マガジンのカバー画像

ショートショート

19
いろんなジャンルのショートショートをまとめています。
運営しているクリエイター

2020年7月の記事一覧

一目惚れ

一目惚れ

ヒロアキは恋をしていた。

出会いは一年前。宮崎の田舎に住んでいたヒロアキは大学進学をきっかけに夢だった東京に出る事を決めた。親の説得には苦労したが無事東京行きが決まったときは興奮で眠れない日が続いた。

金の無いヒロアキは都内で安いアパートを探すことにした。何件目かの不動産屋で見つけたその部屋はいわく付きかもしくはオンボロでなければ説明がつかないほど激安物件だったが、内見に行くと思ったより綺麗で

もっとみる
黒いギャング

黒いギャング

一羽のカラスがこちらに向かって飛んできた。
スズメの群れがざわつき始める。

“ヤツよ”
“ヤツが来た”
“悪魔だ!”
“卵を守れ”

カラスは一直線にスズメの巣に向かって飛んで行き近くの枝に着地した。

“よう。久しぶりだな。”

にやりと笑うカラスに対して1番若いオスのスズメが対応する。

“な、何しに来たんだ!”

その言葉を聞いたカラスは声を出して笑い始めた。

“はーはっはっは。何しに来

もっとみる
夢の中

夢の中

眠れない。

そう思えば思うほど眠気は離れていく事を知りながら今日も僕は夢の中で呟いた。

“眠れない。”

それ

それ

身支度を済ませ家を出た“それ”は何かに気が付き戻って来た。

『危ない危ない。忘れてたよ。』

そう言って“それ”は私の顔をはめてもう一度家を出た。

誕生日

誕生日

『やっと終わった。』

残業を終えた井口はそそくさと帰り支度を始めた。
すでに自分しかいないオフィスの戸締まりをすませて帰路につく。

入社してから五年が経つが年々忙しくなっているように感じていた。残業の毎日で日を跨いでの帰宅も珍しくない。

ふと携帯を開くと一通のメールが入っていた。確認すると母から"誕生日おめでとう"というメッセージとともに慣れない絵文字が添えられている。

思わず顔がほころん

もっとみる
男の勲章

男の勲章

『パパー』

今年で5歳になった息子が父である佐々木の腕を掴みながら言った。妻に頼まれた夕飯の買い出しについてきたのだ。

『どうしたユウト』

『パパのその傷ってどうしたのぉ?』

佐々木の額には大きな傷があった。
買い物袋を持ち変え息子の手を握り直し佐々木は口を開いた。

『これはな、男の勲章だ。』

『おとこの…くんしょう?』

キョトンとした顔でユウトはその言葉を反芻した。

『パパとママ

もっとみる
恋とか愛とか

恋とか愛とか

"ピロン"

突然携帯が鳴った。
確認すると一通のメールが受信されており
宛先には“坂崎理沙”と表示されている。

久しぶりに見たその名前に山下健は心臓が強く脈打つのを感じた。

"お疲れ。久しぶりに話したいなって思ってるんだけどご飯でもどうかな。"

山下はメールの内容を見て複雑な感情になった。
坂崎理沙と別れてから一年が経つ。

ーーーー

付き合ってから三年が過ぎた頃。

僕たちはよく喧嘩を

もっとみる
天狗山

天狗山

それは突然の出来事だった。

ものすごい突風が起こったと思うと突如目の前に2mはくだらない大男が現れたのだ。

『人間、なぜここに来た。』

見た目通りのまがまがしい声でその男は言った。まるで自分が人間ではないかのように。

『私は天狗に会いに来ました。』

猿山は正直に言った。

『私は研究者です。この山で天狗を見たという目撃情報が入り、天狗の調査をしに参りました。』

それを聞き男は大きな口を

もっとみる
昨日

昨日

昨日誕生日を向かえたワタルが目を覚ました場所は身に覚えのないベッドの上だった。

時刻を確認しようと携帯を探すが見当たらない。

昨日の事を思い出そうとしてみても頭がガンガン痛むだけで記憶は戻ってこなかった。

とにかくここがどこかを理解するため部屋の中を探ることにしたワタルはベッドから降りた。

ネチャ

不快な音と感触が足に走る。

下を見るとそこには真っ赤な血だまりができていた。

『うわあ

もっとみる
笑顔の裏側

笑顔の裏側

笑子(えみこ)は毎晩のルーティーンであるゴミ出しの為にマンションの部屋を出た。

朝が早い彼女はルール違反と理解しつつも前日の夜にゴミ出しを終えてしまう。

しかし理由はそれだけではなかった。

『こんばんは。』

笑子が声のした方を振り返るとそこには三十代位の顔立ちの整った爽やかな男が立っていた。笑子と同じ様に口が縛られたゴミ袋を手に持っている。

『こんばんは。』

笑子は笑顔で挨拶を返した。

もっとみる