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noteを誰に向けて書くかという問題

2月末にnoteを始めたときの目的は1つ、「書く筋トレ」だった。
書くための回路を太く、強く、しなやかにする。

具体的な読み手を1人想定して、その人に向けて書くといい、といろんなところで見聞きしていたので、一番の読者は「自分」に設定した。

ビジネス目的でnoteを書くとなると、もっと具体的に戦略を持って発信をするのだろう。でも、もともと「筋トレ」を目的にしたので、少しでも縛りがあると続かなくなってしまう。そこは無理せず「自分」に。まずは続けることを安定させたかったから。

本当は、「今、これを読んでくださっているあなたに向けて書いています」と言いたいところなんだけど、自分に向けて書くことで、同じような状況、状態にいる人に届くのではないか、とも思っていた。

そんななかで今日、若松英輔さんの『モモ』の講座に出たときにとったノートを見返していて、はたと目が留まった箇所があった。

何を書くかより、誰に向かって書くかが大事
それによって何を書くかは決まってくる
何を書くかを考えているうちは、自分の中にあるものを出そうとしているだけ

ううう。
毎日、何を書くかを考えてうろうろしている私は、若松さんのおっしゃる通り「自分の中にあるものを出そうとしているだけ」だ。しかも、まだまだ上の方、表面に近いものしか取り出せていない。書く筋力が追いついてない。

でも、そろそろこの「誰かに向かって書く」ということを意識する必要があるのではないかという気がして、ざわざわした。

今のところ毎日のnoteを書くときは、まず自分の中にあるものをたかたかたかっと文字にして見えるようにする。それから、

「うんうん、そうだね」
「いや、ちょっと違う、もう少し〇〇って感じ」
「うーん、さっきまではそう思ってたけど、改めて考えると違うかも」

と、自分と対話をしながら書いている。

あとは、未来の自分のために、今のなるべく正直な声を書き残しているという側面もある。

でも、なんかそれは、それまで、というか、それだけでしかない。

同じテーマで、同じ内容のことを書くにしても、自分に向けて書くのと、例えば若松英輔さんに向けて書くのとでは、まったく異なったものになるだろう。言葉づかいも、構成も、文調も。そりゃそうだ、読み手のレベルが天と地ほども、全然違うんだから。自分に向けて書くのより、うんと考えてがんばって書くだろう。力が全然足りないとしても。

たとえば昔、村上朝日堂のサイトがオープンしていたとき、当時の私は新刊の発売日に開店前から書店に並ぶほどの熱烈なハルキストだったので、村上春樹さんに読んでもらいたくて一生懸命村上さんのような文章でメールを書いて送っていた。1回お返事をいただいたときは、文字通り跳んで喜んだ。

占い師のしいたけさんは、どの星座について書くときも、その星座の具体的な身近な人を思い浮かべ、その人に話しかけるように書いているという。「しいたけさん、私のこと見てたんですか?」というくらい自分に当てはまっているという人が、そこらじゅうにいる。そんなしいたけさんに向けて何かを書くとしたら、やはりしいたけさんのような、話しかける文調になるだろう。


若松さんは、哲学者の池田晶子さん、評論家の越知保夫さんに向けて書くようにしていることが多いのだという。どうしてそのお二人なのかという理由は失念してしまったが、その方たちに恥ずかしくないように書いていると。

じゃあ、私はそんな若松さんに向かって恥ずかしくないように書いてみようか? いや、それはもうすでに考えた時点で恥ずかしい。負荷が高すぎて筋トレにならない。明日から更新できなくなってしまう。

じゃあ、向田邦子さんは? 勝手にファンなだけで、もうお会いすることは叶わないけれど、あのように軽妙洒脱でウィットに富んだものをお書きになる方に向けて何かを書くとしたら、よいトレーニングになるのでは?

いやいや、それも負荷がかかりすぎる。毎日はとうてい無理だ。毎日どころか、毎週、毎月だって無理な気が。
むむむむ。


若松さんはさらにこんなことも言っていた。

本当に読みたければ書くこと
書くと今まで閉じられていた扉が開く

ただ読むだけだと、車で五合目までいくだけ
そこから書くという名の杖で山を登る

呼吸と同じ 量的にではなく質的にやる

毎日更新しようと思っていると、内容はなんでもいいから今書けるもの、となりがちだ。でもそれは、五合目どころか、平らな道で、ぐるぐるバットをしているだけなのかもしれない。

深い呼吸をするときに空気の出入りを意識するように、意識して言葉を吐いて、吐き切って、そして深く吸う。吸った(読んだ)言葉が、身体のすみずみにいきわたるように。

そういう深い「書く」と「読む」をできるように、たまには恐れ多い読み手を設定して、その人に恥ずかしくないように書くことをしてみるとどうなるか。たとえば週に1回、月に1回とかでも。それが山を登る杖になってくれるはずだ。

noteを誰に向けて書くか。もう少しいろいろ思い浮かべてみよう。

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大前みどり
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