『最後のモーニングルーティン』
先日、出演中の舞台『ミュージカル魔女の宅急便』を妻と長女が観劇。
7年前の初演稽古期間中に誕生した長女。
キキの存在、オソノさんのお腹の赤ちゃんの存在が自身の置かれた状況と重なり、公演を重ねるたびに、長女にこの舞台を観せるのが僕の1つの夢になっていました。
カーテンコール、妻と長女が座っているあたりに目を向けると、こちらにも向かって2人満面の笑みを浮かべ、思いっきり手を振ってくれている。
小さな夢かもしれないけれど、達成の瞬間。
楽屋に戻ると妻からLINE。
『私のとなりで涙こぼしながら観てたよ』
素敵な作品を観て、涙が出てくる感性を持ってくれていることが嬉しくて愛おしくて。
深田竜星くん、横山だいすけさんと同じ楽屋なのですが、2人にバレないようにこっそり自分の濡れた目元を処理。
帰宅してから、長女に直接感想を聞いてみた。
『どうだった?感動した?』
『ママ感動ってなに?』
『うわ〜っ!って思ったりすることだよ』
『聞いたで、泣いてくれたんやろ?』
『うん、涙でたよ、感動した。』
『どういうふうに思ったの?』
『こんなにすごいことできるんだ〜っておもった!』
記憶を蘇らせて話してくれているのだろう、あたかも観ている時のような表情を浮かべ、その感動の様子を伝えてくれる。
『そうか、ありがとう。みんなに言っとくね』
『え?みんなって誰?キキ?』
『そうやな』
『え、明日またキキに会うの?』
最近は生意気な事を言う時もあるが、まだまだ子供だなと感じる。
『そうや、パパ明日も魔女の宅急便やで。だから言うとくわ』
『え、ダメじゃん、言えないよ。パパ喋らないから。』
僕の役はパン屋のフクオさん。
そう。セリフはありません。
よく見てる。
『そうやな、じゃパン屋さんのカウンター覚えてるか?あそこにメモ置いてたやろ、あそこに書いとくわ』
『うん、わかった、キキに言っといてね!』
純粋さに安心する。
そんな長女も、あと数日で幼稚園を卒園。
以前にも【涙のモーニングルーティン】という回で書かせてもらったが、いよいよ最後の幼稚園送りと、最後のお弁当の日を迎える。
3年間、毎日続けてきたモーニングルーティン。
前日の夜から妻が最後のお弁当の献立は何が良いのか聞いている。
『おにぎりの具は?』
『こんぶ〜!』
『そう言うと思った!』
他にもミッキーを型どった揚げ物を入れる入れないの話をしている。
3年間毎日作り続けたお弁当。
小さなお弁当箱になるだけ沢山の献立を詰めて、バランスも考えてあげようと頭を悩ませていた3年間。
『明日のお弁当どうしよう?』
この言葉を何度妻から聞いただろう?
でもそれも、もう終わり。
次の日の朝。
『はい!最後のお弁当!いっぱい食べてよー!』
『うん!!』
『いってらっしゃい!』
『いってきます!』
『パパよろしくね〜!』
『はいよ〜』
ここからは僕の最後のモーニングルーティン。
3年間、ほぼ毎日と言っていいほど自転車で送り続けてきた。
片道約10分の道のり。
年少さんのころは身体もまだ小さく、後ろのシートに自分で乗ることも出来ず、両脇を抱えて座らせていた、一番短く設定したベルトは身体に対してまだ余裕があり、そこに幼さを感じていました。
いつの頃からか、自分でよじ登って座れるようになり、漕いでいても身体の重さが両脚にしっかりとかかってくるようになっていった。短く設定していたベルトはいつしか最大まで伸びて固定するのがやっとなほどに。
冬は寒いだろうと、毛布を被せ、身体とシートの隙間に毛布の端を捻じ込みヘルメットを被ったミノムシのような姿に愛しさを覚えた。
朝起きてダラダラと朝食をとり、ゆっくりと着替え、妻に急かされ怒られて遅刻気味に出発。ここは僕の日々のトレーニングの見せ所。
アシスト機能を逆にアシストしてやるほどの脚力で太ももパンパンに張らせながら立ち漕ぎで坂道を登る。
『はやーい!もっとこいでー!!』
アトラクションに乗っているかのようなあの楽しそうな声も、自転車ではもう聞くことはないだろう。
『パパ、昨日ケンカしちゃったお友達と今日遊べると思う?』
『パパ今日さ、折り紙で作ったこの星、お友達にあげるんだ!』
『パパ知ってる?今ね、毎日運動会の練習してるんだよ〜』
『パパ知ってる?音楽発表会でピアニカやるんだよ〜』
『パパ知ってる?お遊戯会の役の抽選会が今日あるんだよ、どんな役になると思う?』
たった10分間で話してきた膨大な量の、小さな会話。
本当に素敵な時間でした。
最後の今日、ペダルを踏み締める一回一回が感慨深い。
まだ冷たい朝の風を受けながら、10分間の会話を始める。
『今日で最後やで、パパがこうして幼稚園に送ってあげるの』
『うん、知ってる』
『パパ、大好きやったんやこの時間』
『なんで好きなの?』
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