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映画『ナイル殺人事件』(1978)

こんばんわ、唐崎夜雨です。
毎週日曜日は映画の随想を投稿することに決めて、今日が最初の日です。

先日アガサ・クリスティ原作の映画『オリエント急行殺人事件』(1974)を投稿したので、今日は同じくクリスティ原作の『ナイル殺人事件』(1978)です。

ミステリーですので、未読および未見の方のためにネタバレはちょっと控えます。

小説および映画の原題は『ナイルに死す(Death on the Nile)』です。シリーズの統一感を出すために邦題を「死す」から「殺人事件」にしたのでしょう。

『ナイル殺人事件』は、名探偵エルキュール・ポワロが活躍する第二作目ですが、1974年『オリエント急行殺人事件』とプロデューサーは同じでも、監督やポワロを演じる俳優は変わっています。

あらすじ

新婚旅行でエジプトを訪れた若き富豪夫妻。妻リネットが資産家で、夫サイモンは結婚前ほとんど無一文であった。新婚夫妻はナイル川のクルーズ船に乗船するが、他の乗船客には夫サイモンの元彼女はじめ、妻リネットとトラブルを抱えている者やリネットを快く思わない者が多かった。
やがて、クルーズ船の中で殺人事件が発生する。リネットが銃で撃たれ殺された。偶然にもクルーズ船に乗船していたエルキュール・ポワロは親友のレイス大佐とともに事件の真相をさぐる。

ピーター・ユスティノフ版ポワロ登場

監督は『タワーリング・インフェルノ』や『キングコング』といった70年代大作映画で知られるジョン・ギラーミン。『オリエント急行殺人事件』に次いで『ナイル殺人事件』も個性的なオールスター映画です。

探偵エルキュール・ポワロ役はピーター・ユスティノフ。『オリエント急行殺人事件』のフケメイクで熱演したアルバート・フィニーと違って、彼は素のままでお爺ちゃん。小男ではなく巨漢に近い。

ピーター・ユスティノフは『スパルタカス』と『トプカピ』で2度アカデミー助演男優賞を受賞している。また『レディL』などで映画監督や脚本もしている。わりと博識多才の人。これ以降もエルキュール・ポワロを何作か演じている。
決して悪くはないのですが、ポワロの「灰色の脳細胞」を自認するには鋭さが欠けており、やや品がない印象があります。

犯人は誰か

『オリエント急行殺人事件』が雪に閉ざされた車内で閉塞的な環境だったのに対して、『ナイル殺人事件』はエジプトの強い日差しを受けて開放的です。事件は船内で起こりますが、乗船客たちは陸にあがって観光もします。

音楽は『太陽がいっぱい』、『ゴッドファーザー』のニーノ・ロータ。

さて、ネタバレにならない程度に申し上げますと、犯人探しはわりと察しがつきやすいかもしれない。

原作もそうだったと思いますが、よくよく眺めて見ると『ナイルに死す』は二人の女と一人の男の愛憎劇だからです。

それに、ミステリーは完璧なアリバイがあるほうが疑わしい。アリバイがある、ハイそうですかと、簡単に容疑者リストから外すわけにはいかない。

ただ、トリックを見破るのは難しいかもしれません。にもかかわらず、なぜか犯人は事を急いで第二の犯行をしたばっかりに第三の犯行もせざるをえなくなり、結果としてポワロにみやぶられてしまう。

老婆心ながら犯人に申し上げれば、エジプトでは用意周到な第一の犯行だけにしておいて、第二の犯行を英国にかえってから実行していたら、ことは露見せずに済んだかもしれないのです。焦りは禁物です。

個性豊かな出演者たち

さて、かりに、ある男女の愛憎劇だとすると、脇が個性的かつ魅力的に物語を撹乱してくれるか否かが重要になる。そして本作では、そこも結構楽しめる映画になっている。

誰がメインで誰がワキかは置いといて、めだつ出演者をご紹介。

まずは『イヴの総て』『何がジェーンに起こったか』のベティ・デイヴィス。この人がいるだけで何か起きそうです。老いて顔が怖くなってきたら、老醜を利用して存在感を発揮させている。

のちに映画でミス・マープルを演じたアンジェラ・ランズベリー、
さらにのちに魔法学校で教師となったマギー・スミス。
かつてローズマリーとして悪魔の子を身ごもったミア・ファロー。このあたりの怪女優が際立っています。

まだ若いジェーン・バーキンやオリヴィア・ハッセーもいます。

男優ではエルキュール・ポワロと共に事件を捜査する大佐役にデヴィッド・ニーヴン。この役者が好きでして、英国紳士然としていながらもコミカルな役どころがはまる。
『人間の証明』『復活の日』といった日本映画にも顔を見せているジョージ・ケネディなど、多彩なキャストが楽しい。

アカデミー賞では、衣装デザイン賞でオスカーを得ている。原作『ナイルに死す』は1930年代の作品なので、映画の時代設定もそれに準じているかと思う。

女性の衣裳が目立ちますが、男性のファッションも素敵です。
いまならもっと軽装で灼熱の太陽の国を遊ぶでしょうが、当時の上流階級の方々はそんなにラフな格好で人前に出ない。

唐崎夜雨がクリスティーのミステリーが好きな一因として、このあたりの時代に魅力を感じるということもあるかな。ま、そのへんの随想はいづれの機会にでも。

それではまた。


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