白取春彦訳(2018)『ヴィトゲンシュタイン 世界が変わる言葉』株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
重みのある言葉を噛みしめる本
このエッシェンシャル版のシリーズに結構はまってます。特に昼休みなどの短い時間に簡単に読めるのと、急に用事があっても、次に読む祭に以前の内容を思い出しながら続きを読むようなことが必要なく、すぐに次の項目から読み進めることができるので重宝しています。当然ながら本書もkindle unlimitedを使って読んでみました。このシリーズを読んでいるだけでも、kindle unlimitedの月額料金分は読んでいるのではないかと思う。
今回はヴィトゲンシュタインですが、かれの本は翻訳されているものはほぼ読み尽くしていますが、昔に読んだ記憶があり、このエッセンシャル版によって、また記憶の片隅の断片が明確化する効果に驚いています。
そして「はじめに」のところで、ヴィトケンシュタインの人となりを一通り振り返っているところが良いですね。多くの兄弟を自殺で失うという特殊な環境だと思うし、それだからこそ哲学的なところにも深くのめり込んでいったことが想像できるというもの…
58歳で職を辞して癌のために62歳で死去、そして独身だったとのこと。今の自分も58歳で癌を患い独身ということで、他人事ではない感じではあるし、わたしの場合は62歳まで生きられるかも疑問…
この本も、kindle上で沢山のブックマークとハイライトをつけ、気に留めた文章を確かめることができた。
例えば最初の「他の誰も自分のようには考えてくれない」や「別のルールで考えろ」、「つまらない考えに揺さぶられていないか」、「虚栄心が思考を妨げる」、「帰納法を過信するな」、それから「考える」ということにも人それぞれちがう解釈があるという観点も、確かに鋭い観点である。
「検証せずに確信していることが多くないか」という点など、日々わたしたちが気をつけておかないと見落としがちになるところをきちんとフォローされているような感覚が生じる。また、わかりやすい説明とは細かい説明ではないなども妙に納得させられる。そして「経験とは解釈のこと」、まさにその通りで、世の中のベテランと言われる人は多くの経験を積んでいるが、それは一つの解釈を与えているに過ぎないということでもある。山の頂に登るには色々なルートが有るように、また色々な手段があるように、本来は同じことでも多様な経験の仕方があるというもので、一つに凝り固まってはいけないということでもあろう…
本書で解説されている文章は短いけれども、このように自分の頭で、それを読み解き、また紐解きながら考えつつ読んでいくと、本書の言葉からまた広がりをもった考えや知識に行き着くのかも知れない。
「同じ言葉でも人によって中身が違う」という点も、今の時代在宅ワークでメールやチャットを日常的に使用しても、やはり言葉では理解してもその重みのようなものや感情までは伝わってこないので、時折齟齬が発生する。それだけに「時には言葉で表現できないこともある」という点にも深く同意してしまう。
面白い観点では、「信念」「希望」「期待」という言葉を使う人は逆境にあるという項目、なかなかに考えこんだ次第である。そして最後に「相手を理解したいなら相手の中に自分自身を見つけよ」という項目。これはかなり深い。相手の気持ちや考えを理解できるには、これが必要とヴィトケンシュタインはいう。最後に投げかけられているこの文章の深い意味を考えながら本書を読み終えた。