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ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』 タム・リン伝説


私の聖書でありアカウント名の由来でもある、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの小説『九年目の魔法』

ため息をつき、本をベッドに伏せる。前に読んだはずだけど、こんな題名だったろうか? 壁にかかった写真の額を見上げる。これもこんな写真じゃなかったはず。この九年間で本当にあったことと、今おぼえていることが喰い違っている。まるで過去が変えられてしまったかのよう。大学生のポーリィは、十歳のころの思い出をたぐり寄せた。そうだ、近くの屋敷でお葬式が! そこで、あの人、リンさんと出会って、ずっと歳上の男の人なのに仲良しになって、それから……それから、とても恐ろしい何かが起こりはじめた……失われた時を求める少女の、愛と成長と闘いをつづる現代魔法譚!


のベースになっているバラッドに関する調べ物に役立つ情報のゆる~いまとめ置き場。

Tam Lynnのバリエーションはほとんどはスコットランドのものだとしられている(north of EnglandとIreland and a fragment of Unites Statesのものを除いて)

だいぶ参考になるサイト↓

とにかくタム・リンのあらすじを知りたければチャイルドバラッドを読めばまあ間違いない、と。

フランシス・ジェームズ・チャイルドは1825年にマサチューセッツ州のボストンに生まれました。貧しい家庭であったようですが、ボストンラテン学校の校長にその才能を見出され、数々の援助を受けてハーバード大学に進学。1851年からは同大学の修辞学におけるthe Boylston Professor に就任し、以後25年間その地位にとどまり続けました。
「The English and Scottish Popular Ballads」は「Child's Ballads」とも呼ばれ、その中の作品のタイトルをあらわす方法として、当該書籍中のシリアルナンバーが用いられます。以下のリストは第1巻の収録タイトル53曲の一覧ですが、「Child #2」といったら「The Elfin Knight」を指します。

タムリンには多くのバージョンがある。バラードは何百年もの間スコットランドの国境地帯に存在していたことが知られている。最近では、フォークリバイバルとフォークロック界の両方に広がっている。とな。

バラッドあらすじ


 スコットランドのアバディーンシャーに伝わるバラッド。妖精の騎士タム・リンはもともと人間の子で、妖精の女王にさらわれ、騎士となる。舞台はボーダーズ州のカーターホーフの森である。祖父はロックスブルグ公。
精の群れから夏至の夜(妖精の国が人間界に近づく日)にタム・リンを奪還する物語。妖精は次々とタム・リンの姿を変えていくが、彼を愛するジャネットはしっかり彼をつかまえている。


   「ジャネットはバラを2輪摘んだ
   たった2輪しか摘まないのに
   タム・リンは姿を現し、こう言った
   『それ以上、摘んではいけない』
     (中略)
   ちょうど真夜中のころ、
   妖精たちは騎馬行列をするのだ。
   恋人たちを救おうとするなら、
   四つ辻で待たねばならない
     (中略)
   最初の黒馬をやりすごすと、
   次の茶馬もやりすごしなさい、
   だが、ミルクのように白い馬を見たなら、
   急ぎその馬の乗り手を引きずり下すのだ
     (中略)
   ジャネットよ、お前の腕にいる私を、
   妖精たちはイモリやマムシに変えるだろう。
   でも、私をしっかり掴んでいておくれ、
   恐れないで、私は貴方の子の父親なのだから」


 妖精に関する主なものを、ブリッグズはこう述べている。
 1妖精が神聖視する木(バラ)を切ると妖精は怒って姿を現す。
 2妖精の聖なる時(夏至の夜、ハロウィンなど)に、妖精は騎馬行列をする。
 3地獄への貢ぎ物(10分の1税)を納める。
 4妖精界にさらわれた人を人間界に連れ戻すときには、しっかり掴んで離さぬこと。
 5妖精の女王には悪質の面があること、を挙げている。
 さらにもうひとつ、人間の愛情の強さが、妖精界から人を取りもどすときに必要なのである。ジャネットのタム・リンへの深い愛情が、奪還を成功させたのである。


(井村 君江【著】「妖精学大全」より)POEMS BY ADAM LINDSAY GORDON イギリスCopyright (C) Utsunomiya Fairy Museum / Utsunomiya City Board of Education All Rights Reserved.

