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母からの昭和聞き語り

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母から聞いた昭和の話
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2021年3月の記事一覧

古いクルマの話

古いクルマの話

これは母と祖父から聞いた戦前の自動車事情である。当時のクルマはスターターなんてものはないからエンジンのクランクを手動でぐるぐる回してエンジンをかけていた。エンジンは噴霧式のキャブレーターだから気温に応じてチョークを引く。しかしこれが難しくてチョークの引きが甘いとエンジンは始動しない。だからと言ってチョークを引きすぎてしまうといわゆる「カブって」しまってエンジンはかからない。「カブった」エンジンは燃

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蓬莱屋さんでの顛末

蓬莱屋さんでの顛末

上野御徒町、松坂屋の裏あたりに古いとんかつ屋さんで「蓬莱屋」さんというおみせがある。ここはいつから続いているかはよくわからない老舗である。

昭和の三十年代後半の話を母から聞いた。

母と祖母はよく買い物に出かけていた。渋谷なら東急、日本橋なら三越か白木屋、銀座なら松屋、上野なら松坂屋、それぞれにひいきのお店があったようなのだ。

上野松坂屋の帰りにランチを食べることになった。たまには贅沢してとん

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海水浴と栗木の下駄

海水浴と栗木の下駄

これは昭和14年か15年くらいの話であると思う。

湘南に海水浴に行くのは戦前からのことで浜茶屋を使うのも当たり前である。母が幼かったころにはフォードが3台あって、自家用車としてもよく使われていたらしい。

夏のある日、母一家は祖父の運転で祖母、母、叔母で絵に島に海水浴に行った。当時、自家用車で海水浴行くなんて、今でいえば自家用のヘリコプターでゴルフに行く、くらいに思われていたそうである。

家族

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三越日本橋本店のステータス

三越日本橋本店のステータス

母方の祖父からの聞き語りを書いておきましょう。戦争の話は一休み。今日は戦前の話。

戦前、いわゆる「円タク」と言われるタクシー業が大正に始まった。昭和は昭和6年の満州事変以降、ガソリンなどの物資統制もあって、昭和12年には流し営業の禁止、昭和13年には法人化したタクシー会社しか営業できなくなった。祖父は個人所有のフォードを3台も持っていた(祖母の結納金を全額突っ込んで借金までしてタクシー会社を興し

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