生鮮流通DXにおける3つの難題
こんにちは。飲食店向け鮮魚仕入ECサイト「魚(うお)ポチ」を運営しています。くさかべ(@tsnrblue)です。
前回は魚の流通について解説しました。多くの方に関心を持っていただけて嬉しかったです..!
私たちは、生鮮流通DXを進めることで、①産地と消費地の情報の非対称性の解消、②流通事業者の業務効率化を推進し、サスティナブルで豊かな食産業を再構築していきたいです。
さて、私自身、外の世界から生鮮流通の業界に飛び込むなかで、「魚のEコマース、デジタル化は難しすぎる..」と立ちはだかった3つの難題について、今回は共有します。
難題1. 鮮魚は同一の商品がない
商品IDが毎日異なる
鮮魚の前提は、明日何が水揚げされるか誰もわからないので、毎日、商品データを生成しないとEコマースで販売できません。
そして、毎日水揚げされる魚は同じ魚種でもまったく別モノです。
例えば、同じ日に同じ真鯛が水揚げされても、
明石で釣れた3kgの活〆神経抜きの天然真鯛
千葉の定置網で水揚げされた1kgの天然真鯛
は全く別のものです。商品IDを採番してもその商品が完売したら、同一の商品はこの世には存在しなくなります。
家具や工業製品のように全く同一の規格で、JANコードがあれば、商品IDは使いまわしができるのですが、鮮魚は同じ規格が存在しないのです…
たくさんの変数、名寄せの問題
鮮魚は、「用途」「カテゴリ」「産地」「サイズ」「ブランド」「締め方」「水揚げ日」など、たくさんの変数があります。この変数によっても商品の価値は異なります。
また、鮮魚は「標準和名」と「地方名」があり、産地によっても、同一の魚種でも呼び名が違うことがあり、名寄せが大変です。
出世魚も産地によって呼び方が異なるため、ワカシ、イナダ、ワラサ、ブリと社内で大きさを定義をする必要もありました。
困ったこと
どうやって解決しているのか
「同一商品がなく、変数が多い」Eコマースの事例だと、メルカリさんのような「フリマ・中古品のECサイト」が思想的に近いと思いました。
ウオポチでは、「魚種マスター」「部位マスター」などを裏側で作成し、登録される「商品名」を形態素解析することで、データを自動で生成しています。
例えば、「活〆神経抜イサキ 中(釣物)」という商品名を、ウオポチにアップロードすると、
といった具合に、自動でデータ生成される仕組みを作りました。
これによって、抽象的な同一条件でデータで持てるようになったため、検索精度の向上、検索条件を保存(お気に入り)、絞り込みの実装、商品分析がしやすくなりました!
エンジニアの力は偉大です…!
難題2. 不定貫と不確実性が常につきまとう
不定貫品とは、「計量が必要な商品」
鮮魚は、箱売で売買され、価格はKgあたりの価格で概ね流通しています。
例えば、5kg箱にサバが20尾入りで価格はキロ2,000円と仕入れたとしましょう。さて、1尾いくらでしょうか?
答えは「出荷時に計量しないとわからない」です。
10尾入といっても同じサイズのサバが入っているわけではありません。天然資源なので個体や品質に差があります。150gもあれば、250gの魚体が同じ箱に混じっていることもあります。お客様からすると、「期待して買ったもものとサイズが違った」ということが発生する場合もあります。
掲載情報と現物でモノが違う
まれに、入荷情報とは異なる品質のものが入荷することもあります。
産地も市場も流通も「人」が扱っているので、実際に産地から現物が届いたら外傷があった、鮮度劣化していたなど、流通には不確実性が常につきまといます。
困ったこと
どうやって解決しているのか
鮮魚にQRコードを貼り付け、カメラのついた自動計量機に流すことで、注文データと重量データを即時に紐づけを行い、省人化しました
サイズの幅が大きい場合は、「大きめ」「小さめ」の顧客希望を入れられ、可能な限り、現場で手作業で仕分けしています
掲載情報と大きく異なる場合は、代品調達を人力で頑張っています
難題3. 物流の省人化が難しい
深夜かつタイトな時間制約の中、複雑な工程が発生
商品の入荷は早くて深夜0時〜、配送の出発は朝の8時です。
毎日鮮度のよい商品をお客様へ届けるためには、毎日新鮮な商品を全国から調達し、短時間でピッキング、出荷しなければなりません。
深夜0時からの物流プロセスは以下です。
全国から鮮魚が順次入荷
注文ごとに商品をパッキング
計量をして、注文データに重さを紐付ける
顧客別に商品を仕分ける(常温品や冷凍品もまとめる)
配送便別にまとめる
配送便出発
ありがたいことに魚ポチの利用者数、商品数は伸びておりますが、時間の制約は8時間と非常にタイトな状況のままです。
短時間で、並列的に、高い精度で出荷件数を最大化するためには、人の作業を機械化、省人化したくなります。しかし、これがとても難しいです。
機械は水(塩水)に弱い
世の中には多くのマテハン機器(包装機や仕分け機械など)や倉庫がありますが、水濡れ・ウェットな環境に適したハードを提供している会社はほとんどありません。
機械、コンクリートは水に弱く、保証や耐久性が難しいことは想像できます。また、多くの物流メーカーは、アパレル向け、工業製品向けに提供されており、メーカーにとってもはマーケットサイズが大きいのでしょう。
わざわざ水産向けのマテハンを提供している会社は、ほとんどいないのです。(我こそは..!という、マテハンメーカーの方がいらっしゃいましたらぜひお声がけください)
鮮魚は繊細で、熱と衝撃に弱い
機械を導入すると、包装作業や仕分け作業が楽になるのですが、例えば、ビニールでパッキングする際は熱でビニールを圧着するケースも多く、魚の品質劣化につながる可能性があります。人の体温でも魚にとっては火傷に値すると言われています。
また、衝撃にも弱いため、機械のソート、シューティングによって、ダメージを受けないように配慮する必要があります。
困ったこと
どうやって解決しているのか
ほとんどの工程を人力で仕分け、ピッキングをしており、省人化に向けて様々な手段を検討してる状況です。全部を一度に機械化するのではなく、物流プロセスを細かく分解し、水濡れしない環境がつくれないか、マテハン機材の導入など検討しています
DXがなかなか進まない業界には、業界特有の難しい背景、オペレーションがあります。
生鮮流通のDX化にはまだまだ課題は山積みですが、毎日小さな改善を積み重ねていってます。いろんな協力パートナー、仲間と一緒に解決していきたいです。
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