映画『裏窓』(1954)
こんちわ、唐崎夜雨です。
今回ご紹介する映画は、アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画『裏窓』(原題:Rear Window)です。
出演はジェームズ・スチュワート、グレース・ケリー。
『裏窓』は1954年、昭和29年のカラー映画。
我が国の映画で昭和29年といえば、『ゴジラ』や『七人の侍』が公開された年です。また、この年のカンヌ国際映画祭では衣笠貞之助監督の『地獄門』がグランプリを獲得しています。
『裏窓』のポイントは主人公が足を怪我していて車椅子であるということ。つまり容易に部屋から出ることができない。
行動面では誰かが手足になってくれる。しかしその誰かが成功するか否かを部屋から見ているしかない主人公はドキドキです。
また守りに弱い。犯人が襲ってきても部屋からおいそれとは逃げられない。観客はハラハラです。
あらすじ
カメラマンのジェフ(ジェームズ・スチュワート)は足の怪我で車椅子生活を余儀なくされていた。退屈を持て余している彼は、アパートメントの裏窓から見える向かいの住人たちを眺めて過ごしている。
裏窓からは裏庭をはさんで向かいのアパートがみえる。暑い時期。どちらのみなさんも窓を開けている。屋外の階段で寝ている夫婦も見える。
ほかに若い女性ダンサー、孤独な女性、作曲家、病身の奥さんのいるセールスマンなどの人々の暮らしを見るとはなしに眺めていた。
ジェフには富裕な恋人のリサ(グレース・ケリー)がいた。彼女はジェフとの結婚をのぞむが、ジェフは未開の地さえも行くカメラマンで、彼女と一緒に暮らすことは難しいと考えていた。
雨の降る深夜、向かいのセールスマンが何度もスーツケースを持って家を出入りする姿をジェフは目撃した。その日以来、病身の奥さんの姿が見えない。ジェフは奥さんの身に何か起きたのではないかと推理する。
驚きなのはスタジオのセットだということ
主人公のジェフは足の怪我で部屋から出ません。そのためカメラも99%、彼の部屋から出ません。
彼の部屋一室が舞台といっても閉塞感はまったくない。大きな裏窓がたいてい開いていて、裏庭の向かいが見えているから。
ご近所がよく見えるのは、逆にご近所からもこっちが丸見えじゃないかと思う。ジェフの部屋の裏窓のロールカーテンは、すだれ。
驚きなのは、これがスタジオのセットであるということ。
裏庭をはさんで正面と左右の三方に4階か5階建てくらいのアパートがたつ。向かいの建物の横には路地があり、車の通る表通りまで見える。
つまり、裏庭を中心に街の1区画をスタジオに再現したわけです。
さらに驚きなのは、ジェフの部屋も一体化して作られていること。
冒頭でカメラは向かいのアパートの夫婦から、途切れることなく窓辺で汗かきながら寝ているジェフ、さらに彼のギブスの足を経て、部屋に飾られた数々の写真をワンショットでとらえてる。
実はこのセット、おぼろげな記憶で恐縮ですが、スタジオの床を外したか掘り下げたかして高さを稼いでいます。たとえば地下2階分床を下げれば、地上は2階分あれば4階建てのセットは組めるわけです。
さらにさらに、夜のシーンもあれば、赤く照らされる夕方のシーンもある。また雨のシーンもある。大掛かりで手間のかかっているセットに感心してしまう。この裏窓から、見るたびに新しい発見がありそうです。
ジェフの部屋を訪ねる素敵な面々
ジェフの部屋を訪れる人は数少ない。恋人のリサと看護師のステラ(セルマ・リッター)は次第にジェフの推理に引き込まれます。
事件が起きてからは友人で刑事のドイル(ウェンデル・コーリイ)が何度か足を運んできますが、彼はジェフの推理の味方にはなってくれません。
刑事にしてみれが事件と呼べるかどうか疑わしいのですから仕方ありません。主人公ジェフは殺人事件を目撃しているわけではないのです。あくまでも観察対象の不可解な行動から推理をしていったに過ぎないということです。証拠がなければ警察としては動きようがない。
恋人のリサは動けないジェフに代わって行動的になるヒロインです。グレース・ケリーが出ているヒッチコック映画の『泥棒成金』に雰囲気は似ているかもしれない。
『泥棒成金』にもちょっと口の悪い肝っ玉のすわったお母さんがいたけれど、『裏窓』の看護師ステラにも似たものがある。
また『泥棒成金』の刑事は役に立たないのと同様に『裏窓』のドイル刑事も事件解決にはほとんど役立たない。また、積極的な協力者でないところは、むしろ『泥棒成金』に出てくる慎重派の保険屋にも通じるかもしれない。
大きなテーマは結婚問題
『裏窓』はサスペンス映画ですが、もうひとつ別のテーマがある。それは主人公と恋人の結婚問題です。
この視点から『裏窓』を見てみましょう。
男は未開の地も行く報道カメラマン、女は社交界の花。生きる環境が違いすぎるため結婚に躊躇している男でしたが、事件を契機にお嬢さまだと思っていた彼女が意外と活動的なことを知り、彼女との絆が深まり結婚してもいいかなと考え直すようになる、というものです。
彼のかわりに事件の部屋へメモを置いてきた彼女を見る彼のショットがあります。この娘、意外とやるもんだなと満足げな彼のショットです。
そのため裏窓から見える人々は、恋愛あるいは結婚について主人公と恋人が考えさせられる対象になっている。男にちやほやされている若いダンサー、新婚の夫婦、子犬を飼ってる中年夫婦、独り身の孤独な女性、など。
でも、もし、グレース・ケリーみたいな女性から一緒になりたいと言われたら、私なら躊躇せず、自分の信念なんかポイとうっちゃっていくだろうな。髪結いの亭主でよござんすよ。