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吉田兼好児著(2013)『船の翼』三恵社

題名の理由を知る素晴らしい出会いの書

本書の著者とは2011年6月からFB友達として以来今日まで友達関係が継続しています。本書の裏表紙にもイラストが書かれていますが、最初はギター奏者の方だと思っていました。
本書はアマゾンで2013年11月20日に予約注文したことが記録として残っていますので、出版されるという情報をタイムラインに投稿されたときにポチッと購入したのだと思います。

実は一度読んでいるのですが、改めて投稿を考えて再度読んでみました。本書は著者が英国のウインチェスターから、かつて「船の翼」の仕事をともにした友人に再開するためにエディンバラに行く特急列車フライングスコッツマンから始まる。

そして本題でもある「船の翼」というのが、船の揺れを抑える制御をするために、船底近くに横にフィンを突出させ、それを制御することにより揺れの低減が得られる、安定航行のための重要な制御装置フィンスタビライザーであると理解する。そのフィンはまさに「船の翼」である。

本書には記載していないが、フィンスタビライザーは日本の三菱造船の元吉慎太郎が発明したのだが、当時の制御技術が未熟で、イギリスに特許売却され、結果的に戦後に海外から逆輸入された装置のようである。その日本での導入初期に著者が英国北部スコットランドのブラウンブラザーズ社の担当者ピータートレイシーとの導入エピソードや、親交の内容が展開されている。

わたしは英国はロンドンとウェールズ(カーディフ)くらいしか行ったことがありませんが、なんとなくイギリスのイメージを思い出したり、大学院で通った長崎の風景も本書を通じて思い出として蘇ってきました。

本書で一番驚いたのは、日本の技術力はそれなりに高く、そこで働く人も自信に溢れていたことだろうとは思うが、経験のない装置導入に対して、謙虚にピーターの忠告を聞くこと無く、注意を怠り、最初の稼働で失敗するという内容…

これは丁度現代の企業の様々なところにはびこっている事象と同じで、古き良き日本の技術と、その壊れない神話のようなものが、昨今の技術者の過信と技術力の低下で同様の事例を招いているような感覚を抱いてしまった。

少々長い引用になるが、ピーターの呟いた「どうして日本人は経験のあるオレのアドバイスを、誰ひとり素直に聞き入れ無いのかな?、班長しかり、デザインマネジャーだって、フィンスタビライザーは初めての経験だろう!? まったく、どうなっているんだ! 初めからオレの云うことをしっかり聴いておけば、こんな結果にならない筈だよ、いくらスキルが優れていても、技術屋の頑固者は、時には会社に大損させるよ!、結局、今回は、3日の無駄な工程の遅れとなった、この経費は、HOW MUCH? だよ…」は今のエンジニアにも当てはまるかも知れない。

本書でもエピソードに上げられているが、わたしも日本で英国人の「カイリンビール」という発音を聞いたことがある。最初はなかなか日本語での発音は難しいようです。この本を読み終えて、そのあたたまる話に「カイリンビール」が欲しくなりそうだけど、今のわたしは抗がん剤治療中のためアルコールは厳禁で… さて「カイリンビール」とは何か、それを知るために本書を読んでみてはいかがだろうか。

「船の翼」は人の友情も安定に保つ効果があるのかも知れない。素晴らしいエピソードに乾杯!

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