけど、あの方が「光朝」という書体を開発した。
 
寺崎:ぶっといやつね。
 
森上:縦が太いんだけど、横がめちゃくちゃ細い。すごく極端な。それも、秀英明朝と光朝の流れみたいな。さっきの新ゴとゴナの……。そこは写研が言いたくなる気持ちはわかっちゃうよね。でも、結局モリサワが勝ったという形ではありますけれど。だから、書体にもいろいろとあるんですよね。
 
寺崎:バリエーションがすごく多いから。例えば、坪内祐三さんの『「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」 一九七二』という本があるんだけど、これはデザイナーの有山達也さんがカバーを担当されているんですけど、「こぶりなゴシック」っていう、ゴシック。この書体だけで、超シンプルにつくっていて、これは音声では伝わらないので、同書のカバーデザインを見ていただければなと思うんですけど、これも「こぶりなゴシック」で組んで出力した印字レイアウトを400%に拡大したものを、版画家がリノリウム版に彫ったものを印刷しているんだって。すごいこだわりでしょ?

森上:すごいね。
 
寺崎:実際、よく見ると、文字が少しかすれているの。あと、「丸明(まるみん)オールド」っていう書体があるじゃん。明朝体なんだけど丸いの。これ、いろんな広告で使われていた時代があったでしょ。
 
森上:結構メジャーになったというか、色気のある広告書体だと結構これが使われている感じだったよね。
 
寺崎:「サントリーモルツに使われたのがきっかけだ」みたいな記事を読んだことがあって、だから、流行になる書体とかもあって。今は「丸明(まるみん)オールド」はそこまでじゃないですけどね。
 
森上:よくあるのは明朝で本文を進めて、例えば、何かの本の引用するときは、そこの箇所は教科書体を使うときがある。あれって、なんとなく明朝っぽいんだけど、教科書体なんだけど。

寺崎:教科書で使っている書体ね。
 
森上:あえて引用部分だけ教科体を使うとか。そういうことはある。同じ明朝でも使い分けるというか。教科書体は明朝ではないんだけどね。
 
寺崎:あと、よくデザイン的にあえてでっかくした新聞明朝とかね。新聞明朝は新聞の書体なんですけど、新聞の書体ってちょっと縦が潰れているんですよ。
 
土屋:新聞って各社でフォントが違ったりするんですかね?
 
森上:ちょっとわからないんだけど、モリサワに「毎日新聞明朝」っていう書体があるんですよ。一般的によく使われる書体なんですけど。

寺崎:でも、他はないね。朝日新聞明朝なんてある?
 
森上:ないんだよ。
 
寺崎:東京新聞明朝とか使ってみたいな。
 
森上:ないんだよ。産経新聞明朝とかね。ないんだよね。でも、「毎日新聞明朝」というのはよく使われる。見出しの下に入れるサブタイトルの時に使ったりとか、ちょっと色気があるというか、メリハリがつく。ゴシックとの組み合わせがスッとくるというか。
 
土屋:こだわりがあって、本に合ったフォントを選んでいるということですよね?
 
寺崎:そうですね。

デジタル表現における書体の問題

土屋:電子書籍になると、そういうのはないんですか?
 
寺崎:無理なんですよ。
 
森上:そうなんですよ。それこそ本文の組版の話になっちゃいますけど、1ページあたり、だいたい1行42字で入れる場合と38字で入れる場合と、36とか37とかあるか。それで、横に何行入れるか。
 
寺崎:電子書籍はその辺のインターフェースの技術革新があれば、使うんでしょうけど、紙の書籍は読みやすさとか美しさにすごくこだわっているので、それを電子書籍では現状では表現できないんですよね。
 
森上:見やすく自分で変えられるというのはあるんでしょうけど、こっちが意図して、例えば1行に文字がワーッとあった中で、普通に並んでいるよりも少し字間を縮めたりとか、そういった指定とかもできるんですけど。でも、それってわかる人はわかると思うんですけど、見比べれば誰でもわかると思うんだけど、そのあたりは美しさの追求になるかもしれないですね。
 
寺崎:それに近いんですけど、電子書籍だと、文字の大きさとかも、ユーザーが変えられるので、便利は便利なんですけども、紙の場合はもう大きさっていうのは変えられないので。
 
森上:普段の書籍をつくるときの本文は何級くらいにしている?
 
寺崎:あんまり俺は級数のことって、わかってないんですよ。
 
森上:俺はだいたい14級を使っていて、少し小さくすると13.5級くらいを使って。
 
寺崎:俺もそれくらいかな?
 
森上:で、一番大きい見出しだと20級で、普通の小見出しは16級くらいとか。
 
寺崎:俺もたぶん同じだと思うんだけど、今月の新刊で『働くあなたの快眠地図』という本があるんですけど、これは16級にしたの。
 
森上:え? 本文を!? でっかいでしょ!
 
寺崎:でっかいよ。すごく迷ったんですけど。判型がA5変型でちょっと大きいんですよ。で、組も34文字×13行で、もうゆるゆるに組んだの。で、さらに16級だから。なんでこんなことしたかっていうと、結局ね、不眠気味のビジネスパーソンとか、睡眠にちょっと問題を抱えているビジネスパーソン向けの本なので、そういう人にもスーッと入ってくるような作りにしたかったんですよ。デザイナーさんは、最初はもうちょっと級数が小さいのを提案してきたので、「16級はこういう感じですよ」と、実際に並べてみると、大きいほうが優しい感じがしたんですよ。文字が大きいと入ってくる。
 
