「嫉妬」と「憧れ」の境界線は、どこにある?
こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
皆さんは今までに、「嫉妬」したり、「嫉妬」されたりしたことはありますか?
私はあります。嫉妬したことも、嫉妬されたことも。
精神科医の第一人者・大野裕氏に師事し、現在、産業カウンセラーとして活躍、『嫉妬のお作法』の著者でもある川村佳子さんによると、「今まで1回も嫉妬したことがない」という人は、自己肯定感がとても高い人、心の機微に無自覚な人、はたまた、その感情に気づいていない人かもしれないといいます。
なぜなら、私たち人間の心に「感情」があるかぎり、「嫉妬心」と一生付き合っていくものだから。喜怒哀楽に続く「第5の感情」とも言われるほど、誰にでも湧き出る当たり前の感情だそうです。
言われてみれば、そうかもしれません。ちょっと思い出してみてください。
◎年下のきょうだいが生まれて、弟や妹に嫉妬する。
◎学生時代に同性・異性の友人に嫉妬する。
◎社会に出てからは同僚や部下、親やきょうだいに嫉妬する。
◎年老いてからも、同世代や若い人に嫉妬する。
子供の世界でも、大人世代でも、年老いてからも(老人ホームでの人間関係トラブルのニュースもたまに耳にします)、十分にありえそうです。喜怒哀楽と同じく、生まれてから死ぬまで、ずっと付き合っていく感情。それが「嫉妬心」なんですね。
ただ、嫉妬心は、喜怒哀楽とちょっと違う点があると川村さんは言います。それは、「言葉や行動に直接表しにくい」という点です。
「嫉妬心」は、自分と他人を比較して、自分より優位な相手に対して湧き起こります。
「私は嫉妬しています」と堂々と言える人は、なかなかいないでしょう。
言ってしまったら、相手より劣っている自分を知ることになり、みじめな自分を認めることになるからです。だから、「誰にも気づかれないようにしたい」「見て見ぬふりをしておきたい」「できれば感じたくない」……、心の奥底に隠しておきたい、「やっかいな感情」と思ってしまうのです。
――『嫉妬のお作法』より
そんなやっかいな感情とされる「嫉妬」ですが、「憧れ」とは何が違うのか? その境界線は、どこにあるのか?
実に気になるところですよね。
川村さんによれば、自分と他人を比較して、自分より優位な相手に対して湧き上がる感情、その根底には、「うらやましい」という感情が横たわっているといいます。
うらやましい――。これは、嫉妬心と同じく、自分と他者との間に隔たりを感じたときに湧き起こるものです。
似たような感情に「妬み(ねたみ)」というものがあります。
ただ、この2つの感情は混ざり合うものの、本来は別々のものです。
「うらやむ」は、「他者の優位性」をはっきりと認めています。はっきり認めた上で、その状態になれない自分をやや悲観的ですが、しっかり省みることができる。ジレンマを「受け入れている」状態です。
一方、「妬み」は、「他者の優位性」を認めてはいるものの、省みることをせずに、むしろ自分の中から排除しようとする、ジレンマを「受け入れていない」状態です。
そして、時に相手を攻撃したり、蹴落としたり、悪意すら芽生える。うらやむ気持ちよりも、もっと激しい感情といえます。
あの人へのうらやむ気持ちを素直に受け入れようと葛藤し、受け入れられなかったとき、嫉妬心へと進化していきます。
嫉妬とは、うらやむ気持ちが妬みと混ざり合い進化したものなのです。
――『嫉妬のお作法』より
その感情が「うらやむ」なのか、「妬み」なのかは、「他者への優位性」を認めた上で、そのジレンマを受け入れているか、受け入れていないかで変わってくるのですね。
うらやむ気持ちの延長線に、「憧れる」というものがありますよね。
では、「憧れる」でとどまるものと、とどまらずに「嫉妬心」に発展してしまうものとは、何が違うのでしょうか?
川村さんは、著書で次のような例を挙げています。
ここで、女性の方に1つ、質問させてください。
あなたには、憧れの人はいますか?
それは、歌手やモデル、俳優や女優、ハリウッドスターでもかまいません。その憧れの人をイメージしてみてください。
たとえば、あなたは心からジョニー・デップに憧れを抱いていたとします。そのジョニー・デップの結婚相手が、世界的に有名なスーパーモデルだったとします。
そのとき、あなたは、その結婚相手に嫉妬心を抱きますか?
一瞬とても悲しい思いをするかもしれませんが、きっと憧れを抱くのではないでしょうか。そして、心から祝福するかもしれません。
しかし、その結婚相手が、もしあなたの身近にいるとても親しい友人だったとしたらどうでしょうか。きっと、心中穏やかではないと思います。
次は男性の方に質問です。
あなたには入社当時から憧れを抱く先輩がいたとします。その先輩はとても有能な人で、出世をし、誰もがうらやむ地での海外赴任も決まりました。その先輩に、あなたは嫉妬心を抱きますか?
多少は嫉妬するかもしれませんが、きっと憧れの先輩に追いつけるように、自分も努力しようと奮起するでしょう。
しかし、それが同期入社の同じ大学出身の人だったらどうでしょうか。きっと、嫉妬心が生まれるのではないでしょうか。
――『嫉妬のお作法』より
川村さんは、ここに挙げた2つの例に共通するキーワードがあると指摘しています。【相手との距離感】です。
以前、カウンセリングしていた、何百年も続く歴史ある企業のご子息がこんなことを言っていました。
「同級生に会うと、他人のことを『あいつが俺より出世した』『俺より高いマンションを買った』などと言って、妬みや皮肉たっぷりなのですが、どうやら私には嫉妬なんてしないようなんです。どうも住む世界が違いすぎて、わけがわからないということみたいです」
別世界の王子様やお姫様には憧れを持つが、庶民の成功には嫉妬する。
手を伸ばしても届かない人には憧れを抱き、少し手を伸ばしたら、もしかしたら届きそうな相手には嫉妬する――。
この「距離感」こそ、憧れと嫉妬の境界線なのです。
――『嫉妬のお作法』より
憧れの人には追いつきたいが、自分と同レベルの人からは抜きん出たい。私たちには、そんな優越を感じたい欲求があるんですね。
いかがでしたか?
「嫉妬と憧れの境界線」について取り上げましたが、川村さんの著書『嫉妬のお作法』では、「嫉妬する人の特徴、嫉妬される人の特徴」「人の嫉妬から自分を守る方法」「嫉妬したときの対処法」「嫉妬をプラスに変える技術」などなど、嫉妬という感情の向き合い方、対処法について解説しています。気になる方はチェックしてみてください。