みればみるほどみかん
押したときにはまだ100いいねくらいだったポストが、いつの間にかバズっていておどろいた。
しかも、この間行ったばかりのお店だ。
イノベーター理論における、アーリーアダプター(早期購入者)になったような気分。
ほんのりした優越感のようなものがまとわりつく。
緑のはさみ菊に、白い粉をかけて黄色や赤をあしらったら、見事なクリスマスツリー。
練り切りは、季節に擬態する。
オフィスビルのロビーで、機械的に輝くクリスマスツリーは、ときおり憎たらしい。
が、このできたての小さなツリーは、大変いとおしい。
おなじくオフィスビルのロビーで、かざってもかざっても落下して管理会社を手こずらせるクリスマスリースと同じくらい、いとおしい。
バズるのもうなずける。
このお店は、西鎌倉にある。
小町通りや大仏、鶴岡八幡宮があるいわゆる「鎌倉」からは5㎞くらいはなれており、山々に囲まれた閑静な住宅街。
大船駅と江ノ島駅をむすぶ湘南モノレールに乗って、西鎌倉駅で下車。
日本では数少ない懸垂型モノレールだ。
浮遊感と、車窓からさえぎるものなしに見下ろす地上の景色は、レールの上を走る電車ではなかなか味わえない。
そして、結構なスピードを出すし勾配もあるため、わりと揺れる。
鎌倉観光というと江ノ電のイメージがつよいが、鎌倉にお越しの際はぜひこのアトラクションも楽しんでいただきたい。
西鎌倉駅から、徒歩7分ほど。
しずかな住宅街のなかにある、一軒家のザ・和菓子屋。
わたしがこの店に足を運んだのは、クリスマスツリーの練り切り目的ではなかった。
おなじく数日前にポストされていた、こちらが目当て。
日本の冬のモチーフ、みかんに擬態した練り切り。
ただのみかんではなくて、むきかけのみかんの状態を切り取っているのがいい。
うしろで整列して待機しているみかんも、大変あいらしい。
あまりにもリアル。再現度の高さに舌を巻いた。
クリスマスツリーより手がこんでいるのではないか。
無事入手できたのは、お店の投稿に写るみかんよりも、さらに皮むきはじめのみかん。
皮に爪をたてた瞬間にだれかによばれてしまって、みかんの甘酸っぱい香りだけを置いていったような。
皮をむいたときのギザギザ感、皮の裏側のもけもけ感、そしてなにより、果肉へのアルベド(白いスジ)の付き方。
みればみるほどにリアルだ。
好奇心で皮のつづきをそうっとめくったら、見えているところ以外はきれいな白あんだった。そりゃそうだ。
見ない方が、知らない方がいいことはこの世にたくさんある。秘すれば花。
みかんの味はしないものの、なめらかで上品な甘さ。
あずきやインゲン豆といったひかえめな色合いの小さなまんまるが、砂糖や着色料の力をかりて、いろんなものに擬態する。
原料の力だけではなくて、作り手の観察眼やこだわり、菓子への愛情も影響していそうだ。
師走のあわただしさで「メリークリスマスだよばかやろう」と思う日が続くなか、冬のひだまりのような味にしばしホッとした。
某朝ドラの「菓子は苦しいときほど必要なもんじゃとわしは思う」という和菓子屋の店主のセリフが頭をよぎる。
わたしが売っているのも菓子なのはさておき。
ちなみに、某朝ドラは第一部をまともに観ていなかったため、いまごろ再放送で没頭している。
こちらに関しては、イノベーター理論におけるレイトマジョリティ、もしくはラガード(遅滞者)かもしれない。