映画『泥棒成金』(1955)
こんばんわ、唐崎夜雨です。
日曜の夕べは映画です。
というわけで今夜ご紹介するのは『泥棒成金』(原題:To Catch a Thief)。
アルフレッド・ヒッチコック監督の1955年の作品。カラー映画。
ヒッチコックは「サスペンスの神さま」と称されるほどサスペンス映画を多く撮っていますが、『泥棒成金』はサスペンス色はやや控えめで、ヒッチ流のロマンティック・コメディといった趣を感じさせる楽しい作品です。
また『泥棒成金』は、グレース・ケリーと南フランスの美しい風景をとらえた映画でもあります。
グレース・ケリーはこの映画の翌年にモナコ公国のお妃となられるため映画界を引退。わずかに10本ちょっとの映画出演しかない。
1982年、自ら運転する車で事故をおこし亡くなる。享年52歳。
『泥棒成金』の劇中、南フランスをグレース・ケリー演じる女性がスピードを出して車を運転し、助手席にのるケーリー・グラントをハラハラさせるシーンがある。
ホントは笑いを誘うシーンだろうけど、ちょっと複雑な心境である。
あらすじ
ところは、地中海に面した南フランスの高級リゾート地。
ここで宝石の盗難事件が続く。その手口はかつて“キャット”と呼ばれた宝石泥棒ジョン・ロビー(ケーリー・グラント)にそっくりだった。
彼は戦時中のレジスタンス活動により、いまは悠々自適な生活を送っていた。警察に追われる身となったジョンは、自らの手で真犯人を捕まえようと、かつての仲間(シャルル・ヴァネル)から保険会社のヒューソン(ジョン・ウィリアムズ)を紹介される。
ヒューソンからニセ“キャット”が狙いそうな宝石の所有者リストを得たジョンは、材木商と偽ってアメリカ人のスティーブンス夫人(ジェシー・ロイス・ランディス)に近づく。夫人はフランシー(グレース・ケリー)という美しい娘と一緒に旅していた。
美しい風景と人々
この作品の見どころと言えばまず、舞台となる風光明媚な南フランスでしょう。カラー映画を意識してなのか、カラフルな印象の映画になっています。
たとえばロマンティックな花火のシーンや、花市場での大乱戦、そして賑やかな仮装パーティなどが用意されています。
夜のシーンもある。宝石泥棒が主役ですから当然といえば当然なのですが、夜の月あかりが緑なのが興味ぶかい。日本だと青っぽくしませんかね。
キャストの魅力
そしてここにはケーリー・グラントとグレース・ケリーの魅力が詰まっている。
ケーリー・グラント演じるジョン・ロビーは引退して悠々自適な宝石泥棒というちょっと変わったキャラクターです。
戦時中のレジスタンス活動で多くの人の命も奪っている。タフな二枚目のようで三枚目でもある。
一方のグレース・ケリーはエレガントで美しい上流社会のお嬢さんのように見えますが、実は所有する土地から石油が出たというアメリカの成金の娘。
彼女が演じるフランシーは積極的な女性です。
ジョン・ロビーと出会ったその夜に、彼女のほうからキスをします。実際には、その夜より前から彼女はジョン・ロビーを目撃していて「獲物」にしていたのです。
それにジョン・ロビーのむかしの仲間の娘ダニエルが、恋のライバルとして登場してもフランシーは揺るぎません。かえって積極策にでます。
彼女の運転で町が見下ろせる高台までドライブし、そこでフライドチキンとビールのランチ。男がかつて名を馳せた宝石泥棒で、いまは警察に追われているとわかっても、彼女はかえってワクワクしています。
この母親がまた肝っ玉の据わったおっかさんです。
どんな女性かはくだくだしい説明をするよりも、タバコの火を目玉焼きの黄身で消すショットがすべてを物語っています。
クライマックスは仮装パーティの夜
クライマックスは新旧キャットの対決です。仮装パーティーの行われた屋敷で、みなが寝静まってから屋根の上で本物キャットが偽物キャットをとらえます。
このとき警察が下から屋根に照明をあてジョン・ロビーをとらえる。ジョン・ロビーの向こうに光源があり彼がシルエットになって浮かびます。
このショットをみて、地下水道で逃げ回るハリー・ライムを光源がとらえたショット(『第三の男』)を思い出しました。
見つかった時に、驚きの顔を見せるのではなく、後ろ姿しかもシルエットで見せるというのが、まさに映画だと思う。
最後に、ヒッチコックの映画といえば監督ご自身がちらっと登場するのがお決まりです。
『泥棒成金』はジョン・ロビーが乗ったバスの左隣(むかって右側)に座っています。ヒッチコックと反対側の席には、かごの中の鳥がいます。ヒッチコックは『鳥』という映画があるし『サイコ』でも鳥の剥製が印象的に使われている。
彼は鳥が好きなのか、それとも怖いのか。
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