フルーツ白玉と金楚糕
会社のデスクに置かれていたこれを見て、「ああ、無事に帰ってきたんだな」と思った。
同僚が、休暇で沖縄へ旅立った。
その直後、迷子の台風が天気を翻弄したため、無事に東京へ帰ってこられるかどうかみんな気にかけていた。
彼女は営業職なのであまり顔を合わせることがなく、デスク上のちんすこうで無事に帰ってきたことを確認。
あとで聞いた話だと、延泊はしたものの現地はずっと晴れており、なんだか悪いことをしている気持ちになっていたとか。
永年勤続の休暇なのだから、堂々と帰ってきたらいい。満喫できてよかった。
ちんすこうといえば、沖縄みやげの定番である。
漢字で書くと金楚糕だそうだ。
漢字表記があったのか。金平糖のひいおじいちゃんっぽい。
読めないし書けないが、後半の細かいパーツがちんすこうのサクホロ食感を表しているような気がしなくもない。
とくに最後の字、風が吹いたら全部粉々になって飛んでいきそうだ。
その歴史は古く、15世紀の琉球王国時代に中国から伝わり、進化を遂げてきたという。
当初は米粉を使ったカステラのような蒸し菓子で、明治に入ってから今のサクホロ食感になったのだとか。
夕方の小腹満たしに、ありがとうちんすこう。
沖縄行ったことないな、砂浜はさらさらで、こんな感じにミルキーな金色なんだろうな、と南国に思いを馳せた。
甘い香りを漂わせながらも、雪塩のやわらかな塩味が効いている。
食感はサクホロなので、ほんの少し、本当にほんの少しだけ朝晩に秋を感じ取れるようになった今の季節に、合う。
一方、こちらは誰もが読めるし書けるフルーツ「白玉」。
バナナ、ルビーグレープフルーツ、オレンジ、ブルーベリー、皮つきのスイカ、メロン、ぶどう、マスカット。
色とりどりのフルーツがもりもりで、不安になるほど白玉が見えないが、500円玉サイズが3個入っていた。
ひたひたに注ぎ込まれた透き通る液体は、自家製のレモンシロップだという。
さまざまな果物の味が染み込んでこれ以上ないくらいフルーティーだし、白玉はまんまるふっくらつるん。
ふくふくもちもちしながらも歯切れのよい食感は、さすが和菓子屋の白玉。
子供のころ、よく白玉を作ってあんこや黒みつで食べたのを思い出した。
白玉粉を水で練って、まるめて、真ん中をすこし凹ませて、まではたのしい。
沸騰したお湯が熱くてこわくて、せっかくまるめた白玉の端っこを指でつまみ恐る恐る入れたから、大量のホイップスライムがお湯の中にあらわれた。
あと、早く食べたいばっかりに冷えるのを待ちきれず、ホイップスライムのほとんどは生温かかった。
晩夏の家庭の味、というイメージだったが、色とりどりの果物と合わせると一気に高級感が増すし、涼しげである。
白玉はちんすこうよりもはるかに歴史が古く、鎌倉時代に中国の渡来僧がもたらしたと言われているとか。
大衆に広まったのは、砂糖や餡が手に入れやすくなった江戸時代とのこと。
江戸のひとは白玉のことを「ひらたま」と発音していたのだろうか、まあどちらかというと平べったいからひらたまでもいいな、などと思いながらたいらげる。
果実の恵みたっぷりのレモンシロップも全部いただく。
終わりゆく(はずの)夏を飲み干してやった気分だ。
名残惜しい気もするが、暑すぎて倒れてしまうような昨今の夏には、太平洋高気圧とともにスッとお引き取りいただきたい。
夏と冬は、始まる、という表現をすることが多いように思う。
ところが、秋は往々にして見つけてもらうのを健気に待っているし、深夜の帰宅のように気を遣ってそっと訪れがち。
そんなにひかえめにしないで、さわやかな秋が堂々とやってきますように。
食欲の秋ィ~。