映画『ゴスフォード・パーク』(2001)紅茶とディナーと殺人事件
こんばんわ、
柏餅は味噌餡に惹かれる唐崎夜雨です。
今夜ご紹介する映画はロバート・アルトマン監督の
『ゴスフォード・パーク』(Gosford Park)です。
イギリスのカントリー・ハウスを舞台にした群像劇で、この年のアカデミー賞では脚本賞を受賞しています。
アガサ・クリスティ風のミステリーに仕上がっています。
もともとロバート・アルトマン監督はクリスティ作品の映画化を望んだのですが、手垢の付いていない作品が無いので、そんなら創っちゃえということになったそうです。
しかし、誰が犯人かといったミステリーの謎ときには関心がないご様子。
時代は第一次と第二次の世界大戦の間になる1932年。昭和七年。
ロンドン郊外のゴスフォード・パークでのホームパーティに集う紳士淑女。
彼ら貴族階級の人々には身の回りの世話をする従者やメイドが付き従う。
映画『ゴスフォード・パーク』の魅力はこの2つのグループ、着飾った「階上の人々」と彼らに仕える「階下の人々」のアンサンブルを愉しむ映画になっている。
この階上の人々と階下の人々は別の世界の住人で、基本的には交じり合うことはありません。
階上の人々にとって階下の人々は空気のようであり、そばに居ても居ないような存在。
それでいて、階下の人々がいないと階上の人々はなにもできない。
そのことは当然のことながら貴族たちも分かっている。ですから極めて私的なベッドルームでは友人のような接し方をする。
そんな階上階下の人が集う館のパーティの夜、ゴスフォード・パークの主人が書斎で殺害される。ナイフで胸を刺されているが、実は刺される以前に毒殺されていた。
映画は全体的に、階下の人々からみた階上の人々といった印象です。そこが面白いところです。
たとえば、アガサ・クリスティーの作品でも執事やメイドは出てきますが、かれらは階上の人々から見た存在で描かれていることが多い。それは作者であるクリスティー自身が階上の人だから仕方ないことだろう。
この着飾った階上の人々の関心事はお金である。
貴族階級は実はお金に困っている。ゴスフォード・パークの主人は戦争で財をなした人物らしい。ふるまいも品位の欠ける成金。
されど、浮世はカネがすべて。
招かれた階上の人々の喫緊の課題は、この戦争成金からいかにお金を引き出させるか。
貴族階級は名誉はあっても金はない。それにもかかわらず生活レベルを落とすことは考えていない。そこで娘を金持ちに嫁がせお金をせびることで貴族生活の安泰をはかろうと試みたりしていたようです。
この貴族社会の没落は大英帝国の凋落と重なるのかもしれません。
いっぽうの階下の人々は最初から資産なんかない。ハナっからないから気にしない。使用人たちは住み込みですから、クビは職と住むところを失うわけですが、わりと平気でいられる。
平気といえば、館で殺人事件が起きたのにあまり怖くはないらしい。
階下の人々にとって階上で起きた殺人事件は、たんなるゴシップと変わらない。階上の人々にとって、あまり感情を爆発させないのが英国流かもしれません。なぜ、誰にころされたのかよりも、これからのお金のことのほうが重大な関心事。
招かれた客のなかにハリウッドの映画プロデューサーを混ぜたのは面白い趣向でした。彼はイギリスを舞台にした新作映画のプランのためにカントリーハウスに招待されている。映画プロデューサーはアメリカ人なので彼を通して英国貴族社会のルールならびにイギリス人とアメリカ人の違いを観客に教えてくれる存在になっている。
彼を招待したのは館の主人と親戚のアイヴァー・ノヴェロ。ヒッチコックの映画にも出た実在の俳優です。
ディナーは使用人たちが給仕に忙しいけれど、モーニングはビュッフェ形式で階上の人々も自ら皿をとるのですね。
いっぽう既婚女性はベッドでの朝食が許されるみたい。
