映画『女王蜂』(1978)
市川崑監督、石坂浩二主演の金田一耕助シリーズの4作目『女王蜂』(1978)。これまでの3作品に重要な役で出演していた高峰三枝子、岸恵子、司葉子の三女優がシリーズ再登場。
多少ネタバレ的な記述もあるかと存じます。もう古い作品でもあり、あまり気遣って書いておりません。あらかじめご了承ください。
時代は昭和二十七年。
大道寺智子は京都に暮らす父・銀造と離れ、亡き母・琴絵の生まれ住んでいた天城の月琴の里に家庭教師の神尾秀子らと暮らしていた。しかし智子が19歳になれば京都へ移り住むことが決まっていた。
智子19歳の誕生日を迎えるにあたり銀造はじめ、智子の求婚者3名が京都から月琴の里を訪れていた。
京都へ越すという矢先、求婚者のひとりが殺されているのを智子が発見する。
事件により智子の京都行きに反対する警告文の存在が明らかになる。そこに書かれていたのは、彼女にいい寄る男は殺される、彼女は女王蜂であると。
大道寺智子の身の回りで起きるいま(昭和27年)の連続殺人。この遠因となる智子の実の父の死の真相が金田一耕助によって解き明かされる。
あ、混乱しそうですね。
というのも銀造は智子の実の父ではないのです。
智子の父・仁志は母・琴絵とは結婚しておらず、智子が生まれる前の昭和七年に不慮の事故で亡くなったことにされています。しかし本当は、仁志は殺されたようです。
さらに不可解なのは、仁志の素姓が伏せられている。亡き琴絵も、神尾秀子も智子も知らないまま時が経っている。仁志の学友であった銀造はたぶん知っているけれど黙して語らず。
さて、これまでの3作品が母性的な動機であったのに対し、ここでは父性的もしくは男性的なものが強調されている。
事件のヒロイン智子の母琴絵は昭和27年すでに故人で、母親代りは神尾秀子の役割かもしれません。
神尾秀子の視線は本作の中でも物言わぬ最大の伏線でしょう。
金田一耕助による事件の真相解明を遮るかのような出来事が発生し、真犯人と異なる人物が表向きには犯人となってしまう。
そしてその人物の遺書によって金田一耕助の推理も及ばぬ真相があらためて披露される、というちょっと変わった終局。
金田一耕助も今回は失敗ですと言う。さすがにある人物の心理までは読み切れない。
事件の舞台が伊豆から京都へ、そして京都から伊豆へと移動するのは、少しせわしないかな。
信州の大富豪邸、岡山の寒村、瀬戸内の孤島といった土地あるいは社会ゆえに事件が起きた前作たちに比べるとモノ足りないかな。
京都は野点などお寺でのロケもあって、それらしさもあるけれども、天城の月琴の里は集落が見えてこないので惜しまれる。
大道寺智子役はこれがデビューの中井貴恵。最近はエッセイストかな。俳優、中井貴一のお姉さんで、佐田啓二の娘さん。
シリーズ初顔は大道寺銀造の仲代達矢、智子に言い寄る謎の男連太郎に沖雅也、天城の駐在に伴淳三郎あたりかな。
常連組でツボは三木のり平の元役者、その女房でちんどん屋の草笛光子、その母ちゃんの沼田和子のトリオ。沼田さん、ホントは結髪さん。