COOに聞く、FiNCの未来 プロダクト編
CEOの小泉から始まったCXOの連載企画。今回は、第二弾としてCOO兼CPO、CWOの伊藤にインタビューしました。
伊藤隆博
美大卒業後、他業種での経験を経て(株)USENにて5,000店を超える飲食検索サイト(現:ヒトサラ)をリリース。2005年にNHN Japan(現:LINE株式会社)に入社し、「ハンゲーム」を3,000万会員を超えるNo.1ゲームポータルに成長させる。2008年に(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスから出資を受け、(株)スマイルラボを設立し、海外の3Dのセカンドライフなどが隆盛の中、敢えて2Dの手描き風バーチャルワールド「ニコッとタウン」をリリースし、160万会員を獲得。現在、15周年を迎え、月間数万人が暮らすメタバースを運営中。2013年、スクウェア・エニックス「コーポレート・エグゼクティブ(オンライン事業戦略担当執行役)」に就任。その後、2017年にスクウェア・エニックスより独立。2019年に(株)FiNC Technologiesにジョインし、同年8月よりCPO、2023年3月にCOO、2023年9月CWOに就任。
ーなぜゲーム会社からFiNCに参画したのか教えてください
アバター型プラットフォームや大手ゲーム会社のソーシャルゲーム事業組織の立ち上げ、そして、メタバースサービスの「ニコッとタウン」の開発など長らくゲーム業界に身をおいてきました。でも、元々自分自身が病弱で、子供の頃から月に1回は学校を休んだり、偏頭痛がひどかったり、「原因が見えない不調」を常に抱えていました。一方で、ゲームを作っているうちに、『モンスターを倒してコインをゲットし、キャラクターの体力、攻撃力を育てて、最後に魔王を倒す』って、これをリアルの世界に戻したら『ライフログを活かしたリアルタイムゲーム』という新ジャンルのゲームが作れると思ったんです。そこで最初に「歩くだけでネコが育つ歩数ゲーム(にゃん歩計)」を作りました。その後も、カレンダーをベースに、その人の日常データを記録することで育つ「AIカレンダーアプリ(美少女AIロイド・アイル)」を作りました。
ただ、ライフログをベースとしたゲームを作っていくと、ゲームを超えた幅広いユーザーに提供できるジャンルとして、「ヘルスケア」が目に付きました。それが「FiNCアプリ」でした。そこですぐに(株)FiNC Technologiesに連絡し、「一緒に仕事できませんか?」とお伝えしたところ、「会社ごと、一緒にジョインしませんか?」という話となり、(株)スマイルラボという会社ごと、ヘルスケア業界に転身することにしました。
ーFiNCアプリの特徴を教えてください。
「FiNC」アプリは「カラダのすべてを、ひとつのアプリで。」というコンセプトで、特許を取得したパーソナルトレーナーAI(人工知能)を内蔵したヘルスケアプラットフォームアプリです。歩数・食事・体重・睡眠・運動・生理・血圧などの健康記録データをトータルで管理することができるのが特徴となっています。また、アプリの継続率が高いのが特徴で、一般的にアプリをダウンロードした30日後の継続率平均は6%〜7%と言われることが多いのですが、FiNCは30日で15〜20%となっています。この高い継続率は、安価で販売しているFiNCオリジナル体組成計で、11項目(体重、BMI、体脂肪、内臓脂肪レベル、皮下脂肪、水分量、骨格筋、骨量、たんぱく質、基礎代謝、身体年齢)のデータ取得ができ、Bluetoothで体組成計に乗るだけで自動的にアプリ連携ができます。睡眠もAppleヘルスケアやFitbitにも対応していたり、食事についてはAI(画像解析)を搭載することで、写真を撮るだけで自動的に食事メニューや栄養素・カロリーを表示するなど、「記録するのが負担」というヘルスケアアプリの最大離脱ポイントを軽減していることに特徴があります。もちろん歩数もスマホを持っているだけで自動で取得できています。単体アプリで「食事記録」「体重記録」「睡眠記録」「体重記録」のアプリはありますが、これだけの記録を自動的にでき、かつ1つのアプリにこれだけの記録を搭載しているのは非常に珍しいと思います。なお、FiNCアプリ立ち上げの際はターゲットを20代女性としてい設定していたので、美容・ダイエットのアプリと思われる印象が強かったのですが、近年は健康を維持したい30〜50代以上の男女の利用が増えており、今後はさらに進化したAI搭載の総合ヘルスケアアプリという改革に取り組んでいます。
