心ゆかし無花果チョコ
大人になって、魅力が分かったものがいくつかある。
わさび、エレカシ、テレビ東京、腹巻き、ハーブティー、等。
なかでも、いちじくは最たるものだ。
小学生のとき、伯母の家で出されたいちじくのコンポートは「気取った甘いナス」としか思えなかった。
味覚が変化したのか、舌が成長したのか。
いつのまにか、そのとろりとした食感、ひかえめな甘さ、栄養価の高さに魅了された。まさに禁断の果実。果実というか、食べているのはほぼ花だけれど、そこもまた神秘的でいい。
チョコレートとの相性選手権・果物部門の金メダルはオレンジだと思っているが、銀メダルを授与したいのはいちじくだ。
チョコレートの濃厚さに負けない、和すら感じる落ち着いた甘みと、やわらかさがいい。
昨年、人からいただいてその存在を知り、マイベストいちじくチョコレートに君臨したのは《ラビトスロワイヤル》。
戦隊ヒーローのピンクが放つ必殺技っぽい。
昨年は出遅れたが、今年は無事にカルディで入手できた。
化粧水と見紛うような縦長の函に入ったダーク、ホワイト、塩キャラメル。そして、愛らしいピンクの包みを全面に見せてくるルビーチョコレート。
そうね誕生石ならルビーなの、で、ルビーチョコレートを選んだ。
ブラック、ホワイト、ブロンドに次ぐ第4のチョコレートといわれるルビーチョコレートは、あのカレボー社が10年以上かけて開発したルビーカカオが原料。
この色で着色料は使っていないのだという。
やわらかな春の色合いがどことなくひなまつりすら彷彿とさせるし、いちじくそのものを模したようなコロンとしたフォルムがかわいい。
塩キャラメルとホワイトは洋酒不使用なので、お酒が苦手な方にもおすすめである。
ルビーチョコレートのほのかな果実感と、パリンと割れるくちどけのよい薄さ、ドライいちじくのとろとろとした濃厚な甘み、洋酒の華やかな香りが効いたホワイトチョコレートフィリングが、まさに贅沢な大人の味わい。
ただ、プチプチは無邪気に歯にはさまってくる。ラズベリーの種ほどではないけれど。
日本語の裏面表示シールから、原文裏面表示がはみ出して、見てもらいたそうにこちらを見ている。
わたしのお楽しみはこれからだ。
予想通り、複数の異国言語で書かれた極小文字がお出ましした。
原産国のスペイン語、安心の英語、雰囲気でなんとなくいけるフランス語、わかりそうでわからないドイツ語に続いて、絵文字、もといキリル文字。
ロシア周辺でも流通しているのだろうか。もしかしてモンゴル?
他の言語と照らし合わせ、砂糖はсахар、乳はмолоко、チョコレートはшоколад、いちじくはинжиρだと解読した。
ロゼッタストーンでヒエログリフを解読したシャンポリオンの気持ちが分かった。ちょっとニヤニヤしていたと思う。
шоколад(シャカラート的な)など、発音はなんとなく英語に近いような気がするが、この文字からこの発音は想像がつかない。ウォコナーとか読みたいし、Дは絶対なにか叫んでいるし、Лは風に吹かれた洗濯物。
底面をみると、今度は見なれぬ記号があらわれた。
三角の中に数字が描かれているのは雰囲気的にプラスチックや紙製品の材質表示マークだと思うが、国内ではペットボトルの識別マークとして1番しか表示が義務付けられていない。数字が大きいのは海外製品の証と言えよう。
その隣の矢印をギュっとしたようなマークは、グリューネ・プンクト(グリーンドット)という、環境先進国ドイツ発のリサイクルマークと知った。
「デュアルシステムで包装廃棄物を回収するために包装材につけられるマークで、輸入品にも適用される」らしい。
デュアルシステムとは、学術的教育と職業教育を同時に進めるシステムのことだそうだ。ちょっと頭がデュアル状態なのでこの辺にしておこう。
一番左のグラスとフォークのマークは何だろう。「ワインに合うよ」とか「おいしいよ」とか「召しあがれ」というメッセージだったら気持ちが楽だ。
「グラスとフォークのマーク」で検索すると、知恵の袋がドヤ顔で「食器洗浄器使用可能のマークです」と検索結果を上位に提示してくるのだが、アライグマじゃないのだから。
これは、EUにおいて食品用器具材料で作られたことを示すマークだそうだ。いちじくが描かれたピンクの包装紙は食品に触れても安全な材料です、ということを示しているのだろうか。
はるか海の向こうから、美味しさと学びをどうもありがとう。
大人になって魅力が分かったものに、裏面表示も足しておこう。