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【要注意!】産直ECに潜む意外な落とし穴7選

産直ECは生産者の人たちが売上を伸ばしていくための有効な販路のひとつだと思うし、実際にメリットも大きいと思っています。

ただ何事にもメリットがあればデメリットもあるわけで、そのことを理解せずに参入すると「こんなはずじゃなかった」「思っていたのと違った」ということになりかねません。

ターゲットにしている読者層は基本的には「産直ECに参入したい人」もしくは「すでに参入しているけど、なかなか結果を出せていない人」です。なので、ちょっとキツイ書きぶりになっています。なぜならリスクを適切に認識しておいた方がちゃんとリスクを回避し、利益を伸ばせると思っているからです。産直ECにどんな落とし穴が潜んでいるのか、知らないよりも知っていた方が経営は強くなります。

❶物流機能が弱い

楽天もAmazonもEC販売で築いてきた物流拠点が使えます。ネットスーパーも実店舗の陳列品や在庫品が活かせます。在庫を集約させた配送センターを持っていれば、そこから直接消費者へ届けることもできますよね。巨大企業ゆえ、物流拠点への積極的な設備投資も可能です。でも産直ECにはそれがありません。物流・流通は「ヤマトにおまかせ」しているところが多いと認識しています。「生産者の人が好きな方法で発送できます」という売り文句は嘘ではありませんが、それは「私たちは物流には投資してません」ということでもあります。

好きな方法で発送できる = 物流に投資していない

そうなるとヤマトで輸送能力を超えた物流が動くときは商品をお客様のもとに送れなくなります。ヤマトに断られたら為すすべがないという意味では物流という見えないところでリスクをとっていることになります。産直ECの生殺与奪の権利は実は産直ECの経営者ではなく、物流事業者が握っているということです。

❷個配ゆえ配送料が高くなりがち

物流機能が弱いのはそれだけが理由ではありません。構造的な課題があります。それは「個配×スポット」というポジションの取り方に由来するものです。

定期的な購買は発生しづらく、一回の発注量も少ない

通常の市場内流通においては産地と消費地間で大規模に物流を動かします。ゆえに規模の経済が働いて送料が安くなります。

「規模の経済」と聞いても「何それ?適当なこと言ってんじゃないよ」という人のために、わかりやすい例で考えてみましょう。たとえば、1台のトラックに魚を6000尾詰めて運ぶのと、60尾だけ積んで運ぶ場合とで送料がどう変わるか考えてみます。

どちらもトラックのレンタル料が2万円、往復交通費が2万円、トラック運転手の人件費が2万円、合計6万円かかるとします。6000尾運ぶ場合は1尾あたりの配送料は1尾あたりの配送料は10円で済みますね。ところが60尾の場合だと、1000円かかります。固定費は変わらないわけだから、同時に大量に物流を動かせるほうが当然環境負荷も低くなるし、配送料だって安くなるんです。

【固定費】
レンタル料:2万円
往復交通費:2万円
ドライバーの人件費:2万円
――――――――――――――――
合計6万円

A:6000尾運ぶ場合
6万円/6000尾 = 10円
B:60尾運ぶ場合
6万円/60尾 = 1000円

もっと簡単な例でいうと、ケース単位で考えても同じことが言えます。1ケースに魚を10尾入れて送るのと1尾だけ入れて送るのとでは1尾あたりの配送コストは10倍違ってきますよね。

※なお、運賃の計算は本当はもっと複雑になります。できるだけ単純化して考えた方がわかりやすいので、正確な金額計算やその他のコストについては捨象して考えています。この業界のプロの人がもしこのnoteを読んでいたら優しくそっと「それは違うよ。正確にはこんなことも考慮必要だよ」と指摘してくださいm(_ _)m

大手産直ECは毎年数億円の赤字で、数年に一度数億円という大きな資金をベンチャーキャピタル(VC)の人たちから調達して経営を回しているケースが多いです。それらのお金はプレスリリースを読む限りだと、人件費、開発費、マーケティングあたりに回っていると考えられます。

マーケティングにお金が回っているとはどういうことかというと、消費者を広告で連れてきたり、利用ハードルを下げたりして、ECの利用促進をしているということです。たとえば送料無料キャンペーンや割引クーポンの配布とかよくやってますよね。