ーエンタメ領域でのご経験は、今どのように活かされていますか。
ゲームはバーチャルの「キャラクターの育成」で、ヘルスケアアプリは現実世界の「キャラクター(自分自身)」の育成です。
通常のロールプレイングゲームでは、敵を倒すことによって経験値を得て、経験値が貯まるとレベルが上がるように設計されています。魔王を倒すためにどのレベルまで成長させないといけないのか、1日のバトル量とそれによって獲得可能な経験値を逆算して、ゲーム設計を行います。ヘルスケアに置き換えると体重を1㎏減少させるためには約7,000キロカロリーの消費が必要と考えられており、基礎代謝から摂取カロリー、消費カロリーを計算し、1ヶ月で約7,000キロカロリーを減らすと1kg痩せる設計を考えるため、例えば、「子供と遊ぶ=10分=◯◯◯カロリー」みたいな計算もしています。
また、その間モチベーションを保ってもらうために、ゲームでは中間ボスを設定し、小さい成功を積み重ねて、魔王を倒すまで飽きないように設計しますが、FiNCアプリでは1日の目標カロリーが設定され、クリア報酬(ポイント)があります。基本的な構造はゲームと同じなんですよね。
他にもFiNCアプリでは、1,500歩でPUSH通知が飛ぶように設定しています。なぜならFiNCユーザーは駅から徒歩10分圏内に住んでいる女性が多く、女性の平均歩幅を約60㎝(成人女性の平均身長154.3㎝を元に算出 参考:令和元年国民健康・栄養調査報告)として考えると、駅に着く、電車に乗るのは1,500歩あたりと想定されます。このタイミングでPUSH通知を飛ばすと、丁度、電車を待っているホーム上だったり、電車の中でニュースアプリ等を見ている時間にヒットするので、FiNCアプリの起動率アップに繋がります。FiNCアプリの設計者の中にはハンゲーム時代から一緒に開発しているゲームプランナーも多く、このあたりの設計感覚のあるメンバーが多いのが特徴です。
ー今後どのように変化させていくのでしょうか。
私たちのパーパスは「We help you enjoy your good life(楽しく健康的な生活を提供する)」です。今年中にFiNCアプリ改修を予定しており、フェーズ1では重要テーマとして「毎日普段使いされるアプリになる」を掲げています。健康的な生活を実現することは一朝一夕にはできません。毎日の健康行動を持続することで未来の自分の健康を作ることになります。そのため、まず「人は毎日歩く=生活導線=歩数機能を強化」に取り組んでいます。
いくら「1日8,000歩が健康にいいんだ」と言われても、行動を自分で変えられる人は多くないはず。ここでもゲーム業界での経験を生かして「楽しく歩いて、気づいたら8,000歩を歩いている」というゲーミフィケーション的な「ゲイン=楽しさ」を目指しています。また、今年の6月には「歩数ロト(歩いた歩数で抽選)」の機能をリリースし、歩きたくなるような仕掛けを作ってます。
ヘルスケアサービスのアプリにおいて、ユーザーが〝続かない〟〝使いづらい〟といった問題は非常に多いですが、ユーザー視点で考えることで実績を積み上げてきました。今後もFiNCアプリの機能でより良い顧客体験を提供し、皆様に期待していただけるよう取り組んでいきたいと思います。
ー今後のビジネスの展望についてお聞かせください