こういった当時の、いまもそうなのかな、習慣やルールを知るのもおもしろい。
そして『ゴスフォード・パーク』のいちばんの見どころといってもよいのが、マギー・スミスやヘレン・ミレンといったイギリスの名優が揃っていることです。
ちなみにこの二人、階上の中心的な伯爵夫人を演じたマギー・スミスと、階下の中心的な家政婦長を演じたヘレン・ミレンはそろってアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされていました。
『ハリーポッター』シリーズでダンブルドア校長を演じたマイケル・ガンボン。『ウィンストン・チャーチル』でチャーチル夫人を演じたクリスティン・スコット・トーマス。アラン・ベイツやデレク・ジャコビも出ている。
脚本のジュリアン・フェロウズはのちに『ダウントンアビー』の製作・脚本をしている。雰囲気は似てそう。
テレビドラマは疎くて見ていないのですが、映画化もされているのでいづれ見てみようかな。
『ゴスフォード・パーク』(2001)
監督:ロバート・アルトマン
脚本:ジュリアン・フェロウズ
原案:ロバート・アルトマン、ボブ・バラバン
音楽:パトリック・ドイル
撮影:アンドリュー・ダン
美術:スティーヴン・アルトマン
衣裳デザイン:ジェニー・ビーヴァン
出演
〇階上の人々(Above stairs)
マギー・スミス … コンスタンス・トレンサム伯爵夫人、 シルヴィアの叔母
マイケル・ガンボン … ウィリアム・マッコードル、Gosford Parkの主人
クリスティン・スコット・トーマス … シルヴィア、ウィリアムの妻
カミーラ・ラザフォード … イゾベル、ウィリアムとシルヴィアの娘
チャールズ・ダンス … レイモンド・ストックブリッジ、ルイーザの夫
ジェラルディン・ソマーヴィル … ルイーザ、シルヴィアの妹
トム・ホランダー … アンソニー・メレディス、ラヴィニアの夫
ナターシャ・ワイトマン … ラヴィニア、シルヴィアの末の妹
ジェームズ・ウィルビー … フレディ・ネスビット、パーティの客
クローディー・ブレイクリー … メイベル、フレディの妻
ジェレミー・ノーサム … アイヴァー・ノヴェロ、ウィリアムの親戚、俳優
ボブ・バラバン … モリス・ワイズマン、プロデューサー、ノヴェロの友人
ローレンス・フォックス … ルパート・スタンディッシュ、イゾベルの恋人
トレント・フォード … ジェレミー・ブロンド、ルパートの友人
〇階下の人々(Below stairs)
ケリー・マクドナルド … メアリー、コンスタンスの侍女(lady's maid)
クライヴ・オーウェン … ロバート、レイモンドの従者(valet)
ヘレン・ミレン … ミセス・ウィルソン、家政婦長(housekeeper)
アイリーン・アトキンス … ミセス・クロフト、料理長(the cook)
アラン・ベイツ … ジェニングス、執事(butler)
エミリー・ワトソン … エルシー、メイド(head-housemaid)
デレク・ジャコビ … プロバート、ウィリアムの従者(Sir William's valet)
リチャード・E・グラント … ジョージ、第一下僕(first footman)
ジェレミー・スイフト … アーサー、下僕(footman)
ソフィー・トンプソン … ドロシー、食料貯蔵庫メイド(still-room maid)
メグ・ウィン・オーウェン … ルイス、シルヴィアの侍女(lady's maid)
エイドリアン・スカーボロ … バーンズ、アンソニーの従者
ライアン・フィリップ … ヘンリー・ダントン、モリスの従者
テレサ・チャーチャー … バーサ、台所メイド(kitchen maid)
〇訪問者(Visitors)
スティーヴン・フライ… トンプソン警部(Inspector)
ロン・ウェブスター … デクスター巡査(Constable)