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幸せはあなたと「ハッピーマニア」について語り合うこと(後ハッピーマニア 5巻)

◆ネタバレがあります

加代子、シゲカヨ。
自分はかなりの野良犬体質なのに、なぜかいいとこのボンボンや真面目男子に好かれがち…。
勝手気ままに見えるけれど、実は意外と筋が通っているから?

誰に頼まれたわけでもないのに「後ハッピーマニア」を何度も何度も読み、誰に頼まれたわけでもない感想を書き綴る…今回はその5巻。
現時点の最新巻についてです。

ストーリーはタカハシと離婚してバイトをはじめた加代子と、加代子の勤務先「都倉探偵事務所」の事務員・井澤がデートするところから。
どうやら井澤は加代子を意識しているようなのです。

彼は未婚で38歳(落ち着いていて40代にしか見えないけれど30代)。
離婚した夫・タカハシと言動やルックスが似ていて、加代子は全然ときめきません。
タカハシ自体もともと加代子好みのイケメンというわけではないし、タカハシの浮気で離婚したという苦い過去もあるし…。

でもとりあえず一緒にご飯を食べてみると、井澤とは意外と気が合うというか、落ち着くというか…。
そして井澤はタカハシと似ているところもあるけれど当然ながら別人で、長年探偵業に携わっているので結婚に幻想が無く(クライアントから不倫の調査を依頼されるのが日常茶飯事だし、両親も離婚している)、自身もひどい振られ方をした経験からむしろ女性に苦手意識を持っており、女慣れした感じが全然ありません。

なんとなく井澤に興味を持った加代子は、食事のあとつい
「ラブホ行きません?」
と直球で誘いますが(この時に佳代子が着ている野球ユニフォームが…(^▽^;) こらこら…。ぜひ漫画を見て下さいね)、井澤からは
「あなたのことをよく知らないから、もっと時間をかけて…」
という昭和の女子大生のような返事が…。
あまりにも誠実で有難い申し出に、逆に困惑してしまう加代子…。

一方で加代子の親友フクちゃんは、夫の秀樹を愛人の寿子から取り戻すべく、計画を着々と進めています。
「秀樹を愛しているから」というよりはフクちゃんへの嫉妬がベースにあり、フクちゃんが経営する会社「ウィステリア カンパニー」のパクリ商品を盛大に作って臆面もなくいやがらせをする寿子(彼女も化粧品会社の社長)。
パクリなので開発費がかからずジェルやマスカラを安く売っては莫大な利益をあげたり、ウィステリアの有能なスタッフを汚い手を使って引き抜いたり…。

フクちゃんは妻として経営者として、ここからは彼女に一切容赦しないと決めています。
そういう時のフクちゃんは本当に強いしカッコいい!
マグマのような怒りがあるのですが、それをおくびにもださず、にこやかに冷静にカードを切れるのです。
艶然と笑って人を斬る…フクちゃんの真骨頂。
透徹した大局観があり、相手のどんな手も読み切っている。
彼女の詰み筋に狂いはありません。

まずは寿子のうちに入り浸っていた夫の秀樹を本宅(自分のうち)へ呼び戻すべく、文句を言いたいのをこらえて彼を優しく迎えます。
我慢が苦手で常に居心地がいい方に行きがちな秀樹(この性格も本当にどうかと思いますが…)、急に優しくなった妻を疑うこともなく、しょっちゅう本宅に戻ってくるように…。
一方で秀樹がよりつかなくなった寿子は、秀樹の携帯にフクちゃんと翔太の浮気写真を送りつけてきます(もとは翔太も寿子のさしがねでした)。
でも、それは想定内。
一切動じないフクちゃんに、今度は秀樹の恥ずかしい写真を送信し、同じものを会社にも送ると脅迫する寿子。
これはもう警察や弁護士に持ち込める明らかな「犯罪」、フクちゃんとしては「してやったり」です。
そしてここまでくると、秀樹も寿子とは別れたくなっています。

このあたりはこれまでの鬱憤を晴らすような、フクちゃんの賢さと人間力を見せつける胸のすく展開なのですが、でも一方で、これだけ浮気を繰り返す秀樹とどうして別れないかな…と疑問が湧いてきす。
加代子も
「とりもどさなくてもよくね?」
と言っていますが、秀樹はこれまでも何度も何度も浮気を繰り返し、フクちゃんが把握しているだけでも寿子を入れて6人…。
一部上場企業の社員で高給取り、長身でイケメンでモテモテ(だから浮気は容易)、妻が働く事に理解はある、でも協力はしない…。
前号の「愛人が同時進行で8人」の田嶋にも(漫画とはいえ)唖然としましたが、秀樹もたいがいです。

大金持ちで美人で賢いフクちゃんは、秀樹と離婚しても(再婚するにしろ、しないにしろ)きっと幸福になれるはず。
もし別れたければ、賢くて心優しい息子のヨージは決して反対しないはず(父親が嫌いではないから、寂しさは覚えるとしても)。

でも別れない。

これまで読んできて、フクちゃんと秀樹がすごく似ているのは分かります。
頭が良くて社会性があって、きちんと空気を読む。
みんながすることはするし、世間から後ろ指を指されるようなことはしない(浮気はするけど)。
ブランド信仰があり、物欲も性欲も強い…。
でも、そろそろ、フクちゃんは本気で考えないといけないのです。
秀樹といることがほんとうに幸せなのか?
自分にとっての幸せとは何なのか?
彼女はこの漫画のもう一人の主人公、正真正銘の「ハッピーマニア」なのだから…。

