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待草雪
2021年9月25日 19:43
34 偶然に捲れて挟まった絨毯が衝撃を緩和したお陰で死を免れたものの、外れた鉄格子に潰されたアノルド保護官は、通信機と煎餅の袋を掴んだ両手を伸ばして痙攣している。 牢から出たヒュウラは、列車の屋根に乗っている。口に咥えた海苔煎餅の欠片を飲み込むと、屋根の横半分を失った最後部の車両から無表情で駆け出した。 首を覆うアンテナ付きの機械が、晴天から注ぐ陽の光を受けて輝く。(数字を付けておこう。
2021年9月20日 18:34
本当は、全てに対して”本当”というものは存在するのだろうか。31 断続的に、その空間にある全てが上下に揺れ動く。列車の車輪が線路のレールを滑り、繋ぎ目を轢いて鳴るカント音が響く。 薄暗い真四角の狭い空間の壁に付いた小さな窓から入り込む、トンネル照明の光が粒になって物の一部を照らし、消える。地下を走る列車の貨物車両の一角に、人のような影が1つある。黄色味のある肌にざんばらに切られた短い茶髪
2021年9月10日 22:49
28 肺が全力で酸素を全身に送り込む。忙しく前後する足の振動に負けじと胴が大きく前後する。小さな少年の身体も、その後を追う大きな2つの身体も疲労が限界まで蓄積されているが、マラソンの勢いは衰えない。鬼ごっこは延々と続く。 カイは感覚が無くなりかけている足を高速で動かして距離を一気に離し、ショートブーツの踵を踏んで急停止をしてから振り向いて人差し指で空気を突く。大きく円を描くように5箇所を刺
2021年9月3日 19:10
26 40代程の見た目をした大人の男達が、沼の水の中に垂らした何かを引っ張っている。灰色の作業着を着た痩せ気味の男が、太鼓腹で捲れ上がった茶色いシャツを着ている小太りの男に時々話しかける。灰色の小さな目が弱々しく相手の焦茶色の目を見つめると、鋭い目をしながら怒鳴り声を挙げた相手の唾を顔に浴びた。 カイは周囲に目を走らせてから、怪訝そうに眼前の光景を眺める。原子の気配を今は感じない。代わりに、