竹に惹かれて、報国寺
一度行ってみたいと思っていた場所に、ふと思い立って行ってきた。
竹林が有名な、鎌倉の寺である。
地元なのに、行ったことがない。
なぜか竹に惹かれる。
通っていた幼稚園の裏が竹林だったから、原風景になっているのだろうか。
はたまた、「竹は根を張ってて倒れにくいから、地震が来たらつかまるのよ!」と親に言われて育ったせいで、竹に絶大な信頼があるのだろうか。
地震の時は竹薮に逃げろという言いまわしまであるくらいだから。
鎌倉といっても、報国寺は鎌倉駅からバスで約12分。歩くと30分くらいかかる。
1334年に創建された臨済宗・建長寺派の禅宗寺院で、開基は足利家時(足利尊氏の祖父)だ。
休耕庵という塔頭のあとに孟宗竹が生え、見事な竹の庭になっている。
いつも歩いている若宮大路を、バスに乗って通るのははじめてなので、なんだか新鮮。
地元なのに、目線がすこしずれただけで、観光客になった気分だ。
バスには老若男女乗っていたが、半分くらいが報国寺最寄りのバス停で降りた。
ひっそりした路地裏に、人が吸い込まれていく。
こころなしか、涼しい気がする。
そもそも、鎌倉は都内から来ると涼しく感じるらしい。東京から来たひとが、ことごとく「涼しいですね~」と言う。
ジオラマかと思いきや、苔庭だった。
外国人旅行客向けなのか、さりげなくQRコードが刺さっているのがイマドキ。
と思ったら、となりにはホテイアオイが浮かんだ鉢と、金魚が涼しげに泳ぐ。
のぞきこむと、ぷるぷるした金魚たちはそろりそろりとホテイアオイの下に隠れていった。
モノクロの拝観券を受け取り、竹の庭へ足を踏み入れる。
ひんやりまではいかないが、ヒリつくような暑さがよりいっそう和らいだ。
一昔前の夏の暑さというのだろうか、クーラーなしでも過ごせていた、こどもの頃の夏の空気がそこに広がっていた。
あの頃に、気温だけでも戻ってほしい。
広さは思ったよりこじんまりとしていたが、その空間の高さは圧巻で、上から下までみどり色。
まっすぐに伸びた竹は、直線なのに有機的だ。
さきほどの金魚たちも、水底からホテイアオイをこんな感じで見上げているのだろうか。
この空のすき間から何者かがのぞき込んできたら相当こわいな、そりゃ隠れる。
さわさわと揺れる竹の葉。
なんというか、完全にまっすぐではなくて少し傾いたりくねったりしているかんじ、チンアナゴが脳裏をかすめる。
直線なのに有機的と感じたのは、そのせいかもしれない。
着物を着た学生とおぼしき女の子が、竹林をバックに写真を撮り合っている。
着物と竹林、スピッツのアルバム『花鳥風月』のジャケットを彷彿とさせて、とてもよい。
このジャケット、シンプルなのに1枚で物語性があるところが好きだ。
写っているのはひとりの足元だけなのに、となりにだれかいるのかな、と思わせる体勢。
これもまた、竹に惹かれる理由だろうか。
草履で竹林歩いたらケガしそうだな、と思うのはさておき。
よりどりみどりの中に、ツヤツヤみどりの竹と、ベビーパウダーをまぶしたような竹がある。
竹の根元をみると、かつてタケノコだったことを証明する、茶色い皮が。
ブーツのようでかわいい。
すらりと伸びてはいるけれど、きっとまだ若い竹なのだ。
「タケノコって英語でなんて言うんだっけ?」
と友人にたずねられ
「えっと、バンブーロケット?」
と大きく打ち上げてしまい、大爆笑された若かりし頃を思い出した。
ただしくはバンブーシュートである。
ちょっとだけ涼を感じられて、なつかしさを感じられる竹林だった。
奇しくも、先日神奈川県で大きめの地震があったばかり。
揺れより、つんざくような緊急地震速報を止めなければ!と焦りがち。
地震が来たら、竹藪じゃなくて報国寺の竹の庭に逃げ込みたい。
スピッツのジャケットの女の子も、人ではなく竹にもたれているとしたら、かなり見方が変わってくる。