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きみは鎌倉ミアミーゴ
「承知いたしました、トキとメンですね」
「フォッ、よろしくお願いします」
とつぜんの《修二と彰》的な略称にとまどい、ちょいバルタン化する。
オーダーの復唱をされただけなのに。
冷静になれよ、ミ・アミーゴ。
鎌倉は、春夏秋冬ひとでごった返している。
地元なので忘れがちだが、ここは結構有名な観光地なのだ。
800年つづく伝統工芸、鎌倉彫の活動拠点として、若宮大路沿いにたたずむ鎌倉彫会館。
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上階には、鎌倉彫の資料館や、教室が入る。
その1階にあるのが、《鎌倉彫カフェ俱利》。
精進出汁ベースの料理を、鎌倉彫のうつわでいただける、なかなかめずらしいお店だ。
朝どれの鎌倉野菜はレンバイから、肉や魚や豆腐も地元のお店から仕入れているという。
事前オーダー推奨とのことで、電話予約時に注文を入れた。
そのやりとりの結びが、冒頭の青春アミーゴである。
前歯が旅立ちそうな友人は刻御膳、口内炎が生まれそうなわたしはふすま麺を選んだ。
だから、トキとメン。
品数はさほど多くないが、くしくも互いの体調に合わせて選べた。
なにより、スーパーロングサマーのおかげで、夏限定メニューが9月末まで延長されていたのがうれしい。
はじめて今夏の暑さに感謝した、と友は言う。いかにも。
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コンクリート打ちっぱなしの階段をあがると、クスノキのあたたかみのあるテーブルや、ハンモックかと思うくらいおしりが沈み込むイスが迎えてくれる。
直線的で無機質な外観とうってかわって、すこし段差のあるテーブルや、自然光を活かした明るすぎない照明に、人間の息づかいを感じた。
事前オーダーしていたので、トキとメンはわりとすぐやってきた。
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麺もどっさり入っているし、愛でるべき要素も多い。
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ゆがみのない曲線と、しずかな光沢がきわだつ鎌倉彫の漆器。
てざわりもなめらかだ。手の温度と調和するからだろうか。
透きとおる紫蘇ジュースは、すっきりさっぱり。季節はずれの蒸し暑さが、スッと引いていく。
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麺が見えないくらい盛られたあざやかな夏野菜は、青臭さや苦みがなく、シャキシャキである。
精進出汁、しょう油、練りゴマがブレンドされたコクのあるスープが、コシのあるふすま麺によくからむ。
深煎りごまドレッシングを愛しているため、この出汁ベースの練りゴマスープはとても好みの味で、迷わず飲み干した。
鎌倉彫のうつわは、プラスチックや陶器のうつわではかなわない、まろやかな冷たさを保ってくれているように思う。
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料理には不釣り合いだが、ドリンクは国産みかんジュースを選んだ。
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このユニット、Mステ出てそう。
カフェ併設のショップには、この日使った食器や、鎌倉彫のアクセサリーが並んでいた。
さすが経済産業大臣指定の伝統工芸品、というお値段。
料理自体、ランチにしては少々値が張るのだが、お盆が食事代の10倍以上することを考えると、それはそうだなと思う。
食べる前に値札を見ていたら、手がふるえていたかもしれない。
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塩気のあとは、自動的に甘味である。
80メートルほど移動して、鳩サブレーの豊島屋さんが営む洋菓子店《豊島屋洋菓子鋪 置石》のカフェへ。
観光客の集合場所のようになっている、豊島屋本店の真向かいだ。
売店は何度か利用しているが、2階のカフェは初めて入る。
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窓に面したカウンター席からは、若宮大路と檀葛を見下ろすことができる。桜の季節は絶景だろう。
二の鳥居の真横なので、席によっては鳥居の圧がすごい。めったに見られない鳥居の横顔。
そして、おてふきはハトの圧がすごい。ハトの総柄、豊島屋特注おてふき。
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ケーキは、ショコラデバナナを選んだ。
写真を見たひとほぼ全員に「その角砂糖みたいなのなに?」と訊かれたのだが、バナナのクリームと思われる。
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とてもやわらかいので、どうやってキューブ状にしたのか謎。
ちいさいのに、すこぶるバナナ。このケーキにおけるバナナ要素を一手に請け負っているくらいバナナ。
ミニオンズ寄ってきそうなくらいバナナ。
下の豊島屋カラーのムースは、予想に反してほんのりのバナナ味。
舌ざわりがなめらかで、土台のダクワーズ生地と、天面にあしらわれたマカロン風のフィアンティーヌのサクサク感と溶け合う。
和菓子屋のケーキはあなどれない、とあらためて感じた。
伝票がわりの札が、てづくり感あふれていてかわいらしい。
ん?うっ、え、F…!?
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もれなくドラマのVIVANTを毎週観ていたので、一瞬、頭痛がして頭のキレる人格に入れ替わるのかと思った。
入れ替わらなかった。
はちキレそうなのは腹だし、痛いのは口内炎。
VIVANTを見ていなかったと思しき友人から、おだやかに「イニシャルだねえ、よかったねえ」と言われて我に返る。
そうだ、わたしはそもそもFなのだ。
冷静になれよ、ミ・アミーゴ。
ところで、友人は育ちもいまも生粋の鎌倉人なので、歩くたびに
「ここ同級生の店」
「ここは前〇〇だったけど、いま更地」
「この店は〇〇が親会社」
「ここすっごい家賃高い」
と、ガイドブックには絶対載せられない鎌倉情報を教えてくれる。
鎌倉彫カフェ倶利も、オープン当初のプロデューサーさんと知り合いだった。
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このステーションスタンプの存在は知らなかったようだが、「えっ、豊島屋さんよく許可出したね、版権厳しいのに」と返ってきた。
ミ・アミーゴ、地元じゃ負け知らず。