日本は世界の中でも、「AIに関する幻想が多い国」と言われています。その理由として、小さい頃から、鉄腕アトムやドラえもんなどのアニメを見て育ってしまったので、AIが正しいことを判別してくれる、教えてくれると思ってしまう傾向があります。また、本来AIとは「Artificial Intelligence」つまり人工知能と訳しますが、海外ではAIという単語を「Assist Intelligence」(人間の知性を助けるもの)と言ったりします。FiNCのAIサービスのベースコンセプトは自分に寄り添ってくれるAIです。AIは、質の高いデータのインプットがあれば、質の高いアウトプットを出してくれる傾向があります。平均データからの平均的なアドバイスより、過去の自分データを見て覚えてくれていて、それを元にアドバイスをしてくれることが、一歩先を行くAIサービスだと考えていますし、これこそが顧客体験を高めてくれるAIの活用方法だと思っています。だからこそ、「健康な状態」の時から楽しく継続的に記録したくなるようなアプリを目指していきたいと考えています。自動的に答えを出してくれるAIではなく、日々の生活に寄り添って励ましてくれるようなAIが望ましいと思っています。
また、これまでCOO(Chief Operating Officer)、CPO(Chief Product Officer)として、ビジネスとプロダクトとの両軸の責務を任されてきましたが、新しい当社のコアバリューである「Design your well-being」、パーパスである「We help you enjoy your good life」の実現のために、これまでにないヘルスケアサービスを創り出し、これまで以上にお客様に向き合い、驚きや感動させる体験など、当社らしい"WOW"の創出をするため、CWO(Chief “WOW” Officer)を拝命しました。ヘルスケアにおける革新的なサービス提供をおこない、さらなるイノベーションの推進を加速させ、より一層の成長に努めてまいります。
人事リリース:CWO(Chief WOW Officer)就任のお知らせ
ーCWOとしての意気込みをお聞かせください。
驚きや感動は、お客様に向き合ってこそ生まれるものです。当社のAIサービスのベースコンセプトは自分に寄り添ってくれるAIであることをお伝えしましたが、世間ではまだまだAI=自動化のイメージが先行しがちです。AIのサービスでもお客様に寄り添った”WOW”を与えるサービス展開が可能であると考えています。
ユーザーの記録内容に合わせて、パーソナライズされたアドバイスをしてくれるAIもその1つです。例えば、最近お腹回りが気になる人がいた場合、『1年前の体重より、5kg体重が増えてますね?。1年前の食事に比べて、この1ヶ月の平均栄養素を比べたら、脂質取得がかなり増えているようです。1年前の食事と比べて、何が原因で脂質取得の量が増えたのか?脂質ランキングを出してみますか? あ!どうやら原因は、最近、”磯部揚げ”にハマってませんか? 食べたい気持ちは分かるけど、◯◯さんの”磯辺揚げ率”は全国で1位ですよ? 今週の磯辺揚げはもう打ち止めですよ!』と、AIが自分だけのためにアラートを出してくれるような。
それに、磯部揚げを食べ続けるプランを提案してくれたっていいんです。
AI 「もう磯辺揚げは今月食べちゃダメですよ?」
伊藤「我慢は体に良くないので、あと1回食べたい」
AI 「磯辺揚げ100gの脂質は15gなので、磯辺揚げを食べる日は脂質が多い食事を避けましょう。伊藤さんが磯辺揚げを食べる日は、唐揚げ率が78%で、唐揚げを同時に食べるから、脂質過多になるんです。残り7日間で、唐揚げを食べなければ、磯辺げを1人前食べても、1週間の合計脂質は許容範囲です。」
…だとか。
食べすぎていることを、分かってはいるけどやめられないのが人間です。また、「脂質を減らしてください」と言われても、そもそも、自分の食事の中で、「何が原因で脂質が多いのか?」というのがわからないです。ましてや、「自分が食べている食事の中で脂質が多い食べ物ランキング」とか暗記している人はいないと思います。そこで健康な時から日々の食事が記録されていたり、自分の食事結果を覚えてくれているAIがあれば、「え?全国で僕は磯辺揚げ率が1位だったの?」という驚きと感動?を与えてくれるかも知れません(笑)
食べたいものを我慢させることだけがヘルスケアのサービスではないと思っているので、食べたいものを食べるために他に何をすれば良いのか。もちろん食事だけではなくトータル的に皆さんの「ワガママなライフスタイル」に伴走できるサービスであり続けたいと思っています。
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