おふとりのチョコパイ
タイプミスには、深層心理が反映されがちだと思う。
「売り上げ」を「打ち上げ」と打ってみたり、「お願いいたします」を「お願い足します」と打ってみたり。
最近ちょっとおなか周りにハリが出て来たな・・・と思っていた男性が、
「明日の来客はおふとりになりました」
とメールを送ってきたときは、説が立証された気がした。
本当は「おふたりになりました」と書きたかったらしい。
かくいうわたしも「おいそがしいところ、ありがとうございます」と打ったつもりが、「おいしかしいところ」と打っていた。
そして、ご丁寧に「美味し菓子いところ」と変換までしていた。
菓子関連の仕事をしてまあまあ経つが、この打ち間違いははじめてである。
近頃のわたしの深層心理を牛耳っていたのは、多分これだ。
2021年の冬からスーパー限定で販売していたらしいのだが、最近その存在を知った。
近所のスーパーの月間おすすめ品に選ばれていて、強制的に目に付いたのだ。
あのチョコパイが生に、という触れ込みよりも、「たっぷり生クリーム350%」という手書き風の文字が目に飛び込んでくる。
そうめんのような、細くてさらさらした文字なのに。
直径は通常チョコパイとさほど変わらないまでも、その厚み、まるで大判焼き。4㎝はあろうか。
通常チョコパイと比較して、ボリューム190%、水分量240%、クリーム量350%だそうだ。
念のため、通常チョコパイと比較してみる。
その厚み、約2㎝はあるのだが、生チョコパイと比較するとだいぶスリムに見える。《ボリューム190%》には納得。
仕立てたばかりのふわふわ羽毛布団と、長らく愛用して体にフィットする羽毛布団のような違いだろうか。
いや、生チョコパイがおふとりになられたと言うべきなのか。
スポンジよりも、レコード大賞よりも輝く、1.5㎝はあろう生クリーム層の圧倒的な存在感。
こちらも念のため通常チョコパイと比較。
上質なお着物の帯と、旅館で着る浴衣の帯くらいの差はある。
通常チョコパイの生クリームの厚みは約5㎜だったので、生チョコパイがウリにしている《クリーム350%》というのはあながち間違いではない。
肝心の味は、生クリームとチョコレート好きには、至福の極み。
スポンジ部分はしっとりしているのにふわふわでやわらかく、生クリームは分厚いのに全然くどくない。
要冷蔵商品ゆえに、薄いチョコレートのコーティングがパリパリで、これが全体を引き締めてくれる。
《水分量240%》は検証が難しいものの、体感では400%くらいに感じる。スポンジと生クリームの部分だけで言えば、いちごの入っていないショートケーキのよう。
先月は月間で15個は買い、2日に1回のペースで消費した。
消費期限が短いので、一度に買える量は限られているが、スーパーで見つけると真顔で次から次へとカゴに放り込んでいる。
通路をはさんで後ろの飲料コーナーで、幻のヤクルト1000が一瞬入荷していたのには目もくれず。
通常チョコパイは年間でひと箱買うか買わないかだ。コンビニで売っているバラ売りタイプも、3カ月に1回程度。
満足感も、食べ応えも通常チョコパイをはるかに上回る生チョコパイだが、一番上回っているのはわたしのチョコパイ購入量である。
指先からこぼれ落ちた潜在意識。妙なタイプミスもするわけだ。
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