個配で都度都度ヤマトに発送伝票を切っていたら、送料は本来はとんでもないことになります。にもかかわらず、この送料無料キャンペーンを乱発することで配送料が高いという本質的な課題が見えづらくなってしまっています。物流機能の効率化に投資をしても売値が下がるだけなので、産直ECの経営者からすると手数料が減るだけなのかもしれません。

ただ、送料のコストが高いということに正面からいつかはきちんと向き合わないと、送料無料キャンペーンによって事業機会が広がることこそあれど、持続可能な商売はできないと思っています。産直ECの経営論はまた別のnoteでも書きます。

❸見えづらいコミュニケーションコスト

今まで消費者は生産者の顔が見えませんでした。それが見えるようになる。メリットの方に「消費者からの反応がわかる」と書きましたが、これはそのまま裏返しでデメリットにもなります。

これまでは安価で大量にものを作って既存の市場流通に載せるだけなら個別対応が必要ありませんでした。だからこそ生産者は生産に集中することができたんです。

一方で、産直ECではすべての商品・取引に対して1:1でコミュニケーションが発生します。言ってみれば、これは「新しい仕事が増えてしまう」ということです。それが面倒だと感じないタイプの人は問題ありません。だけど、そこに時間を投資しないといけないということの意味は理解しておかないといけないと思います。

仮にあなたが1日8時間、月20日働いているフルタイムの生産者だとします。そしてあなたの年収が400万円だとしましょう。この場合のあなたの時給は2083円になりますね。発送の連絡、商品のレビューに対する返信、クレーム対応などコミュニケーションにかかる時間はそれなりに発生するはずです。外部にアウトソースしてもいいですが、そんな予算があるとは限らないことがほとんどだと思います。そうなると必然的にあなたが対応することになるのではないでしょうか。仮に1日30分顧客対応を行うとしましょう。そうすると年間での顧客対応コストは25万円になるんですよ。まあまあ高いと思いませんか?

1)時給換算してあなたの1時間の価値を定量化する
<条件>
・1日8時間
・月20日
・フルタイム勤務
・年収400万円
<時給>
400万円 ÷ 12カ月 ÷ 20日/月 ÷ 8時間/日 = 2083円

2)顧客対応にかかるタスクを洗い出す
・発送の連絡
・商品のレビューに対する返信
・クレーム対応

3)2にかかる時間を想定してみる
1日30分

4)人件費がどれくらいかかるか想定金額を計算する
12カ月 × 20日/月 × 30分/日 × 2083円 = 250,000円

言い換えてみれば、少なくとも25万円以上額面で利益が出ていないと、実質会社としては赤字になっているよということです。つまりやらない方がよかったってことです。あなたが産直ECで農産物や魚を売る経営者なら、そういう見えないコストまで計算して価格決定しないといけないです。

ではそれだけの利益を生み出すためには、それぞれの農作物や魚たちをいくらでどれくらい売らないといけないでしょうか?損失が出るラインと利益が出るラインの境界はどこになるか答えられますか?1年の目標金額はいくらに設定すべきでしょうか?その目標を達成するためには何をすればいいか見えていますか?そういうことを生産者の人がひとつずつ考えて丁寧に整理していくことが大事です。まだまだ執筆中ですが、僕のnoteのマガジンを読んでいってもらえれば、産直ECで勝つために必要なことが理解できるようになると思います。無料noteもガンガン書くのでフォローしておいてください。

見えないコストまで計算して産直ECと向き合っている生産者は、現状は日本には多くいるとは正直あまり思えません。目には見えづらいですが、産直ECに関わる人件費は無視できないコストです。中途半端に注文を受けるだけでは、ただただ生産性が下がるだけだということを肝に銘じるべきです。

❹販売に手数料がかかる

だいたいの産直ECだと20%程度の手数料が発生することが多いです。売値5000円なら1000円くらい。高いと感じるかはあなた次第ですが、無料ではありません。

「仲卸業者の手数料など、流通段階でかかる様々な費用をカットできる」はずだったのに、結局産直ECの運営者から高い手数料を請求されている。それが現実です。これでは支払先が変わっただけの話ですよね。

自社ECが運用できるなら、このコストは払わなくていいコストです。この金額で自社ECの構築と集客ができるなら。20%は大きいですからね。だったら自社ECをやるよ、という決断をするのは全然アリです。

❺スケールしづらい

たとえば高級ホテルと直接契約を結ぶ1契約も、個人がスポットで1回だけ買う1契約も、契約数としては同じ1契約ですよね。契約をとって売上を立てるのはどちらもそれなりにパワーやコストがかかります。

