【関西人がゆく】 #7 京都・丸太町 「竹邑庵太郎敦盛」
「ウェイト! ウェイト! ウェイト!」
そう大声で叫ぶ数人の外国人に、私の同僚は、羽交締めにされ、取り押さえられた。
なんとも言えない表情で私を見上げる、同僚。
ああ、捻り殺される人間は、最後にこんな顔で逝くんやなあ、などと思ったものである。
そんな昼下がりの京都御所。
* * *
竹邑庵太郎敦盛。
通称、敦盛。
人生五十年、下天のうちに……。
京都御所の西に位置するその店は、あの「平家問題」を孕んでいた。
丸太町駅から烏丸通を上る(北上する)。程なくして左手に小路があるので西に入る。
出ました!
石畳の小路。
すれ違う人と肩が少し、触れるか触れないかの絶妙な設計。
突然、迷い込んだ人は、急に視界が狭まり、小路の最奥に視線が釘付けになる。
鎮座する、祠。
賽銭を投げるべきか?
ぱんぱんと柏手を打つべきか?
それとも土下座するべきか?
沈黙する、平安京のセットたち。
入店する道程で、したたかに田舎者にのしかかる、圧。
そして、ようやく辿り着く、店の軒先。
え?
民家?
敦盛は、民家を改造した作りである。
十二段家の厳しい作りを予想していると拍子抜けするかもしれない。
そんな敦盛の軒先は、こうのたまうのだ。
あんたはんら、うちの敷居、跨げますの……?
京都人との駆け引き、ほんま疲れるわ。
引き戸にかけた手をポケットに仕舞い、俯いて小路を抜ける田舎者(私)。
* * *
府警のお巡りさんが慌てて駆けつける。
サングラスの巨人たちに身振り手振りで説明している。おそらく、私たちが一般人であることを言っているのであろう。
ここ数日、京都御所は、厳戒体制であった。
立ち入りは禁止され、御所の門にはことごとく警察官が立っていた。
緊迫の平安京。
ただ、この日は、一般に御所は開放されていた。
警察官のおかげでようやく巨人から解放された同僚は、顔をしかめながら立ち上がり、膝をパタパタと払った。
* * *
敦盛のそばは、普通ではない。
ここでしか味わえない。
好き嫌いが分かれると思うが、今でも私は無性に敦盛そばを食べたくなる時がある。
* * *
その日、缶ビールを傾ける、自宅。
テレビがだらだらと時を刻む。
「本日、小泉純一郎総理は、アメリカのブッシュ大統領と、先日落成した、京都市上京区の京都迎賓館で首脳会談を行い、その成果を……」
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