見出し画像

制作雑記【リクエスト】ビロードのスミレのブローチ

今回は2022年にリクエストいただいて制作した、スミレのブローチのお話です。


冬に身に付けたいスミレのコサージュ

小さくて儚げな紫色の野の花、スミレ。
昔から物語やお菓子、様々なデザインのモチーフとして登場していますね。
私自身も子供の頃から憧れていた花です。
【着せかえ布花】や、小さなブーケコサージュ、イヤリングなど、様々なスミレの布花を作ってきました。
そして2022年の夏頃、スミレのリクエストを数件頂いたのです。
それらの内容は…

『大好きなスミレを冬にも身に付けたい』
『【着せかえ布花】じゃないスミレのコサージュ』
『シンプルなデザインで小さめのスミレのコサージュ』

せっかくスミレのリクエストが重なっているので、この条件を満たしたコサージュを作ってみることにしました。
何よりリクエストをもらったことで、私自身もスミレのコサージュをつけて出掛けたくなったので!

デザインを考えよう

スミレと言っても様々な品種があります。
そして花の形はそうでもないのですが、葉の形は品種によって大分変わります。
たとえば【着せかえ布花】のスミレはViola mandshuricaで、長細い楕円形(へら形)をしています。

【着せかえ布花】スミレ

今回のリクエストは『小さめ、シンプル』。私なら、コートの襟にラペルピン(スーツの下襟のホールに飾るピン)のように付けたいなあ。フェザーヤーンのタートルニットのタートル部分に、埋もれるようにこっそり付けてみたり。ニット帽のサイドクラウンに付けるのもイイ。

それなら長細い形より丸っこい形で、引っ掛り難い形が良い。
と、なると…
ハート形の葉を持つニオイスミレ(Viola odorata)がイメージにぴったり!
本当にハート形まんまの葉なのですが、個人的にハート形を付けるのはちょっと気恥ずかしい。
ネットでニオイスミレの写真を検索してみると、成長過程で様々なハート形になるのを確認。
ハート形の先端の尖りが丸みを帯びた「グ○コ」みたいな形でデザインすることにしました。

試作のスミレブローチ

花ひとつ、ハート形の葉ひとつのシンプルなデザイン。
ブローチのような感覚でコサージュ初心者の方にも使いやすいデザインを目指してみました。

摩訶不思議なスミレのかたち

私はどの布花も改めて制作する時は、何かしら改良しています。
スミレは…特に花は、毎回改良する度に苦悩しています。

前からみるとウサギの耳のような上弁2枚と、その下に側弁2枚、唇弁1枚の計5枚の花びらを持つスミレ。
大抵の花は花びらの下にガク、そして茎に繋がっていきます。
が、スミレは花びらの後ろに蜜を貯める袋のような部分・距(きょ)があります。

私はスミレの布花を作るまで、距の存在をまったく知りませんでした。
スミレの魅力の大半はウサギ耳のような形の花、美しい紫の花色…なのかもしれません。
でも、スミレ好きなスミレオタクの方はきっと
『スミレのうつむき加減の横顔がいいのよ!(つまり距も大事)』
と言うに違いない!
スミレの距を知った私も、その摩訶不思議な花の構造や、スミレの距ありきの横顔にすっかり魅了された一人。
距もしっかり作りたい!

ただし、自然界の摩訶不思議は壁が高かった…
スミレは距の部分と、各花びらを自然に繋げるのが本当に難しい。
改良するたびに「これで完璧!」となるのに、次に作る時には納得できなくて型紙から作り直しています。
そして今回もやっぱりそうなりました。
ウンウン唸りましたが、その分納得のいく出来になりましたよ。
横から見ると、スミレの距があるのが分かります。

赤丸で囲んだ部分が『距』です

その時の自分の持てる限りの知識・技術を駆使して作るスミレ。
きっと死ぬまでスミレの改良は続くのだと思います…

布地と花色…どうしよう?

