映画『古都』(1980)山口百恵引退記念映画
ようこそ おいでやす 唐崎夜雨です。
先だって京都へまいりましたので 京都が舞台の映画をごあんない。
山口百恵の 引退記念映画『古都』(1980)。
原作は 川端康成 監督は 市川崑。
映画『古都』は 主演の山口百恵が双子姉妹の二役を演じているのが 見どころ のひとつです。
赤ん坊のときに呉服商の家のまえに捨てられた姉の千重子。北山杉の里で暮らす妹の苗子。
祇園祭の宵山で 祇園さんに導かれるように二人は出会う。
自分が捨て子だと知ってはいた千重子。とつぜん現れた双子の妹苗子の存在に衝撃を受けますが そこは血のつながった姉といもうと。唯一の肉親に惹かれる千重子に対して 京の呉服商の娘となった姉と村娘の自分とでは生きる道が違うと思い定める苗子。
姉妹の物語ではなく、娘と養父母の映画
映画『古都』は 表の顔は双子の姉妹の物語ですが
内面は千重子と彼女の養父母の物語であります。
市川崑監督『古都』は 血はつながっていなくとも長い歳月を暮らしてきた父母と娘の家族の物語に重点を置いているようにも見受けられます。
こどものいなかった養父母が千重子へそそぐ愛情がヒシと伝わる作品です。
この養父母を演じているのが岸恵子と歌舞伎俳優の実川延若。
この配役をみても養父母の存在の大きいことがうかがえます。二人とも鷹揚で優しそうな養父母です。
岸恵子は市川崑にちょいちょい起用されている。幸田文原作『おとうと』 横溝正史の金田一シリーズ 谷崎潤一郎の『細雪』 江戸の長屋の人情ばなし山本周五郎の『かあちゃん』など。
『黒い十人の女』といった現代的でスタイリッシュな作品もあるが おおむね和装の女性を演じている。それもわりと地味な色合いの。
フランスにいたこともあり 作家としても活躍している華やかで現代的な印象のある女優でありながら 市川崑は日本の どちらかといえば古風な母親像を彼女にみている。
本作『古都』でも終始むすめに寄り添う母親でいる。一緒のふとんに寝るシーンもある。
養父の実川延若は関西の歌舞伎の人だろう。この映画以外あまり詳しく存じ上げないのだが 女形もしていそうな 人の良さそうな。
こうしてわかい人たちの視線だけではなく、世代の異なる親の視線がかさなることで ものがたり に ふかみ が出てきます。
自分がそうゆう年になってきたということかも知れまへんなぁ。
むかしは百恵ちゃんばかり見ていたが、こうしてみると養父母の会話に面白みを感じてしまう。
姉妹をみまもる男たち
こうゆう物語なので 年ごろの娘さん姉妹の恋物語はひかえめです。
アイドル山口百恵の映画は すべてを見てはいないが おおむね恋の映画だと思う。それを封印とまではいわないが 主題から外した格好。
百恵ちゃん映画のほとんどで相手役だった三浦友和は 今回は妹の苗子の恋人である。北山杉のきこり。ただこの映画は苗子より千重子が中心となるので、友和さんの出番はかなり少なめ。
千重子には同業である呉服問屋の息子で幼馴染役の北詰友樹と その兄で店の商売を動かしている沖雅也がそばにいる。
兄のほうが千重子には積極的。いくらか傾きつつある千重子の家の商いについても現代的な視点を取り入れるよう進言します。
また織工の石田信之も千重子に恋心を寄せています。しかし これはかないません。
ところが彼は宵山で苗子に遭遇し、苗子を千重子だと思い込んで着物の話を始めます。
陰影礼賛の映画
市川崑監督の日本家屋がことのほか好きです。
伝統的な日本家屋では太陽光がそんなに差し込みませんから なんとなくうすくらい。それを照らすのが電球のやわらかい明るさ。蛍光灯だのLEDだのと照明の質が違う。
また代々拭きあげられ磨きあげられているであろう調度品や廊下のうっすらとした照りが それこそ谷崎潤一郎が羊羹にみた陰翳を思い起こさせる。
山口百恵にはブルーのカーディガンを着させている。夏場のシーンは淡い水色かな。市川崑監督のヒロインは青系の色を身に着けることが多い。たいていは伝統的日本家屋に象徴される因習のなかで 自分というものを見失わないしっかりとした女性像となっている。