森上:それはあるかもしれないね。この前、新書判の本を作ったんですけど、アマゾンのレビューに「文字がでっけえ」って書いてあって。
 
寺崎:ほんとに? 文字がでかくて怒られるの? 小さくて怒られることはあるじゃん。
 
森上:「文字が大きくて、ページ数は200ページくらいで、900円は高い」とかって。「他の新書はもっと小さい」って。確かに、そうだよ。俺も13.5級ぐらいで組んでいるから、新書にしては大きいんですよね。
 
寺崎:あー、そっか。でも、昔の新書とか、本当に字が小さいよね。老眼だと、もう読めなくてさ。文字は大きめのほうが読者ファーストだと思いますけどね。
 
森上:そうなんだよ。でも、そういう人もいるという。文字の大きさもいろいろとこだわりとか、考え方はあるかもしれないですね。
 
寺崎:俺なんかは別にこだわりないんだけど、こだわりがないというか、デザイナーさんにもう丸投げなんだけど、1ページあたり、何文字×何行で、文字は〇級で、行間は〇〇とかさ、そういうのを決めている人もいるじゃん。森上さんも決めている?
 
森上:結構、決めている。前の会社とかもそうだったんだけど、本文フォーマットとか、わざわざデザイナーにお願いしないで、自分で全部ワードの原稿に指定を入れていたから。
 
寺崎:それはすごいね。
 
森上:うん。だからだと思うんだけど、だいたい僕は本文は38字×15行ぐらいにしているんですけど、いわゆる「字送り」っていう、字間の指定を入れる。
 
寺崎:字間も指定するの?
 
森上:そうですね、「字送り」はだいたい0.25Hツメ。「字送りベタ」という、いわゆる書体の通常の字間があるんだけど、それよりも0.25詰めてくれっていう指定をしたりとか。
 
寺崎:行間も指定する?
 
森上:行間も指定する場合ももちろんある。いわゆる「行送り」の指定ですね。今はもうやっていないけど。一応、意思だけ伝えて。でも、書体によって、同じ級数なのに、やたら字間が空いているように見える書体と、ちゃんと詰まっている書体と、結構書体によって違いますよね?
 
寺崎:そうですね。
 
森上:あれも難しいところというか、おもしろいところでもありますよね。
 
寺崎:ちなみに、土屋さんはデジタル系のコンテンツに携わっていると思うんですけど、文字のこだわりとかあったりするんですか?
 
土屋:そうですね。ウェブサイトとかのページを作るときに、わりかし売る文章とかを書くことが多いんですけれども、そうするとやっぱりいかに目に入ってくるかみたいなところで、本と同じなんですけど、見出しとかはゴシックで、白地にゴシックで文字を入れていくというよりは、逆に黒地で白抜きの文字みたいな方が目立つなと思うので、そこらへんはいかに文字を読んでもらうか。なので、デザインよりも文字っていう。だから、本文に関してはデザイナーさんが入れてくれるんですけど、普段見慣れているサイトとかありますよね。それになるべく近いほうがいいのかなっていう気がしていて。
 
寺崎:ランディングページとかですか?
 
土屋:そうですね。
 
森上:それで言うと、うちはnoteをやっているじゃん。noteって選べるんだよね、ゴシックか、明朝か。でも、やっぱりうちの公式はゴシックにしているよね。
 
寺崎:圧倒的にゴシックが多いよね。
 
森上:そう。やっぱりネット上ではゴシックが多いの。明朝だと和っぽい雰囲気だよね。
 
土屋:そうですね。例えばトップのバナーとか、いかにも作り込んでいるデザインのところとかで、和のテイストの講座とかを作る場合とかは、そういう明朝を使って、あえて縦書きで、トップだけ作ってみるとか。
 
森上:なるほどね。媒体によってだいぶ違うというか。でも、書体を変えることによって、世界観を変えようっていうのは変わらないというか、本だろうと、ウェブだろうと。
 
寺崎:あと、ウェブだとほとんど横組みですもんね?
 
森上:そうですよね。基本横組みですよね?
 
土屋:そうですね。
 
森上:だから、さっきの縦組みにするときがあるって聞いて、「おー!」と思った。たまーに確かにありますよね。
 
寺崎:画像で処理するわけだよね?
 
土屋:そうですね。
 
森上:そっか、そっか。「縦組み文字」を画像化しちゃうわけね。
 
寺崎:ブラウザで縦読みはないよね。
 
土屋:確かにないですね。
 
森上:だから、縦組みの文化っていうのは、インターネットの万国共通の中でありえない。
 
寺崎:でも、パソコン黎明期のときに、『季刊・本とコンピュータ』っていう季刊誌あったでしょ? あそこにかかわっている人が、縦組みのブラウザを開発した話を読んだことがある。
 
森上:(笑)。
 
寺崎:本当に縦組みなの。でも、普通に横組みでいいんじゃない? みたいな。
 
森上:(笑)。津野海太郎さんね。
 
土屋:それは見たことないですね。
 
森上:だから、今はPDFくらいじゃないの? ウェブ上で見ると縦組みになっているのは。まあ、電子書籍だったらどうかとか、いろいろと考えていくと、書体の世界もいろいろと変わってくるんだろうけど。でも、紙というのは、スペースの制限の中でどう組み立てるかっていうね。白地が活きるかたちになっていたりとか、いろいろと考えてはいますよね。
 
寺崎:そんなマニアックな回でした、今日は。
 
森上:(笑)。聞いているリスナーさんたちに、「何言ってるの、この人たち」って思われているかもしれないけど(笑)。
 
寺崎:グラフィックのプロの方からしたら、「何、こいつら」ってね……。まあ、ご愛敬でお願いします。
 
土屋:ということで、いろんなフォントを本では使われているということなので、ぜひそちらも注目して見ていただければと思います。今日は森上さん、寺崎さん、そして私、土屋で、「フォント、文字」についてお伝えしました。
 
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)

 


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