次は布地選び。
秋冬ファッションに合わせるなら、やっぱりビロード!
微細な毛羽による独特の艶やかさを持つ厚めの布地で、ベルベットとも言います。
落ち着いた上品な雰囲気が魅力です。
小さめに作っても存在感があるので、コートのような厚い服にもぴったりです。

ビロードは個人的には、濃い色合いの方がより艶やかに感じます。
濃紺や深紅のビロードのワンピースとか、格式高く見えて憧れるのです。
ニオイスミレはスミレらしい紫色以外にも、淡い紫・ピンク・淡いオレンジ・赤紫…など様々な花色があるそう。

でも今回はビロードに合わせて、紫色の花に決定。
数種類の紫色をぼかし染めして複雑な色合いにしました。

葉もビロードにして、若草色のアクセントを入れて深緑色に。
ビロード布地を染めるのは久しぶりだったので難しくもあり、でも面白い発見もあったので良い勉強になりました。

使いやすくする為の工夫

スミレが完成したら、ブローチ金具をつけて完成!
…とは簡単にはいかず。
大抵のコサージュは布花の茎部分にブローチ金具をつけます。
でも、今回のスミレは『秋冬ファッションに使いたい』もの。
となると、ニットなどのふわふわと起毛した服につける機会が多くなるはず。
私自身、出来上がったらフェザーヤーンのニットにつけよう!と楽しみにしているので。

でも茎が出た状態だと、ふわふわニットに引っ掛かりやすくなる…
さらに茎に取り付けたブローチ金具を掴んで(摘まんで)服に取り付けるのはなかなか難しい。
そこで、それらを解消する為にブローチ台をつけることにしました。

ブローチ裏面。
裏面は合皮。しっかりブローチ金具を縫い付けています。
ブローチ表面。
表面はビロード。葉の影からブローチ台が見えても違和感がないように、葉と同じ色に染めています。二つの面の間に補強用の厚紙を挟んでいます。
それによって、より安定感が増して使いやすくなりました。

デザインには関係ない小さなことですが、使いやすいか?実用的なのか?というのは私が物作りする時に大切にしていることなので手が抜けません。

リクエストの有りがたさ

リクエストいただいた場合、連絡先を記載されている方には出来上り品の画像を添付したメールを送っています。
幸いなことに、皆様から嬉しいメッセージをたくさん頂きました。
よかった、頑張った甲斐があった!

今までスミレは、シルクなどの薄い布地でしか作ったことがありませんでした。
でも今回のリクエストで初めてビロードで作ってみましたが、やってみてよかった。
ふっくらとした布地による素朴さと、起毛し
による上品な艶と色合い。
リクエストのおかげで、不思議な魅力を持つスミレのブローチが完成が完成しました。

さあ、身に付けてみよう

私もお気にいりの一品になったので、早速身に付けています。
私の手持ちの服は明るい色が多いのですが、アイボリーやライトグレーにもこのスミレブローチの紫と緑色は意外と馴染みます。
鎖骨に近い襟元にちょこんと飾ると、可愛らしい。

でも、黒などの暗い色合いの服の方がより似合うんじゃないかなあ。
落ち着いた雰囲気に、小さな愛らしさ…という大人の女性の遊び心。
ああ、誰かそんな風に使ってくれないかなあ。見てみたい。

布花を作る理由

スミレブローチをつけて出掛けた先のいくつかで、店員さんに
「それ、お花ですか?」
と聞かれました。
スミレという存在は知っていても、その花姿は曖昧だったようです。
確かに道端にスミレが咲いている…なんて場所も、私の近辺ではあまり見かけなくなりました。
なんだか寂しいですね。

私が実物の植物に近い布花を作るのは、その姿の美しさに惹かれて、それを身に付けたいから。
そして、身に付けることで美しい植物の姿を人に伝えたいから。
この摩訶不思議な植物の美しさに触れるとき、私たちの心は美しく豊かな思いで溢れると私は思うのです。


【お知らせ】
作ってほしい花・植物がありましたら、ぜひリクエストをお願いいたします。
私にとってもあなたからのリクエストは学びと発見の機会となるので、とてもありがたいのです。
下記の『お問い合わせフォーム』にアクセス→『ご用件』から「リクエスト」を選択→『お問い合わせ内容』にリクエストする植物をお書きください。

※受注を優先しておりますので、リクエストから発表まで時間がかかりますことをご了承ください。
※リクエストしたら買い取らないといけない…など、リクエストは購入を強要するものではありません。
この植物を布花で見てみたいな、ぐらいに気軽にリクエストしていただけたら嬉しいです。
※リクエストの布花をご購入希望の場合は、セミオーダーとしてご注文を承ることも可能です。
詳しくは上記の『お問い合わせフォーム』よりご連絡ください。

いいなと思ったら応援しよう!

マリヨ(フルーリール フルール)
応援していただけますと、ひとりきりの制作の中でも『まだ見ぬあなたに布花を届けるんだ』ともうひと踏ん張りできそうです。よろしくお願いいたします。