映画『犬神家の一族』(1976)
本日ご案内する映画は、1976年公開『犬神家の一族』。角川春樹事務所の第一回作品。名探偵・金田一耕助の登場です!この時点で脳内には大野雄二の「愛のバラード」が流れまくっております!!
昭和二十二年二月、一代で巨大製薬会社を築いた犬神佐兵衛が亡くなる。莫大な遺産をめぐり一族に連続殺人事件が起きてしまう。
原作 横溝正史
監督 市川崑
原作の小説も映画も古い作品なので、ネタバレを気にせず筆を進めています。あらかじめ、ご了承ください。
金田一耕助役は石坂浩二。私的には歴代金田一で一番です。
金田一は事件という“舞台”の中心に立たない。自意識過剰なところがない。自らがスポットライトを浴びることはない。
終盤、一族を前に真相を解き明かす時ですら、上座に座るわけではないのが象徴的。その場の主役は犯人であり、あるいは故人犬神佐兵衛である。
そんな謙虚な金田一は、探偵の必要経費だとか、報酬は幾らいくらでと、領収書もちゃんと書いて依頼主に渡す。
これ以前も以後も映像の探偵はあまりそうゆう律儀なことはしてないように思う。
ふわりとした存在だが、どこかマメである。
さてこの事件、遺産をめぐる単純な私利私欲が原因かと思いきや、ちょっと複雑なところがある。
母が我が子を想う故に過ちを犯してしまうのが本作の特徴。もっといえば市川崑監督による金田一シリーズの特徴でもある。
そんなこと許されるわけもないこと理性では分かっていますが、情の部分では共感してしまう。ひとつには背景に戦争がある。あるいは因襲的な家父長制の中で男性の欲望の犠牲となった女性という側面がある。
物語のみならず『犬神家の一族』の映像表現も楽しんでいただきたい。
この作品の頃の市川崑監督はすでに還暦前後で巨匠と呼んでもよさそうなものですが、映画学校の学生のようにいろいろな映像表現を駆使しています。
好きなシーンのひとつに佐兵衛翁の遺言状が開封の場がある。
弁護士が佐兵衛の遺言を読み上げたあと、長女の松子が「その遺言状は偽物です」と弁護士に異議をとなえる。三女梅子がこれに参戦、最後には次女竹子も乗り出してくる。
このおよそ30秒くらいのセリフの応酬の場面が、40以上のカットで作られている。アクション映画でもここまでは致しますまい。映画は編集でリズムが生まれる。
また犬神三姉妹が父の愛人の元へ乗り込んでいくシーンも印象深い。
三姉妹の娘時代の話。よくある映画なら若い女優さんを使って娘時代を撮るでしょう。ところが、そうはしない。高峰三枝子、三条美紀、草笛光子に白塗りの娘姿をさせる。これを残像の残るスローモーションで撮影。三姉妹のこの殴り込みは物語のうえでも壮絶なシーンだけに、映像的にも印象に残るようにしている。
高峰三枝子演じる松子の顔に血しぶきが想定以上にかかってしまった件。
スタッフの調整ミスで大量に顔面にかかってしまったが、大女優はここで芝居を止めずに続けた。
息子を殺された三條美紀演じる竹子の狂乱ぶりが凄まじい。
草笛光子演じる梅子はいつも着物をいくらか崩してきている。
市川崑監督は随所にホッとするようなシーンを持ってくる。
旅館の女中坂口良子、署長の加藤武、宿屋の主人三木のり平などにコミカルな担当をさせている。
最後に、『犬神家の一族』はこれまでにも何度かソフト化されていて、諸般の事情あってか、その都度微妙に色彩が違っている。現在アマゾンプライムなどで見ることができるものはHDマスター版だとおもわれ、いくらか黄色がかっている。
これはこれで古い感じがして味わい深いのですが、今回は4kデジタル修復版で視聴。
最近撮影したのかと思えるくらいにクリアな映像。山紫水明が鮮やかであり、たとえば女性の着物のこまかい柄とか、これまで気が付かなかったようなところにも目がとどくようになった。デジタル修復に感謝。