貯金を始めたけど

大きな書店が入っている百貨店の開店を待って、コーヒーショップで時間を潰している。
欲しい本がある。というと少し語弊がある。欲しい本は、いつでも、いくらでもある。今日は、買うと決めている本が一冊あるのだ。その一冊さえ買ったら、脇目もふらず書店を出なくてはならない。予算を決めてあるからだ。
少し前に、貯金を始めた。一人暮らしを始めて三ヶ月目、最初は物入りで致し方なく出費が嵩んだけれど、そろそろ財布の紐を締めてかからねばならない。一応、日々記録していた家計簿を見返して痛感した。
Kindle Unlimitedで節約や貯金の本をざっと読んでから、そのサブスクリプションを解約した。あまり使わないサブスクを整理することが節約の第一歩だ。
本は好きだ。本は欲しい。いくらでも欲しい。けれど、使えるお金は有限だ。
家計簿の記録から逆算して、一日あたりに使える金額を決めた。現時点でここに来るまでにバス代とカフェ代を出していて、予算の三割に迫っている。帰りのバス代もあるので、本を買う冊数はなんとしても厳選の一冊にとどめなくてはいけない。
ここまで書いて、冷めかけのSサイズのカフェオレを啜る。カフェオレの残りは約半分。いつも思い出す例えが、悲観論と楽観論。あと半分しかない、と思うのが悲観論者。あと半分もある、と思うのが楽観論者。このよくある例え話に、最近新たな知見が加わった。悲観は容易くなせるが、楽観は工夫しないとできない。ここまではTwitterで見かけた。いいねをし損ねて元のツイートを辿れないが、よく覚えている。
そこへ更に。――人生は放っておけば悲しくなる一方だから、楽しくするためには、理知的な何かが必要。そう言ったのは矢野顕子さんだ。私はその言葉に触れて、「その通りだ」としみじみと感じ入った。自分の機嫌は自分でとらないといけない。人任せにしてはいけない。
今日買う一冊。学生の頃から私の感性を育んでくれた田辺聖子さんの復刊本だ。田辺聖子さんの古典入門にはずいぶん助けられた。
復刊をTwitterで聞きつけた時、欲しい、と貫かれるように思った。貯金を始めてから、欲しいものがあったら一旦立ち止まって考える、という鉄則がいつも頭をついて回ったけれど、この一冊だけは例外だ。確信を持っていえる。この本を買うことは、すなわち私を豊かにしてくれる。
そして、本は比較的安価だ。一冊だけなら尚更だ。予算にだって収まる。だから、買うぞ、と心に決めて、開店時間よりかなり早く着くバス(本数がそもそも少ない)で来て、カフェで待ち時間を潰している。全て必要経費だ。
自分を豊かにすると確信が持てるものを安価に買えるって、幸せなことではないかと思う。そりゃあお金は沢山あった方がいいけれど、限られた予算で工夫とやりくりをしながら得るものにも負けない価値がある。さあ、開店時間が近づいている。

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