
2024年アニメ映画評38・「ねこのガーフィールド」
アメリカの人気コミックの映画化。原作は米国で有名なのだが、日本だとイマイチ。ラザニアがあまり人口に膾炙していないのは、この作品が広まっていないせいだと思ってる。漫画はブラック・ユーモアが多いようだが、本作は控え目で全般に子供向けの作り。エンタメに振り切っており、本来なら、これ単品であれこれ批評するタイプの作品ではない。頭を空っぽにして観るべし。7点。
主人公は食いしん坊の肥満猫・ガーフィールドで、彼は飼い主のジョンと忠実な犬・オーディの庇護を受け怠惰に暮らしている。ある時、ガーフィールドの所へ生き別れの父・ヴィックが現れる。彼は以前の牛乳泥棒の失敗が原因で雌猫のジンクスに追われていた。ジンクスの復讐に巻き込まれたガーフィールドは、赦してもらうため父らと共に牛乳泥棒に入ることに。しかし、ヴィックの裏切りでガーフィールドは保健所送りとなる。ジョンに保護されたガーフィールドはオーディに諭され、ヴィックがジンクスとの関わりを絶たせるため、わざと保健所に送ったと考える。愛ゆえにガーフィールドはジンクスに殺されかけている父を助ける。
アメリカのCG アニメーションは全体に似たような絵柄で、日本のアニメほどパッと見では違いがわからない。本作もイルミネーションやピクサーとの差異が微妙というか、絵の系統的には同じだと思う。まあ、見やすいし、クオリティも安定しているのは長所だが。
吹替で観たせいもあるが、全体にスラプスティックな感じで、毒の効いたブラック・ユーモアは殆どない。出されてもアメリカの事情を知らんと分からんだろうしね。まあ、この点は最初からグローバル展開を狙って、ローカルネタを省いた可能性はある。あと、ワード・プレイもほぼなかった。下ネタや時事ネタのない「おそ松さん」といったところ。
テーマは父性の在り方で、フィーチャーされるのはヴィックとガーフィールドの関係である。この2匹は、まあ似た者同士で、あの親にしてこの子ありである。ただ、ささやかなボタンの掛け違いこそあれ、父は子を思い、子のために嫌な役も買って出るところに関わらないという愛が看取できる。身を引くというやつだ。とは言え、金策をしている時の両津並に信用できないので、背中を追うべきかと言われると首を傾げる。ヴィックは自身のそうした無茶苦茶さをよく分かっており、無責任とは思いつつも、見守るという関係性を選ぶのである。
そんな彼と飼い主兼父親代わりのジョンは対比的で、後者は過剰なまでに過保護。ジョンはガーフィールドを一応、躾ようとするものの、可愛さが憎たらしさに勝つのか、どんな愚行も許してしまう。それでいいのか。ジョンの愛は本物だけれど、少し依存気質なところがあり、ガーフィールドを甘やかすことで自分の寂しさを埋め、自己肯定感を保っているところもある。だが、ガーフィールドを自律させようと頑張る辺りは、ドラえもんのように微笑ましく、ガーフィールドもジョンを都合のいい飼い主以上に思っている節がある。
要はジョンもヴィックも、ダメな父親なのである。そんな父の下で育ったガーフィールドはどうかというと、まあ、おそ松みたいなキャラだが、それでも家族を大切に思っていたり、常識的な価値観を身につけていたりし、自己中で逆境に弱いものの、憎めない人懐っこさを持っている。この人懐っこさは一種の才能で、ジョンと会った時も彼を誑し込んでいる。つまりはダメ猫ではあるが、悪者ではない。この点はラストで顕著に示され、ガーフィールドは父の愛に気づくことで、父を助けに行く決断をする。父の愛が彼の行動を変えたことを踏まえると、重視される父性とは子を思い、献身することなのだろう。実際、ジョンもヴィックも形こそ違えど、子のガーフィールドに献身しているのだ。
とは言え、あまりにダメダメに育っているから、多少は厳しくすべきと視聴者を諭す面もあるだろう。飴と鞭の匙加減は難しいんだけどね。
ジンクス役の人が妙に下手だったが、山里亮太は少し棒読みなもののハマってた。最終的に全て丸く収まり、ジンクス以外はみんないい人でしたで終わるので、後味はよい。