Tamlaine, James Herbert MacNair
James Herbert MacNair

“Under the Eildon tree Thomas met the Lady” – “illustration by Katherine Cameron from Thomas the Rhymer (retold by Mary MacGregor, 1908)

バラッド原文

O I forbid you, maidens a'
That wear gowd on your hair
To come or gae by Caterhaugh,
For young Tam Lin is there. a' - all

Carterhaugh - area near Selkirk, Scotland.
There's nane that gaes by Carterhaugh
But they leave him a wad,
Either their rings, or green mantles,
Or else their maidenhead.

Janet has kilted her green kirtle
A little aboon her knee,
And she has broded her yellow hair
A little aboon her bree,
And she's awa to Carterhaugh,
As fast as she can hie.

When she came to Carterhaugh
Tam Lin was at the well,
And there she fand his steed standing,
But away was himsel.
.
.
.

大体の共通点

・名前ゆれ Tam Lin /Tam Lynn /Thomas the Rhymer
・ジャネットJanetもしくはマーガレットMargaretは手順に従いタム・リンTam Linを救出する
・ Leydenの“On the fairies of popular superstition”によれば、Lothianに住む農夫はハロウィーンに妻を助けることができなかった(Lowland Scotlandに様々なバリエーションあり)


・農夫と同じ失敗をおかす例
A:結婚した女の子がその夜連れ去られる/彼女は二人の兄にa white horseに乗っているので連れ帰ってくれと伝える/て最後に現れた妹を引き戻す力が彼らにはなく二度と会えなくなった
B:女の子はthird grey horseに乗っていると告げる/馬の両脇にはlads若者がいる/彼らが私の手綱を放したときは彼らを私に近づかせないようにしてほしい/妖精たちはvengrace(復讐)のために私を殺すだろう//男たちが手綱を放したとき妖精は賑やかに笑い彼女を石の上で殺した
C:Halloween Eveの前の夜連れ去られた労働者の女性/Halloween Eveに会おうと告げる/彼女はthird horseに乗っている/もし夫が強くなければ次の朝家の壁は彼女の血で赤くなるだろう/夫は妖精のトリックに屈してしまい、次の朝家は彼女の血に染まった

・失敗で物語が終わらずまだ回復するもの
D:連れ去られたReilly of Cristnacoleは毎晩馬で駆けていた/彼の母親が相談した魔女は彼の脚を引っ張れというが失敗した/暫くして彼の親友にその話をする/男の子は成功しReillyを連れて帰るが彼は何年か寝たきりだった


E:ある男の妻が妖精と取り替えられた/取り替え妻は死ぬ/男はそれを妻としてウェイクwake(アイルランドの通夜)した/しかし夜な夜な本物の妻がベッドをかけにくる/本物の妻は死んではいなかったが家に留まることもできな/男はa white horseから妻を降ろして連れ帰り/妻は長生きし子供をもうけた


F:妻を取り戻すためにNewmarket近くのGarranawarrig のfort (fairy hill)へ向かう/Holy Waterの一瓶がいる/それを道に円を描いて撒いておく/妻を馬から引きずり降ろしたらその輪の中へ/無事二人は家に帰るが二度と笑うことが出来なくなった


G:ある教区の男の妻が死ぬ/夢でthe third last horseに乗った妻に聖水holy waterをかけ彼女とサドルとをつなぐ結び目knotを a black handled knifeで切ればよいと知る/その通りに行うが力が足りず妻はまた馬に引きずりられてゆき彼女の悲鳴は国中に響いた/いまでも聞こえる

H:男はHoly Waterとを a black handled knifeとhank of green thried(緑の糸束)を用意/最後の馬に乗った妻を静水圧の輪に引きずり込みnine pieces of the green thriedを彼女の方肩に置けば助かるという/ナイフで男は地面に円を描き、中心に突き刺しておく/聖水もまく/1時に死んだ者たちが馬に乗ってやってくる/妻に聖水をかけ肩に緑の糸をかけ馬から引きずりおろした/死者たちはみなそのままいき、妻は妖精の力から免れた


