終電で帰ったことを後悔している君たちはどう生きるか。
この前テレビで、深夜食堂特集みたいのがやっていた。
なんと、22時からオープンする食堂があるというのだ。
そもそも、22時台就寝、5時台起床の俺にとっては、縁のない特集だったのだが、こんな世界もあるのかと、どきりとした。
夜中11時に、まあまあがっつり定食を食べる老夫婦、0時に、カレーを食べ始める男女二人組、朝2時に仕事が終わり、1kgくらいの特大焼肉弁当を食らうガテン系。朝4時に飲み終わった後に、キンメダイの定食を食べるおじちゃん。
終始、俺の胃が戦慄していた。
夜型の生活は、自分とはあまりにも生活感や、価値観が違う世界だった。
大学生のころ、オールする意味・オールの楽しさが分からなかった。
「オールしたら、次の日何もできなくね?」
と友達に聞くと、
「次の日は、たっぷり寝て過ごせばいいんだよ。だって、その分今日が楽しいじゃん。」
なるほど、時間の前借り的な感じかと悶々としながらも、一日をムダにする感じが、なんか許せなかった。
それに、俺は結局オールなんかしたことがない。2時くらいに、こと切れるのだ。
高校2年生のときに、文化祭の打ち上げの「土手オール」(今考えたら頭おかしい)的なことをしたことがあった。
だが当然、夜0時にこときれて、夜中に2時に寒さに震えながら起きる羽目になった。
霞む目をこすりふと周りを見ると、好きだった人が友達と肩を組みながら、夜の茂みに消えていった。心が冷たくなって、なんかやるせなくてもう一回寝た。正確には寒くて、ガタガタ震えながら眠れなかった。
大学1年生の時は、サークルメンバーで、スーパームーンを見ようとかで、宅飲み&月見をすることになった。
もちろん俺は、夜中の1時にこときれた。そして朝4時に目を覚ますと、好きな子が、壁に座った状態で、友達の肩に頭を預けて寝ていた。
なんかやりきれなくて。もう一回寝た。正確にはなんか悔しくて寝れなかった。
オールしてもいいことがない。
そう思った俺は、終電で帰るようになった。
時は流れる。
大学3年生の時、大学のテニサー対抗試合で、上位に入った俺は、スポンサーもついてる大会のレセプションで表彰されることになった。
ちなみに、その大会の運営側でもあったので、開会スピーチとかもした。
そこでオレは、深紅のドレス姿のMちゃんの姿に見とれた。
深紅ちゃんは、別のサークルだったが、そのサークルの人とよく試合をしたので、顔見知りではあった。
そして二次会で、まさかの深紅ちゃんから、電話番号を聞かれた。ガラケー時代だったので、電話番号が重要な意味を持つのは言うまでもないだろう。俺も運営スーツマジックで多少輝いていたのかもしれない。
縁もたけなわ。二次会がお開きになった。その時終電の10分前だった。
「おい、行くぞ!」とさっきまで酔っぱらって、いろんな女の子に手を出していた友人に手を引かれた。
俺は、最後にもうちょい深紅ちゃんと話したいと思い、姿を探したが、見つからなかった。すると友達が、
「お前ふざけんな、俺が終電乗れなかったらどうすんだ。」とブちぎれてたたいてくるので、やむなくその場を後にした。
ちなみに、その友人が深紅ちゃんに「オレも連絡先教えてよ!」と言ったのに、「えぇー、ちょっと・・・」と言ったのを少し根に持っているのだろう。
結局深紅ちゃんとは会えないまま、自宅の最寄り駅についた。時間を確認しようとふとケータイを見ると、深紅ちゃんから不在着信が3件くらい入っていた。
はっと目が覚め、すぐさま折り返した。
「ごめん!電話遅くなった!」
深紅ちゃん「あのさ、いきなりごめん。今どこにいる?」
「・・・・ああ、もう家の近く!」
深紅ちゃん「そっか、もしよかったらこの後もうちょい飲めなかったかなぁと思って。いきなり電話してごめんね。」
「いや、今からそっちにもど・・・・
無理だ。電車がない。そしてチャリで行くとしても15kmある。
「ごめん、今日は無理だ。また今度ね」
Mちゃん「・・・うん。また今度。」
初めて、オールをやめて後悔した日だった。何かその日もうまく眠れなかった。
そのあとの結末は、ちょっと話したくない。
ちなみに、深紅ちゃんの現在は、仲良かった同業者の友人と、4年前に結婚して子供も生まれ、幸せそうに暮らしている。
あのとき、あの選択を選んでいれば。
何かに行き詰まったとき。
人生の節目のとき。
絶望の渦に飲まれたとき。
ふと、過去を振り返ったときに、まだ癒えてくれない傷のように、血が滲むように、後悔が溢れ出してくることがある。
そんな時は、現在にたどり着いた軌跡を思い出す。
そう、今の自分にたどり着くために、全ての出来事は必要な過程だったのだと。
そう、あの終電を逃せなかった夜も、きっと今の自分を作り上げている。
過去を生きるな。今を生きよ。楽しい未来を想像せよ。