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亀野あゆみ
2021年3月24日 21:39
ケンジが本を読んでいると、「先輩」と頭の上で声がし、目の前のテーブルに地味な黄金色のペットボトルが置かれた。「えぇっ! 地球産のジンジャーエールじゃない!」 ケンジを「先輩」と呼んだテッタが丸テーブルの向かい側に座る。手には地球産のダイエットペプシ。ケンジが目を丸くする。「そっちもメイド・イン・地球じゃない。こんな貴重品、いったいどうやって手に入れたの?」「そこの自販機っすよ」テッタが
2021年3月25日 21:46
『求む、目撃者/1. 疑 念』からつづく ケンジとテッタが演じてきた『猿の尾はなぜ短い』は、日本人の昔話記憶を強化するのには、何の役にも立っていなかったのではないか? テッタが持ち出した疑問がケンジの頭の中でビンビン鳴り、胸に黒雲が湧いてきた。「あっ、先輩、出発ポッドに移動する時間っすよ」テッタがボトルに残っていたダイエットコークを飲み干した。「うーん……」「あれ、先輩、なんか気乗り
2021年3月26日 21:50
『求む、目撃者/(2)決 意』からつづく ケンジは手のひらに浮かんだ周囲5キロ四方の地図を頼りに、里への道をたどる。変身スーツの表面に映し出される地図が、皮膚を透して見られるよになっているのだ。 前方に、藁ぶきの小さな小屋が肩寄せ合う集落が見えてきた。だが、都合よく声をかけられそうな人影はない。 仕方ない、手近の小屋の戸を叩き中の者を呼び出そう。と思った時、一軒の小屋の戸が内側からあき
2021年3月27日 18:51
『求む、目撃者(3)正 義』からつづく ケンジが川のほとりに戻ると、猿に変身したままのテッタが、地球標準尺度で50センチほどもある、自分の尾をいじり回していた。「テッタ、すまん」ケンジはテッタに頭を下げた。「俺が目撃者つくりにこだわったせいで『猿の尾はなぜ短い』が不成立になっちまった。お前の言うことを聞いとけばよかった。ホント、済まない」 「先輩、いいっすよ。ボクがドジって不成立にな