ところで佳代子はフクちゃんの息子・ヨージと仲がいいのですが(母親であるフクちゃんが嫉妬するほど)、これは幼い頃からしょっちゅう遊んであげたり面倒を見ていたという絆だけではなく、2人とも他人の顔色や世間の風を読むよりは自分の直感を信じる、常識に左右されず自分の頭で考えようとする、という共通点があるからではないかと思います。
要は似た者同士。
年齢を越えて本音で話し合える仲で、この巻でも一見仲たがいしているように見えて、実はとても仲良し。

彼らのピュアネスは「愛は深いけれど、何をするにも必ず算盤をはじくフクちゃん」が傍らにいてくれるからこそではあるのですが、ヨージが両親を含む全ての大人が信じられなくなったとき、加代子だけには心を打ち明けられた…その理由は分かる気がします。
ちなみにタカハシとその母と、ヨージとフクちゃんは相似の関係ですね。
つまり加代子とヨージは良く似ていて、ヨージとタカハシも良く似ている。そしてタカハシとよく似た井澤も…。

加代子はいいとこのお嬢様ではないけれど、いいとこのぼんぼんで東大生だったタカハシに好かれ、本当はただの事務員ではなく実は所長だった( ! )井澤に好かれ…。
彼女が持つ純粋さ、そして独特の潔さが彼らと共鳴しているのでしょうか?加代子は小さなズルはするけれど、決して卑怯なことはしない。
なぜなら、彼女はただ単に「ふるえるほどの幸せ」が欲しいだけだから。
物欲はない、お金にもそれほど興味がない、承認欲求のお化けでもない。
間違ったら引き返す勇気がある、謝ることも出来る。
このあたりはプライドが高すぎて身動きが取れなくなることがあるフクちゃんと随分違うのです。

加代子は井澤とデートしつつ、ときめかないだけでなく彼にどうしても興味が持てない自分に気付きます。
興味が無いのに、自分を求めてくれる存在が欲しくてつきあってしまった…申し訳ないことをした。
そう気づくと、仕事については心配であるものの
「もう会うのはやめましょう」
と告げます(井澤はあとから、ここで加代子が改めて好きになったと告白します)。
ですがその直後に急病(ぎっくり腰系)で動けなくなり、「会うのをやめよう」と言ったのにも関わらず井澤は優しく介抱してくれ、ついに彼と一線を越えてしまい…。
そしてそのセックスで今まで経験したことがない「高み」を経験してしまうのです(笑)。
加代子はびっくりし、ときめきはないけれど流れで交際することに…。

そしてひき続き都倉探偵事務所で働くのですが、自分でも予期していなかったのに今度は先輩探偵の細谷にときめいてしまいます。
今はときめきとか要らない…と思うのですが、恋は予測不可能。
細谷の一挙手一投足にときめき、頬を赤らめたり動悸がしたり…心はまだまだ初々しい加代子。

それにしても…この5巻はさりげなく、いろいろなことが提示されています。
加代子は誠実で優しい井澤から好意を持たれますが、この「好かれる」「モテる」「求められる」は悪い気持ちにはならないけれど、実は本質的な幸せをもたらさない。
ヒモ稼業の三島も、モテモテで女性に不自由しない人生だけれど実のところ幸せには程遠い。
どちらも大金持ちのフクちゃんと寿子のやりとりから、お金も幸せをもたらさない(もたらすとは限らない)。
フクちゃんと秀樹を見ていると、結婚も幸せをもたらすとは限らない(むしろ苦労の連続。前号で揉めていた田嶋と麻衣子も結局離婚したし…)。
フクちゃんより加代子に心を開くヨージを見ると、子どもは親にとっても大きな喜びだけれど、一方で悩みの種にもなる。
細谷は有能な探偵だけれど仕事をしてすごく幸せという感じではないから、仕事と幸福も直結しない。

そして加代子は自分でも予期しなかった恋に落ちるけれど、恋のときめきさえ、幸せをもたらすとは限らない。
では何を手にしたら幸福になれるのでしょう。
ハッピーマニアはどうしたらいいの?

巻末で、加代子とフクちゃんは蕎麦屋に行きます。
天せいろを食べながら日本酒を酌み交わし

フクちゃん「あんた…いまだにエビ天最後までとっておくのね」
加代子「人間年とったくらいじゃ そう簡単に変わんないよね」
フクちゃん「あいかわらず くつ下ま先っぽたるませて歩いてるし エビ天は最後まで大切にとっておく 友達は一人だし ホントは男のことなんて実際どうでもいいと思ってる」
二人はカンッ と日本酒を満たした切子グラスで乾杯。
                      (後ハッピーマニア5巻より)

そう、二人は既に「男」すらどうでもいい…。
だったら、だったら何?!
…ただ、このシーンを読んで少なくない人が思うはずなのです。

いいな、加代子もフクちゃんも。
こんなに理解し合える親友がいるって…
これこそ人生の幸せなんじゃないの?

この二人はハッピーマニアだけれど、既に自分のハッピーで気づいていないだけじゃない?
そしてこの漫画はハッピーマニアである加代子の奇行を笑う漫画ではあるけれど、ここに出て来るキャラクター全員がハッピーマニアで、そして読者のである私達もハッピーマニアで(どうしても映画の中で映画館の客席を映していた某監督を思い出してしまうのだけれど…)、そして、もしかしたら、みんながハッピーをもとめて右往左往していること自体がハッピーなんじゃ…ないの?
違うのかな? で、加代子は細谷とどうなるのかな?

そんな疑問を胸に、私は来春の第6巻発売を待つことにします。

(つづく)


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青柳寧子
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