幸せはあなたと「ハッピーマニア」について語り合うこと(後ハッピーマニア 4巻)
◆ネタバレがあります!
唐突ですが、あなたの人生を円グラフにして頂けますか?
えーっと最近の私はというと…
こんな感じ?
あまり面白味のない人生が可視化されてしまいましたが(笑)、なぜこんなことをしたかというと、「後ハッピーマニア 4巻」はこの円グラフが主役。
それぞれの人生を何がどのくらい占めているのか、そしてそれらを自分とパートナーだけで賄(まかな)えるのか…?
「男も女も浮気する 一人じゃ足りないから」
とうそぶく8人の愛人を抱えるモテ男・田嶋と、その妻・麻衣子。
そして麻衣子の愛人・三島、三島を仕方なく匿っている(そして元・田嶋のセフレでもある)加代子のやりとりがメインイベントとなります。
そもそも何で田嶋は8人も愛人がいるのか?
「人数が多いと大変では…」と思う方も少なくないでしょう(加代子はそう突っ込みましたし、私もそう思います)。
でも彼の理屈によれば浮気相手にはそれぞれ役割があるそうで、
一緒に旅行に行く人、食事する人、セックスする人…etc(旅行に行く人とはプラトニックかというと、そういうわけでもなさそうですが…)
彼がもとめる役割を全部を妻一人で賄うのは難しい、自分の円グラフのお供を一人の人間がすべて満たせるわけがない(そんな人はいない)。
だから浮気する。
…こういう主張、というか人生観のようです。
(ちなみに私の円グラフは、夫、仕事を下さる方々、noteを読んで下さる皆様、店のお客様、スタッフさん、友達、両親やきょうだいや親戚(順不同)の皆様で十分潤っていて、愛人の必要性は特に無いです。田嶋ってひとりでいる時間は好きじゃないのかしら?)
この理屈、ツッコミどころ満載なのですが、とりあえず蕎麦屋の女将からひとこと言わせて頂くと、
実在します、田嶋みたいな人!
実際
「妻を選ぶときは、僕が何をしても許してくれる人にしたんだよね~」
というカウンター中の女性がどんびきする発言をしつつ、日々公然と浮気している方…。
大概田嶋と同じく妙な可愛げがあって、おもしろくて、すごくマメ。
冷静に考えたら非常に不安定な関係を不倫相手に強いているのに、場数を踏んでいるから本人にはすごく落ち着きがあって、その落ち着きが安定した雰囲気を醸し出して女性もなんだかよく分からないけれど安心してしまうという関係性の錯視を誘う中年マジシャンというか、ちょっと色っぽいミドルエイジ策士というか…。
女性はというと…不倫している方はいらっしゃらないこともないのですが、様相は全く違います。まず愛人の数を増やす方向には滅多に行かない。
何より既婚女性の恋愛は、
「こ、これは、帝劇の芝居…(チケット高いよ)」
という凄みを感じることがあって、全体に肝の座った女優感があり、所作に覚悟があってチャラっとした策士感はほとんどありません(後ハッピーマニアでもフクちゃん、麻衣子は明らかにこのタイプです)。
シングルの女性が既婚とお付き合いする場合は、また全然違うのですが…。
もちろん、上記は私の想像というか、邪推も含んでのこととご了承下さい。カウンターに立っていると、ときおり
「実は私達は夫婦じゃなくてね…」
というざっくばらんなお話を伺うこともありますが、大概は会話の端々の「匂わせ」(ご想像にお任せしますね…)だったりして、多くは確証のないものがたりではありますから…。
しかし、この「一人ではすべて賄えない問題」。
皆様はいかがお考えでしょうか?
確かに仕事、趣味、食の傾向…すべてが同じ夫婦なんていないと思います。
うちの場合、夫は音楽にものすごく詳しくて、日夜楽曲の検索をしているし、最近はそうでもないけれど以前はライブにもよく行っていたし、若い頃はクラブで踊っていたし、DJをするくらいだし、お友達も本職のミュージシャンだったりDJだったりで、私は全くついていけないことが多いです。彼が話すミュージシャンの名前もよく分からなくて、
「私と話していても物足りないだろうな…」
と思うことは多々あります。
一方で私は子供の頃から本を読みまくっているし、職業的にブックレビューを書いていましたし、読書量は彼よりずっと多い(ただ夫もかなりの読書家ではあって、例えば私はまだの「三体」も、全巻読んじゃってますが…)。
また、物書きとしての喜びや苦労、焦りや苦しみはどうしたって分かってもらえません。
他にも、夫は辛い物大好きだから辛いものを食べに行きたい(私は辛い物が苦手、あと乳製品も苦手)、ホラー映画も戦争映画も観たい(私は怖がりだから肝心のシーンで目をつぶったりして、映画館だとお金が無駄になる)、テレビが大好き(私はそれほど好きではない)、夜更かし大好き(さっさと寝て早起きしたい)
かなり違います。
でもね、だからといって、そのジャンルごとに愛人を作っていたら身がもたなくないですか?
