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2024年アニメ映画評28・「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」

 7月最初の映画は日本一有名なヒーローであろう「アンパンマン」の劇場版。毎年恒例作の一種で、この手の映画の中では近年「コナン」と「アンパンマン」は調子がいい。7点。
 アンパンマン映画は大体60分程度なのだが、冒頭は子供向けの歌と踊りが占めるので、本編は正味50分である。他作品に比べてもやや短めの尺で、新キャラを出し、設定を説明し、話をキチンと落とす必要がある。しかも相手は幼児なので、そんなに難しいこともできない。こういった制約の中、毎回、面白い話に仕上げてくるのだから、エンタメ系の創作者になりたい人にとって本シリーズは一見の価値ありだ。
 絵本の世界の住人・ルルンは、侵略者のすいとるゾウを退治してくれる救世主を捜しに、絵本の外の世界にやってくる。そこで出会ったばいきんまんを絵本の世界に連れて行き、一緒に戦ってもらうが、惨敗する。悔しいばいきんまんは、泣き言を漏らすルルンを叱咤しながら、ローテクの絵本世界で巨大兵器を開発、リベンジ・マッチに挑む。だが、敵は強大で、どうしても攻めきれない。悩んだ末、アンパンマンに助っ人に呼び、力を合わせてすいとるゾウを退治する。
 今年の作品はバイキンマンのクラフトがメインで、最早オーバーテクノロジーなトンデモ技術を存分に見せてくれる。絵本の世界は電気もないような世界なのだが、それにめげることなく、ばいきんまんは木材を加工して巨大ロボットを作り出す。本編50分の内、体感20分くらいは工作に費やされ、明らかに今作の眼目である。木だけで作った巨大ロボ・だだんだんはよくもまあ、そんなことができるもんだという訳の分からなさで、魔法と見紛う。そもそも動力源がよく分からないし、操作方法も謎。明らかに体積以上の武器を収納しているくせに、変形機能まで備えているという、四次元か何かですか、という超絶メカニクスなのである。何でもあり過ぎて正直ギャグだ。
 すいとるゾウに敗れて絶望するルルンに対し、敗北慣れしているばいきんまんは失敗にめげない。本作の焦点は勝つまで挑むというばいきまんの粘り強さと職人気質にあり、兵器開発が上手くいかなくても、文句を言わず挑戦し続ける姿にルルンも感銘を受ける。挫折で悩んでる暇があったら、次を考えろ、とそういうことなのである。これは技術者や研究者に求められるメンタルと言え、リジェクト喰らったくらいでショックを受けてはならない、というメッセージがあるんだろう。
 テレビ版だとわがまま放題に見えるばいきんまんだが、意外にもマネージャーの素質があり、ルルンに、戦う方法や開発技術を厳しく叩き込む。しかも、ただ厳しいだけでなく、ちゃんと褒めてモチベーションを維持してくれるのだ。そうした訓練というか叱責の成果もあってルルンはすいとるゾウに立ち向かう勇気を獲得する。ばいきんまんのやり方は対話を通じてドロリンを導いたアンパンマンと異なりスパルタで、ここにも二人の違いがある。
 全般に技術者なり、研究者なりといった地味な試行錯誤が果てなく求められる職業がばいきんまんに重ねられており、そうした仕事のカッコよさをアピールする狙いがあるのだろう。世の中、キラキラした仕事ばかりでは回らないということだ。


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