前者は安定的に大きなロットで注文がきます。でも後者は1回きりでしかも注文量が少ない。これではなかなかスケールは難しいと思いませんか。ビジネスサイズのロットと注文されるロットがかみ合わないので、産直ECだけの個別対応・運用が発生して業務効率が下がることも考えられます。

❷で書いた配送料の高さもスケールを考える上では足かせになります。よくTwitterでこんな主張を見るのですが、こんなこと言う人は正直ビジネスのことが半分くらいしかわかっていない素人です。

・商品代と送料は別だよ
・消費者に送料負担させればいいじゃん
・送料を消費者に負担させるなら安めの金額が表示できるね
・それならどんどん売れるし、送料なんていくらでもいいよね!

ビジネスを売り手側の視点からしか見ることができていないから、こういうことを平気で発言しちゃうんですよ。買い手の立場から物事を考えたことありますかって話です。たぶん「考えたことない」です。

送料がバカ高いECを日常使いできると思いますか?そんなわけあるわけないじゃないですか。僕も産直ECでよく買い物するんですけど、5000円のサーモンを買ったら9950円の請求書が来たことがあります。その生産者のサーモンはおいしかったですが、二度と頼まないです。なぜだかわかりますか?送料が高すぎたからです。割に合わないし、高いと思いました。消費者からすると「商品代+送料」なのか「送料込の商品代」なのかなんてどうでもいいです。最終的に消費者が払った金額が、消費者があなたの商品に対して支払った価値なんです。

配送コストを生産者が負担することになればもちろん利益を食いつぶします。だからといって消費者側に転嫁すれば消費者側からすると支払金額が増えるので、需要が減少します。つまり販売量が減少します。だから結果、利益は減ってしまいます

販売量 × 販売単価 × 利益率 = 利益
A)配送コストは生産者負担
・「利益率」が悪化する
B)配送コストは消費者負担
・配送コストが嫌煙され購入頻度・回数が下がる→「販売量」が下がる

「配送コストを誰に負担させるべきか」はそもそも論点がイケてない

❻意外と難しいリスクコントロール

市場流通のほうが基本的には早く消費者に届くことが多いです。産直ECだと物流の都合上、生産者が梱包して出荷するまでにも時間がかかる(配送受付までの時間)し、運送会社でもまず集荷から始めるので、他の荷物を待たないといけません。

問題は生鮮食品の足が速いことです。鮮度が命な生鮮食品。発送日にもし消費者が受け取れなかったら…?さらに受取日は遅くなりますよ。しかも受け取った消費者がクール便だからといって冷蔵庫にすぐ商品を入れるとは限らないですよね。そんなこんなで商品が腐ったらクレームになるだけでなく、食中毒リスクまで出てきます。小売が販売に責任を持つのではなく、直接生産者が責任を持つわけだから、何かあった時のリスクも生産者は取らないといけないです。

このあたりは産直ECサイドも認識して何らかの保障を入れているケースが多そうな気がしていますが、とはいえリスク自体があるということは認識しておいて損はないと思います。

❼目利きできない消費者と規格の不在

市場流通のような規格が存在しないため、B品を安く売り捌くような低品質の商品と規格品の商品とが同じ産直EC上で売られることになります。まさに玉石混交の状態。農薬や水産医薬品を適切に使用しているかのチェックをする機関も存在しません。

「市場では売れないものも売れる」というのは、規格を満たせない一定水準以下の農作物しか生産できないような生産者にとっては都合がいいかもしれません。でも規格を満たした農作物をちゃんと生産している生産者にとっては迷惑でしかないですよね。トゥリーアンドノーフ代表取締役の徳本 修一さんも産直ECについてこんな指摘をされています。

生産者のコダワリや思いにフォーカスし過ぎ、美味しさや安全性に対する科学的根拠が欠落しているケースが多いように思います

産直ECが考える「日本農業の課題」

消費者がきちんと目利きできればいいですが、大半の消費者は無知で目利きはできません。しかも産直ECは写真掲載だけです。購入した商品と掲載されている写真の商品が完全に一致することは理論上存在しません。消費者が買ったマダイとECに掲載されているマダイは厳密には別の個体です。

だからそもそも目利きできる人ですら適切に目利きすることができません。変な話、写真サイトでほうれん草の写真を購入して魅力的な商品のように見せかけた上で、実際は虫食いだらけの規格外品を送ることだってできるわけです。

