その件名に意味がある
営業管理部のS部長からのメールは、必ず件名に「~の件」がついている。
これを、『月曜から夜更かし』スタイルと呼んでいる。
世間で起こる様々な件に、ちょっとだけ首を突っ込んだり突っ込まなかったりする、あの番組のと同じやり方だからだ。
番組が知名度をあげる前から、S部長はこのスタイル。
番組の内容もあいまって、全社への指示命令でも、威圧感がなくて良い。
「ちゃんとやっといてねェ~」と、気さくなS部長の関西弁イントネーションが聞こえてくるようだ。
「~の件」は、いわばS部長の署名のようなものか。
そのうち「~の巻」とかにならないかな、とひそかに期待している。
そうなったら、ちびまる子ちゃんスタイルと呼び替えよう。
月曜から夜更かしならぬ、日曜のお茶の間。
いっぽう、受注センターのO課長からのメールも、件名ですぐ分かる。
必ず「■」ではじまる、ブラックスクエアスタイル。
O課長は、商品の在庫情報や受注状況を、カチッと整理して配信してくださる方だ。
早くから女性管理職として活躍されているし、名字がわりとめずらしいのもあって、存在感もある。
「■」に重要な情報が整えられている感じがするし、ブラックスクエアは、受信メール一覧の中でも存在感を放っている。
「Oです。ちゃんと見といてくださいね」と、涼やかでハリのある声が聞こえてくるようだ。
「■」はO課長の分身なのかもしれない。
こちらも、たまにちょっと回転して「◆」にならないかな、と楽しみにしている。
そうなったら、ブラックダイヤスタイル。
情報の貴重度が、さらに上がった感じ。
当のわたしも、新規作成メールの件名はこうだ。
件名は、隅付きかっこで括りがち。
件名と本文はしっかり区別したいから、前後がっちりホールドスタイル。
内容に抜け漏れがないように、がっちり押さえたい、という深層心理のあらわれだろうか。
仕事のメールは、日々たくさん送られてくる。
会議で小一時間席を外しただけなのに、新着が10件くらいついていることもしばしば。
重要なメールを見落としてしまったり、逆に見落とされてしまったり、未読スルーしてしまったりしがちだ。
一覧の中に送信者が一目で分かる目印があると、気づきやすいし探しやすい。
重要な情報を送ってくる人なら、なおさらだ。
一番いいのは、転送につぐ転送を繰り返された場合である。
指が攣るんじゃないか、と思うくらいスクロールしなくても、件名で最初の発信者が誰だったか分かるからだ。
先日、
と、そのメールを送っていない人から、笑い混じりの謝罪の電話がきた。
各拠点の予定数と出荷数に差異があり、在庫が足りない!とざわついていたのである。
(うちは予定通りですよ…)という意味も込めて、最低限の関係者にだけ調査結果を送ったのだが、転送されて当事者にたどりついてしまったようだ。
もちろんメールの最後に名前は書いていたけれど、【】で囲われた件名を見て、あいつだ!囲まれた!とすぐに分かったのかもしれない。
そういえば、漫画からアニメ化もされた『【推しの子】』も、タイトルが【】で括られている。
「好きなアイドルを推す」という意味と、「推しているアイドルの子ども」という2つの意味が込められていることを強調するためらしい。
わたしが件名を【】で囲むのは、送信内容だけではなく、相手の首根っこも押さえたいという2つの意味があるのだろうか。
推しの子スタイルと呼び方を変えるか。