老舗の笑うつくねマン
下町のシゲルキッチン。
いかにもおいしそうな料理を出してくれそうな台所である。
JR浅草橋駅が最寄りの東京都台東区柳橋は、かつて花街として栄えた。
焼き鳥の老舗《柳ばし鳥茂》は、そこに店をかまえて50余年。
その味を、先代の教えを守りつつ、時代のニーズを汲んでサンドイッチとして提供しているのが《シゲルキッチン》だ。
JR浅草橋駅で降りても、そこに浅草寺や赤い大きな提灯はない。
浅草駅と浅草橋駅は鉄道会社も異なるまったく別の駅で、その距離間は約1.9㎞。
浅草橋には、シモジマ本店の赤い看板がある。包装紙・紙袋・店舗用品・文房具の専門商社だ。
マニアックなものが急に必要になっても大抵そろうので、赤いシモジマと緑のハンズは重宝している。
それはさておき、横浜高島屋のベーカリースクエアでもこの《シゲルキッチン》のサンドイッチを入手できる。
看板商品のつくねサンドはシオとタレが選べるが、せっかくなのでつくねをしっかり味わおうと、シオを選んだ。
1人前は結構なボリュームがありそうだったので、ハーフサイズを購入。
厨房併設のライブキッチンスタイルもさることながら、この紙製フードパックだけでなんだかわくわくしてしまう。
開けたら、にやにやしてしまった。
サンドイッチが、不敵に笑っているように見える。
つくねの極太まゆげ、赤く光るトマトの目、ななめのパンが不敵に笑う口元。
子供が真似て描いた、アルチンボルドの絵のようでもある。
「何かを見たり聞いたりしたとき、本当はそこに存在していないはずなのに、既知のなにかをイメージしてしまうこと」をパレイドリア現象というらしい。
天井のシミが顔に見えたり、月の模様がうさぎに見えたりという具合に。
ひとつ賢くなったが、明日にはカレードリアとかパラパラチャーハンとか言っていそうな気がする。
笑うつくねマンは、小刀のようなものを携えていた。
ゆで卵かと思ったら、カブのピクルスだった。酸味と塩味と食感が、食欲を加速させる。ころころオリーブの愛らしさたるや。
レタスがフリフリのシャキシャキで、分厚いトマトはみずみずしく甘い。
主役の肉厚なつくねは、鶏・豚・牛のミンチに玉ねぎとにんにくを加えただけで、つなぎは一切使用していないとか。少しスパイシーで、みっちりと食べ応えがある。
パンに塗られているのは、鳥茂特製のぬか漬けを使ったタルタルソースだという。ほのかな酸味が、肉々しいつくねとよく合う。
さりげなく和や老舗感をはさんでくるところもまた、ニクい。
パンは少し甘みがあり、耳までふんわりなめらかでとろけるような食感。
これはただものではない・・・と思ったら、それもそのはず、浅草の老舗人気ベーカリー《パンのペリカン》の食パンを使っていた。
食パンとロールパンだけで創業80年という歴史からも、その味がひとびとに愛されていることがわかる。
ちなみに、こちらは赤い提灯があるほうの浅草駅が近い。
むやみにメニューを増やしたり、流行りの味を足さないというこだわりの他に、地産地消もメニュー開発の軸にしているそうだ。
本店のカフェで出しているコーヒーは、台東区蔵前のコフィノワのコーヒーだという。
ここまでくると、販売資材もシモジマで調達していてほしい。
創業は1920年だというから、こちらも相当な老舗だ。
あと、台東区を俯瞰したら、おおきな三角形があらわれた。こんなところにもパレイドリアが。
ハーフサイズは余裕で平らげてしまったので、次はレギュラーサイズのタレにしようと思う。
またつくねマンに会えるだろうか。