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掌編小説、随筆

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掌編小説と随筆をまとめています。
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2022年9月の記事一覧

今年の秋は

 仲秋。雷乃収声を迎えた頃、初老の男は独り秋を楽しんでいた。彼岸花が並ぶ畦道に立ち、黄金色に輝く田園を穏やかな気持ちで眺めていた。今年は雷が、まるで雷神が祭の指揮でもしているかのように、雨空の中にいくつもの太鼓を轟かせていた。それ故か、今年は豊作だ。
 近くに葦原は無いが、瑞穂とはこういったものを言うのかしらんと、稲穂の原に風がそよぎ、次から次へとゆるやかな波を立てているのを見て、その美しさに酔い

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恋文の日にて

 拝啓
 小満の侯。若葉は青葉へと変わり、万物盈満、命が溢れ輝きを増す季節となりました。日脚が延び、日差しが強くなる一方で、貴女は美人傘を差す機会が多くなった事でしょう。もうすぐ梅雨が来て、色とりどりの雨傘とアジサイが咲きますね。長雨は鬱屈としますが、それも束の間のこと。すぐに陽光が燦々と降り注ぐ本格的な夏がやってきます。入道雲が聳え立つ青い空が魅力的だと思います。貴女はどんな空がお好きですか?

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主人公補正というもの

 主人公補正というものがある。主人公になることによって付く良運みたいなものらしいが、そんなものがあってたまるかと思った。ストーリーを潤滑に進めていくためのものではあるのだろうが、主人公には是非とも運の悪さからどん底に突き落とされ、そこから微かな希望の細糸を見出し這い上がっていくことをして頂きたいと考えている。

 まず主人公には親ガチャというものをしてもらう。必ず「当たり」を引いてくれ給え。母子家

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