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2024年アニメ映画評49・「ふれる」

 長井龍雪監督・岡田麿里脚本のオリジナル映画。このタッグは「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」ヒット以降、定期的にタッグで作品を作っており、映画「心が叫びたがっているんだ」「空の青さを知る人よ」やテレビアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」なんかがある。映画に絞ると、いずれも所謂「泣きアニメ」というべきお涙頂戴路線で、今作もその系列だ。出来は普通くらいで、絵はいいけど、話は凡庸。5点くらいかな。予告編で大体の話が分かるのが最大の瑕疵。主人公達がツケを清算する物語である。
 離島に住む小学生・秋は口下手なため孤立していたが、ある日、海辺の祠で伝説の生物「ふれる」に出会う。ふれるに触れたことのある人間同士は、接触によって互いに考えを察知し合えるようになり、秋はその力で同級生の諒・優太と親友になる。20歳になった3人とふれるは上京してシェアハウスを始め、秋はバーのアルバイト、諒は不動産会社社員、優太は服飾専門学校生徒となる。ある夜、秋は、ひったくり犯を捕まえて被害者の女性・奈南と知り合う。後日、彼女は友人・樹里と共にバーへお礼に現れる。店にいた秋ら三人は彼女達と意気投合。その後、ストーカーに悩む奈南の頼みで、五人は共同生活を始め、二人もふれるのことを知る。秋は樹里へ好意を抱くが、告白の勇気が出ない。一方、優太は奈南を好きになり、キスに成功するも奈南に恋愛感情はなく、ショックを受けた優太は秋と諒による嫌がらせを疑う。シェアハウスを出た奈南はストーカーに襲われて入院。その犯人は専門学校教員で、師事していた優太は自責の念にかられる。また、秋も遂に樹里へ告白するが、彼女が諒の恋人と判明して二人は対立する。そうした体験を経た三人は、ふれるが仲違いの原因をフィルタリングしていると気が付く。三人が険悪になったことでふれるは暴走、色々な人の思考を勝手に繋げて混乱を引き起こすが、ふれるの寂しさを秋が受け入れたことで暴走は止まる。後日、シェアハウスを解消した三人は各人の道に向かって旅立った。
 絵は高クオリティで、見やすくキレイだが、昨今の日本アニメ的な、光によって美しく見せる演出が多い。京アニと新海誠がハネて以降、激増した形式で食傷気味だ。後、楽曲に合わせて成長や生活の移ろいを見せる、MV演出も最近増えていて本作でも採用されていた。
 メインは秋の成長譚で、子供時代に折り合いをつけるべきことを大人になって再履修する話。その意味で、彼は少しアダルトチルドレン的なのかも。家庭環境が口下手の原因とされていたし。本作の中心は、相互理解の意味というテレ朝のアニメ・特撮が好きそうなネタだが、相互理解ができていたと思っていたら違ったという展開は少し珍しい。結婚をネタにした作品だとよくあるんだけどね。ふれるを介した三人の世界は所謂「ホモソーシャル」で、その調和を崩すのが恋愛なのはリアル。友情よりも恋なんすわ。互いに表裏を知悉するのが真の人間関係だと、「おジャ魔女どれみ」で聞いたようなオチに逢着するのは平凡だが、そうは言っても結局、人間関係は言い合わないと話にならんから仕方がないだろう。ありふれた主題に超能力を噛ませて新味を出したといったところ。
 ふれるはTwitterのメタファーで、その点は本作で(驚くべきことに)直接言及されている。分かりやすさ重視とはいえ、少しダサくない? ただ、ふれるをTwitterあるいはもっと広くSNSのシンボルとしていることからも明らかなように、本作の命題はエコーチェンバー批判だが、エコーチェンバーはネット上で都合のいい情報にしか触れないという意味で、秋達に見られる、対面した他人を多義的に理解するという話とは少し違う気がする。秋達の問題点は、偏った情報源からしか情報を得なかったことではなく、そもそも情報を集めようとしなかったことにある。
 本作の恋愛要素には三人の成長を促す機能があるが、惚れた腫れたが少し安易ではある。特に、ややこしい性格の秋が少し優しくされたくらいで惚れるとは思えない。心の溶解する強めのエピソードが欲しかったか。まあでも、本作のような幼稚な恋愛は20代ならあるあるで、薄っぺらい感じも惚れた理由が弱いところもリアルと言えばリアルだ。ただ、アニオタから女性キャラへの嫌悪感が激しいところを見るに、実写の方がよかったのかも。
 メイン声優は三人とも滑舌悪いなあ、と思ったが、前田拳太郎は「リバイス」で慣れているのか声質は割とアニメっぽかった。永瀬廉も「ドラえもん」で声優をやっていたがが、うまい、とはならず。あと、日笠陽子が出てんのかな、と思ったら白石晴香だった。
 それにしても、本作は円盤を販売しないんだろうか。


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