→つまりJanetは伝統や手順にしたがってヒーローを救っている
・連れ去られた物語The person takenは助ける者the rescuerにどこでいつ待てといい、正確な場所名前や時間を告げる

この正確な情報はmortal(死せる者)が季節の旅をするfairy troopを遮る手段

妖精は堕天使fallen angelsとされる/hellに属するものではなくdevilやLuciferに犠牲を払わねばならない

・妖精から免れても元通りの人間とは限らない。視力sightを奪われることもかなりある(supernatural eyesightを手に入れた者の)

・掴まる相手を恐ろしい外見に変えるOvidによるMetamorphosesにおけるPeleusとThetisの伝説と共通する


・Tam Lynnはwell waterに投げ込まれる。これはScotlandのThe Foxという民話にみられる

・裸になった者に服を着せるという行為は緑の糸を肩にかけるのを元にしているのかもしれない?→TamLynnのballadの作り手 は多くの伝統に通じていたことがわかる/史実を伝えることを全く考慮しなかったとはいわないが、事実的な真実にこだわらなかった


ジョアン・ハリスが紹介したタムリン

英国作家はみんなバラッドに詳しい。ステイホーム期間中英国小説家ジョアン・ハリスはチャイルドバラッドを紹介する企画をやってはった…100以上シリーズ化しててなかなか面白かった。(@Joannechocolatt)

Most variants begin with the warning that Tam Lin demands a fee from any maiden who passes through Carterhaugh forest. When a young woman (named Janet or Margaret), goes to Carterhaugh and plucks a double rose, Tam appears and asks her by what right she has taken what is his.

Margaret repliess that she owns Carterhaugh because her father has given it to her. She then goes home to discover that she is pregnant. When challenged, she declares that her baby's father is an elf whom she will not forsake.

She goes back to the forest and finds Tam Lin. She asks him whether he was ever human. He reveals that he was once a mortal man, who, falling from his horse, was caught and captured by the Queen of Fairies.

Every seven years, the fairies give one of their people as a tithe to Hell and Tam fears he will become the tithe that night, which is Hallowe'en. He is to ride as part of a company of elven knights. Janet will recognise him by the white horse upon which he rides.

He instructs her to rescue him by pulling him down from the white horse - so Janet "catches" him this time - and holding him tightly. He warns her that the fairies will attempt to make her drop him by turning him into all manner of things, but that he will do her no harm.

When he is finally turned into a burning coal, she is to throw him into a well, whereupon he will reappear as a naked man, and she must hide him. Janet does as she is asked and wins her knight. The Queen of Fairies is angry but acknowledges defeat.

ジョアン・ハリスの代表作↓

エレン・カシュナーのタム・リン

受賞歴のある作家エレン・カシュナーがインスピレーションを得て古代のバラッドを語りなおしたやつ。邦訳もあるね。

その昔、類まれな美貌と比類なき詩歌の才を授かった詩人がいた。その名はトーマス。ある日、彼は白馬に乗った美しい貴婦人と出会った。その正体は、トーマスに惹かれてやってきた妖精の女王だった。女王は、7年間愛人として仕えることを条件にトーマスをエルフランドルに連れてゆくが…。〈まことのトーマス〉と呼ばれた伝説の吟遊詩人の波乱に富んだ生涯をあざやかに謳いあげ、1991年度世界幻想文学大賞に輝いた珠玉作。

エレンカシュナーの「タムリン」についてニール・ゲイマンは

“Elegant and beautiful . . . a magical tour-de-force shot through with strange melodies. I loved it.” – Neil Gaiman

とコメントしてたよ。

九年目にでてくる作品たち

DWJの目標は "to write a book in which modern life and heroic mythical events approached one another so closely that they were nearly impossible to separate”「現代の生活と英雄的な神話上の出来事が互いに接近し、分離することがほぼ不可能である本を書くこと」だったそう。重なりあいすぎて不可解な物語になっているのがファンを飽きさせない彼女の魅力やんね。

文学


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