というか、苦手ジャンルはむしろ自分が広がるチャンス。
単純に、夫婦で教え合えば世界が広がると思うのですが…面倒でしょうか?
百歩譲って、いい年のパートナーに今さら1から何かについて教えるのもアレだということなら、その道に詳しい友人と話せばいい。
今はSNSもあるから会ったことがない人ともマニアックな情報交換ができるし…それじゃダメ?
やっぱり性欲の多寡の問題かしら?
しかし麻衣子も田島も性欲はそこそこ旺盛に見えるから、この点は夫婦でバランスはとれているようにも見えます(麻衣子はストレスや承認欲求が肉欲に形を変えている可能性もありますが…)。
面白いのはカウンターにいらっしゃる浮気する男性も、田嶋も、
「妻は浮気しない」
という(謎の)前提に基づいて行動していること。
実際田嶋は妻・麻衣子が浮気していると知って自分でも驚くほど動揺します。
手始めに素人で安く頼める加代子に尾行させ、探偵の才能がある加代子は麻衣子が浮気している証拠写真を撮りますが、改めて探偵社にも依頼。
自分のことは棚に上げて、妻と浮気相手に罰を与えなければ…と思うのです。
つまり自分はあちこちで浮気するけれど、妻は自分ひとりを愛して、他の男に目もくれないでいてほしい。
自分は妻一人ときちんと向き合うつもりはないけれど、妻にはそうして欲しい。
冷静に考えたら虫がいいにもほどがありますが、これが本音なのでしょう。
麻衣子は、田嶋が気づかないだけで愛人達からの嫌がらせを受けていることを告げます。こういう話は実際によく聞きます。愛人の中には、不倫相手(この場合は田嶋)を心から好きになってしまう人もいるでしょう。それはそれで仕方のないことです。
そうなると邪魔なのは妻。離婚して欲しくて妻にメールしたり写真を送ったり、実際にニアミス(のふりを)して嫌みを言いに行ってみたり。
麻衣子はそれに耐えるためには自分にも愛人が必要だと主張するのです。
離婚しないためには、夫婦のバランスをとるためには自分にも愛人が要る、だから彼女の浮気相手の三島には感謝すべきだと。
荒唐無稽な話にも聞こえますが、でも確かに、発端は田嶋の浮気。
とはいえ、振り返れば、麻衣子ももとは田嶋の浮気相手で、それが田嶋の妻にバレて、晴れて2番目の妻になったわけで…
因果は巡る。
ここへ来て麻衣子は自分が追い出した1番目の妻と同じ目に遭うわけです。
40代、50代くらいになってくると、自分がそれまでやってきたことに突然復讐されることがあります。
私は物事のすべてが自己責任だとは思いませんし(人生には結構な割合で天災が訪れるもので、比喩でない天災も、比喩である天災も、どちらも防ぎようがないものだったりします)、
ものを知らない若い人が向こう見ずなのはそれはそれで仕方ないし、ある意味失敗するのも大事な経験だし、もちろん私自身も間違いだらけだったし傷だらけの失敗だらけですが…、とにかく
あ、あれは他人(ひと)からはこう見えていたのか…
あの人にこんな迷惑をかけていたのか…(自分が迷惑をこうむってはじめて気づく)
など、自分がしてきたことを逆方向から体験せざるをえない局面が来たりするのです(もちろん反省を含んだ悪いことばかりではなく、思いがけないご褒美のようなこともあると思いますが)。
麻衣子は田嶋が大好きで、子どもにも恵まれ、田嶋のすべてを自分のものにしたかった。
ところが田嶋はそんなつもりは全然なくて、麻衣子一人と向き合う覚悟もなくて、相変わらずの無責任だった。
麻衣子が出会った時からそうだったように…。
そして麻衣子の愛人の三島も、麻衣子のことは好きだけれど彼女のすべてを受け止めることはできなくて…。
結局麻衣子は一人ぼっち。
夫の心は離れている、仕事は無い、そして子どもはいる。
どうしてだろう…ただ、夫を激しく愛していただけだったのに…。
加代子は夫婦の修羅場を目撃し、自分と似た境遇の麻衣子を観察しつつ、恋愛で消耗する感じを久しぶりに味わいます。
よくよく考えれば人を好きになるって「意志」によるものでもなく、ある意味で嵐に巻き込まれるようなものですが、いずれにせよ本当に感情が削られるもので…。
そしてこの「すごく好き! 大好き!!」という引力は、状況や方向によってはものすごい破壊をもたらすことがあるのです。
4巻ではタカハシが詩織と暮らし始め(しかし会社では相変わらず四面楚歌)、フクちゃんの化粧品会社は経営危機、しかも商売敵は夫の浮気相手・寿子の会社(寿子の会社はフクちゃんのところの商品をパクリまくって絶好調)。
加代子は働き始めた探偵会社の事務員になんだか好かれているようで…。
そして5巻に続きます。
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