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エンディングノートを書く私 エンジェルハートの香り

私の家系は、還暦を迎える頃に亡くなる人が多い。
幼い頃から幾度となく葬儀に参列してきた。


「死」は、私にとって特別なものではなく、生活の一部のような存在だった。
それはいつもあっという間の出来事で、徐々にその人の存在を
「ああ、もうこの世にはいないんだな」
と認知し、心に留める。


幼い私は、そんな現実を淡々と受け止めてきたのだと思う。

毎年訪れる白鳥



私が11歳年下の旦那さんと初めてデートした時、彼はエンジェルハートの香水をつけてきた。
「キャンプデートなのに香水?」


その香りが幼すぎたのと、彼の一生懸命さに心が揺れた。
少し笑った。

「年下に何が出来る?年下が私を扱える?」
そう思っていた。


「僕はあなたが亡くなる時、手を握って見送ります。ずっと手を握り続けます。僕と結婚してください。」

プロポーズの時の言葉。
引き寄せられるようだった。よく覚えている。
差し出された彼の手を、私は強く握りしめた。

エンディングノートを書いていると、解離性障害で忘れやすい私でも、印象深い出来事は、色鮮やかに浮かび上がる。


3度目の結婚、そこだけが、今だけが、最近の私にはよく見えるようになった。

それはもしかすると、認知ではなく実感し始めている?

そう気づいた時、私はなんて今まで不幸だったんだろうと涙が出た。
たくさんの愛情をもしかしたらもらっていたかもしれないのに、実感できなかった。
受け取ることが怖くて、できなかった。


年を重ねプライドばかり高くなり、その大事なものを弾き続けてしまった。
それは全て自分自身が引き寄せていた事に気づいた瞬間だった。


今を生きられない私は、命の終わりから人生を見ることによって、浮かび上がった幸せのラストチャンスを見落とさずに済んだのかもしれない。
丁寧に生きる。
人生設計を立てる。
自分の人生をしめくくる準備をしながら。


「行ってらっしゃい」
と朝旦那さんを見送り、私は毎日夕飯を作る。
それを
「美味しい」と笑顔で伝えてくれる旦那さん。
たったそれだけのこと。

それがどんなに幸せで、安全な場所であるか、傷ついた人には分かる。

趣味の苦手な料理


きっと人生最後の日、私はそれを思い出す。
私がなぜずっと年下のあなたの手を握ったのか、最初は
「私よりずっと長く生きてくれるよね?」
そんな気持ちからだった。


浮かび上がって色付いた生活は、まだ始まったばかり。
やっと、私らしく生きられるかもしれない。

エンディングノートに付け足す。
私が命尽きる時は、エンジェルハートの香水をつけて、手を握っていてください。


終活。それは、人生の終わりを見据えることではなく、これからの希望を見つけるためのヒントになるのかもしれない。


最後までお読みくださり大変ありがとうございます。

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ゆーちゃん
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