アリふれた甘いはなし
何年か前のこの季節だったと思う。家のベランダに面する窓際に、体長2~3ミリのアリが何匹か右往左往していた。
何でも植える母の趣味でベランダにはプランターが所狭しと置いてあるし、網戸はところどころ破けていて出入り自由。どこかの土に紛れていたのだろう。食べカスでもこぼしたかな。
しばらく眺めていたら、アリさんとアリさんは意外とごっつんこしないことが分かった。
それはどうでもよくて、君たち一体どこからおつかいに来たの。
アジトを突き止めないことには、アブラムシよろしくアリと共生していくことになる。
賞味期限の切れてしまったあめ玉を窓際に置いてみた。彼らがそれをどこに持ち帰るか観察すれば、アジトを突き止められる。リアルハニートラップ。
続々と列をなして集まってくるアリたち。黒山のアリだかり。いいぞいいぞ、たんと召し上がれ。そして持ち帰れ。運んでいるところが見たい。
ところが、なかなか帰らないおともだち。
というか、あめ玉にへばりついてじっと動かないおともだち。
あめ玉は、陽に当たって徐々に溶けていた。ネバネバになった甘い汁に溺れて、動けなくなってしまっているおともだち。
アリは自分の体重の何千倍もの重さを運べると聞いたことがあったので、大玉転がしみたいに運ぶかな、と目論んでいたのだが、さすがにあめ玉が大きすぎたか。あいたたごめんよ。
しかしこれだと水際対策にしかならない。アジトをつきとめないと。あと、運んでいるところが見たい。
あめ玉が無理なら砂糖はどうだ。小粒だしこれなら運べるだろう。そう、運んでいるところが見たい(目的が変わっている)。
容器に白砂糖を入れて、放置。
いいぞいいぞ、数匹うろうろしている。
数時間後。
数匹うろうろしている。
翌日。
いない。
・・・あめ玉で仲間が召されたから、警戒されたかな?
・・・あめ玉に比べて、砂糖はにおいが弱いのかな?
少し水を入れて砂糖水にしてみたりしたが、まったく来ない。
アリよさらば。
そっと、砂糖の匂いを嗅いでみる。
驚くほど無臭。これじゃさすがのアリも来ないか。
そっと、白い粉に触れてみる。
固いパラパラとした手触り。乾燥しちゃったのかな。
あ
まさか・・・
ひょっとして、これ、よくコショウと一緒に少々するやつでは…?
台所に行き、隣接した2種類の白い粉と見比べてみる。
ああ・・・
ねえ・・・
これ、塩だねぇ
そりゃ来ないよねェ
塩対応だもの
というか
盛り塩しちゃってたんだねェ
あめ玉で召されたおともだち、成仏できたかなァ
料理でも砂糖と塩間違えたことないのに!
アリがちなトラップにハマったのはわたしだった。