有機農法を採用するか、規格を満たせていない野菜をお客様に売るかは全くの別の問題ですが、そんなことまで理解できている消費者は少ないでしょう。むしろこだわりや苦労エピソードが強く押し出された産直ECでは、生産者がB品を出品した方が「もったいない」こんなに頑張ってるのにかわいそうだ!買ってあげよう!」と思われて情けやよくわからない美徳で最初はモノが売れるかもしれません。

もちろん売れている生産者の商品が全部B品だといいたいわけではないですが、もしこんな生産者が増え、そして彼らの売上が伸びていくと産直ECはどうなっていくでしょうか。語弊を恐れずにいうと最終的に「ゴミを高値で売る場所」になります。産地直送でこだわりの品を買いたいと思っていた消費者がそんな産直ECで買い物をし続けるでしょうか?するわけないですよね。

「ちょっとはお金になるんだからゴミにするよりは…」と思うかもしれません。その気持ちはわかりますが、目先の利益に目がくらんで規格外の農産物を産直ECで出しても利益なんて残りませんよ。なぜなら産直ECはコストが高く、安売りするとすぐに赤字になるからです。そろばん弾けばすぐにわかります。

規格外品を売ると自社のブランドが棄損され、商品が安値でしか売れなくなります。経営は赤字になり、手間だけが増えます。いいことはひとつもありません。でもそういうことをやりたくなってしまう。甘い誘惑と常に戦い続けないと、あなたはあなたのブランドを守れないのです。

最後に:産直EC以外で戦う道もある

僕は産直ECでのマーケティングについてアレコレ考察するnoteを書いてマガジン化しているくらいなので、基本的には産直ECを新しい販路として活かしていくという考えに賛同している人間です。ただそれ以上に生産者であるあなたがきちんと利益を残せる経営ができることの方が大切だと思っていますし、そこに向き合うあなたの味方でいたいと思っています。

だから僕はあなたが産直ECに参入しても参入しなくてもどっちでも構いません。産直EC以外の方法で頑張りたいという決断もアリだと思います。

僕自身は産直ECの経営と何の関係もないので、変なポジショントークをする必要がありません。フラットにいいことは良いというし、イケていないところはダメだよねと言います。僕は生産者であるあなたに利益が最終的に残るなら手段は本当に何でもいいです。

お手伝いできること

直売所販売、法人営業、市場流通、ネットスーパー、宅配事業については申し訳ないですが、僕では素人すぎてお手伝いできないかもしれません。物流や市場内流通、おいしい農作物の育て方についてはあなたの方が圧倒的に詳しいと思います。そういう領域では価値を出せません。

でもその分僕が強いマーケティングとUX・システム開発の世界なら、あなたの役に立てるかもしれません。1次産業の経営にまつわる相談を幅広く承ってます。相談は何回やっても無料なので、気軽にTwitterでDMください^^エンジニアも抱えてるので、オーダーメイドでのシステム開発もできますよ。

<僕がお手伝いできること>
●自社EC開発・運用
●マーケ戦略立案・コンサルティング
●SNS運用
●顧客管理システム開発・運用
●生産管理システムの開発・運営 ※養殖魚のみ
●webサイト構築(LP・公式ホームページなど)
●ロゴ・パッケージデザイン
●AI開発

大事なのは売上ではなく、利益です。魚の養殖をされている方にはコストを可視化して自信をもって養殖経営の舵を切っていけるような生産管理の仕組みも提供していく予定です。

産直ECを頑張ってみたい方

マガジンでコンテンツを無料で発信しているので、ぜひマガジン内のnoteを読んでみてください(そのうち一部有料にするかもしれません)。何か参考になることがあればうれしいです。一緒に頑張りましょう!

自社ECの方が可能性がありそうだと思った方

自社ECで勝負していくなら、EC構築と集客戦略が必要です。予算内で自社ECのベストな戦略案をご提案します。開発も運用も集客もだいたいのことはできるので、まるっと任せていただいてもいいですし、部分的にお手伝いすることもできます。まずは気軽にTwitterでDMください。

産直ECは自分には無理だし、自社ECも燃えないという方

今まで通りの市場内流通で頑張って売上を立てていく。そんな意思決定も正解だと思います。どの意思決定も正しいです。僕としてはあなたが決めた意思決定を最大限応援したいです。僕がお手伝いできることは少ないかもしれませんが、それでもここまで読んでいただいたことに感謝です。ありがとうございました!

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