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映画『アラビアのロレンス』(1962)

今年の1月から映画の感想(と呼べるようなモンじゃありゃせんが)を書くようになり、今回の投稿がちょうど50本目。
50本?まだまだですね。もっと書きたい映画はたくさんあるはずなんですが。来年は年100本くらいは書きたいな。

さて記念すべき50本目の映画は、1962年デヴィッド・リーン監督による『アラビアのロレンス』〔原題:Lawrence of Arabia〕です。
節目を飾るにはよさそうな超大作ですが、これは偶然。先日デヴィッド・リーン監督の『戦場にかける橋』を見たので、続けて同監督の作品を見直してみようと思ったまでのこと。

デヴィッド・リーンが1957年の『戦場にかける橋』の次に撮ったのが、『アラビアのロレンス』。前作を上回る大作に仕上がっています。映画は、オリジナル版で207分、完全版で227分になる長尺で、インターミッション(休憩)が入る。
冒頭の序曲と休憩のあいだはモーリス・ジャールの名曲が流れる。

上映時間が長いということで、撮影期間も長かったことでしょう。セットを組んで撮影するのと違い、大自然が相手ですからなおさらです。

アカデミー賞では10部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、作曲賞、録音賞、カラー映画の美術賞、カラー映画の撮影賞、編集賞の7部門でオスカーを獲得。当時は白黒映画とカラー映画で美術や撮影の部門は分かれていた。デヴィッド・リーン監督は『戦場にかける橋』に次いで再び監督賞を受賞。
ちなみにノミネートで終わったのは、主演男優賞(ピーター・オトゥール)、助演男優賞(オマー・シャリフ)、脚色賞です。

「アラビアのロレンス」ことトーマス・エドワード・ロレンス(1888-1935)は実在の人物。第一次世界大戦時のイギリス軍人で、アラブ人によるオスマン帝国への反乱を支援した。

映画はロレンスのオートバイ事故死から始まる。彼の葬儀に参列する人々から、どんな人物だったか語られ、生前のロレンスへと映画は時間をさかのぼる。

ロレンスはちょっと変わった人物のようです。ほかの英国人たちと違い砂漠と砂漠の民を愛してやまない。彼は砂漠をクリーンだと言う。
アラブに派遣された当初は、誰もなしえない奇跡のような作戦に成功し、それこそ自分が神にでもなったかのような振る舞いがみられますが、砂漠は彼の精神を次第に蝕んでゆく。

砂漠にもいろいろある。赤土のような岩場のある砂漠であったり、見渡す限り白く遮るものが何もない砂漠であったり。とても地球上の空間とは思われない。SF映画の舞台にもなりそうな土地がひろがる。
灼熱の太陽が照り付ける昼の顔もあれば、静かな夜の顔もある。行く手を遮る砂の嵐もあれば、非情にも人を飲み込む流砂もある。

こうしてロレンスのアラブに抱いた理想は、あらがえないアラブの現実に飲み込まれてゆく。
『アラビアのロレンス』の本当の主役は、砂漠かもしれないと思う。カメラはときどき人々を豆粒のように超絶ロングショットでとらえる。

好きなシーンをいくつかご紹介。
オマー・シャリフ演じるアリの登場シーン。遥か彼方の地平線にゆらめく陽炎の向こうから彼がやってくる。誰が来るのだろうと観客の注意をひきつけてからアリが身近にくるまでの時間が、この映画らしさでもある。

ピーター・オトゥール演じるロレンスがマッチの火を吹き消すと、砂漠に昇る真っ赤な太陽のショットになり、一気に観客を砂漠へと連れてゆく。
ただの場面転換ではなく、マッチの炎が効果的に使われている。

映画の最後で傷心のロレンスが乗る車がバイクに追い抜かれるシーンがある。そこで観客は冒頭のバイク事故を思い出す。

イギリスの名優アレック・ギネスがアラブの皇子を演じている。この人はカメレオン俳優的にうまく変じる。言われなければ『戦場にかける橋』のニコルソンだとは思えないだろう。デヴィッド・リーン監督の『インドへの道』ではインド人にもなっていた。

ロレンスがイギリス軍人の軍服ではなくアラブの民の服を与えられてひとり踊るように喜んでいるところをアンソニー・クイン演じるアウダ・アブ・タイに見られて、ギョッとするところも個人的にはツボです。

綺麗な新しい服を着て踊るように喜ぶのって、ちょっと少女っぽいでしょ。この映画の中ではハッキリ語られていないけれど、ロレンスはいくらかLGBT寄りの人だったようですね。同胞に小走りで近づいてくる様子も軍人には見えない。

『アラビアのロレンス』(1962)
Lawrence of Arabia
監督:デヴィッド・リーン
製作:サム・スピーゲル
脚色:ロバート・ボルト、マイケル・ウィルソン
撮影:フレディ・ヤング
音楽:モーリス・ジャール
美術:ジョン・ボックス
出演
ピーター・オトゥール … ロレンス
オマー・シャリフ … アリ
アレック・ギネス … ファイサル王子
アンソニー・クイン … アウダ・アブ・タイ
ジャック・ホーキンス … アレンビー将軍
ホセ・フェラー
アンソニー・クエイル
クロード・レインズ
アーサー・ケネディ

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