2024年アニメ映画評48・「劇場版「オーバーロード」聖王国編」
異世界転生アニメの映画化。テレビアニメは2015年から四期に渡って放送され、本作はその直接の続篇。なんでも原作は完結間近らしいが、五期は果たしてやるのかどうか。シリーズの中では本作が一番面白い。6点くらい。
「オーバーロード」シリーズは、MMORPG廃人の鈴木悟がひょんなことからゲーム内キャラクター・アインズの姿と能力を保持したまま異世界転移し、彼と一緒に転移して自我を持つようになったNPCと共に異世界を侵略する筋立てである。ポストコロニアリズム批評が好きそうなネタだが、ちゃんとした論があるのかはよく知らない。
2010年代から流行した異世界転生系作品の一種と言えるも、厳密には異世界転移作品であり、MMORPGの設定を流用している点で「SAO」や「ログ・ホライズン」の系列に属する。この二作との違いは主人公サイドが魔獣や亜人である点で、「MOON」や「UNDERTALE」っぽい感じがあるものの、本作の魔獣は「ドラゴンクエスト」や「葬送のフリーレン」、「六花の勇者」に近い、対話不能な存在として人類から見られている。まあ、とはいえ、主人公が元人間のアンデッドなため、極端に不通ではないが、彼が、自信と倫理観の欠如した人物である関係上、話にならないことも度々。主人公側が魔獣や亜人だけで構成されるのは「転スラ」へ影響を与えていると思われるが、本作の方が荒んでいる。ちなみに異世界で無双する話は民話から見られるもので、さほど珍しい範型ではない。人類共通の夢なのだろう。
「オーバーロード」シリーズはファンタジーや政治劇としては凡庸だが、ホラーとしてならそれなりに面白いところがあり、アインズ根拠地へ侵入した冒険者の話や、黒い仔山羊による虐殺シーンは割といい。それ以外は、基本的にアインズのマッチポンプが描かれているだけなので微妙。
本作では、ローブル聖王国なる、貴族と王侯が対立した国家への侵略が描かれる。要約すると、デミウルゴスという魔物をアインズらが聖王国に送り込み、自ら討伐へ乗り出す。一度は敗れたふりをしてアインズは失踪、それを探すために本作の主人公・ネイアがアインズ側のモンスターであるシズと共にデミウルゴスの根城と思われる箇所へ侵入するなどする。結局、見つからないまま、デミウルゴスが再度攻めてくるが、その際にアインズは意気揚々と帰還、デミウルゴスを倒すふりをする。聖王国庶民は彼を英雄視、これを機にアインズ達は内部から聖王国を乗っ取る。
映像はまあ普通だが、テレビ版より良くなっていた。ただし、相変わらずアクションはしょぼい。アインズVSデミウルゴスはもっと派手にしてもよかった気がする。ネイア視点の作品だから、彼女の目で捉えられないものは描写しなかったんだろうが、そのせいでやや盛り上がりに欠けた気がした。
テレビの続篇だが、これは映画でやっても問題はなかったなあ、と思う程まとまっていた。ただ、聖王国の政治体制や経済状況があまり描かれないので、南北の対立図式が不明瞭な上、王都を援護しないという不合理な判断を南部貴族がした理由が分からなかった。普通に考えて、王都が落ちたら、国としての体面を維持できなくなると思うが、何を考えているのか。
視点設定がテレビと違ってネイアにされたことで、アインズの白々しさと愚かしさが消え、カリスマとしての威厳が出ていた。まあ、この演出にしなければ、聖王国でアインズが崇拝される理由が腑に落ちなくなるため、必要に迫られての変更だろう。
作品の骨子は他シリーズと同じくマッチポンプだが、ネイアと彼女を苛めていたレメディオスの立場が逆転するという変則復讐劇も主たるネタ。虐げられていたネイアがアインズの庇護を得、聖王国で立場を強める一方、彼女を苛めていたレメディオスは最愛の主君と妹を失った上、騎士団長の職も解かれる。この待遇の落差により視聴者は溜飲を下げるのだ。
本作のアインズの動向には、「オーバーロード」シリーズ敷いては異世界転移・転生系の一つの型を見出せる。異世界系と俺TUEEE系の複合タイプには、主人公が知らず知らずに世界へ好影響を与える作品があり、本シリーズはその一種で、主人公が意図せぬ勧善懲悪の話と言える。要するに結果として勧善懲悪になっているけれど、別に主人公が善行をしようと思ってない、とそういう話。本シリーズの大半において、善人は苦難にこそ会えど最終的に救われる一方、悪人にはその逆しかない。ここから外れるのはザナックの死だけであり、アインズは図らずも善行をしている言える。ただ、この場合の悪人というのは結構、程度が低くて、クレマンティーヌみたいな極悪犯罪者など僅かで、大抵はハラスメント野郎とか、軽犯罪者ばかりである。ある意味では過剰な罰が与えられていると言え、これはアリストテレスの言うとハマルティアの一種と見れる。
前評判でグロイグロイと言われていたが、思ったよりひどくなかった。聖女が敵に棍棒代わりに使われ、肉塊になる箇所とか、聖王国の最強魔術師が生首だけになって辱められる箇所とかが、グロポイントである。が、実写ホラー映画の方がもっとグロいです。