今井翔太著(2024)『生成AIで世界はこう変わる』SBクリエイティブ株式会社
今日の生成AIの現状を簡単に理解できる本
こんなことがあるのか、kindleで4月23日に購入しているにも関わらず、5月に入って書店でも「これは良いね」と思い購入していた…
やはり興味があると「生成AI」という言葉だけで、本を手に取るようである…
仕事と言わず、日常においても生成AIとは何かって言われることも多いので、説明するのにいきなり「プロンプトを…」などと言っても、ポカーンとされるだけで、最初から拒否反応をされてしまうのがオチですね…
本書は、生成AIのざっくりとした歴史と技術、AIと仕事の関係、AIと創作の関係、AIと人類の未来、最後に松尾教授との会談で締められています。まだ生成AIについて何も知らない状態の人からベテランの人まで、一通り生成AIに関する知識のベースを簡単におさえておくには良い本だと思います。新しいものが流行りだすと、士業やクリエイターの脅威など色々なことが世間で囁かれますが、その辺も含めて解説がなされているので、特に生成AIに初めて触れるような人には理解が増すのではないかと思います。
最近は生成AI関係の本でも、生成AIを実際に利用して文章化したものもありますが、本書では最初に生成AIの定義について、生成AIからの返答を掲載しています。これだけで結構優等生的な回答をしてくるという印象を持たれると思います。これに著者が簡単にその歴史の背景などを加えて解説が始まります。
ChatGPTのGPTはGeneral Purpose Technology(汎用技術)ではなくGenerative Pre-trained Transformerを略したものだけど、それを解説した論文によれば、それは汎用技術という主張とのこと。また、最近流行りの汎用人工知能(AGI)についても語られています。第2章ではそのChatGPT等の情報処理の方法を簡単に解説されています。個人的には、大規模言語モデルになると、小型のモデルにはなかったような能力が突然現れることが明らかになっているという行から興味をそそられた次第です(71ページ、kindleでは555/199ページ)。
また、最近日本の企業でも導入され始めてきたRAGについても述べられていて、今現在の生成AIの実態にもキャッチアップできるだけの基礎的な内容は網羅されているようです。自組織だけのデータ利用という点では有用なので、これからRAG環境を用いる企業は増えると思います。
雇用に関しては、オックスフォードの論文で全職業の47%に影響するということですが、生成AIはツールでもあるので、多くの企業がワードやエクセル、パワーポイントをはじめグーグル検索などを日常的に使っているのと同様に、様々な職業で生成AIツールは使われるよねというざっくりした理解でも良いかと個人的には思っています。その他、AIは非定型作業も代替できるか、「ポランニーのパラドックス」や「モラベックのパラドックス」、労働保管型か労働置換型か、等の興味深い内容にも触れています。
特にAIが創造性を持つかという観点で書かれた第4章は、すなわちAIが人間を越えていくのかといったところに直結する内容なのでさらなる興味を掻き立てる内容でした。
面白い点では、アート作品などで、人間が創ったのかAIが創ったのかで人間の評価は変わり、現状では人間が創った評価が上のようです。今後はハイブリット作品も多くなるのかもしれませんが…
そして第5章では、生成AIをどのように人類は利用していくべきか、俯瞰した観点から規制とサービスの問題、コンテンツの真偽の問題等に触れています。その中でも、AIに聞くとなんでも応えてくれる環境に慣れてしまうと、AI以外に頼らなくなることで、身近な人に聞いたり、他を参照する機会が減ることで、送り手と受けての繋がりやコミュニケーションの機会などが希薄になる可能性があるという指摘は、心得ないといけない重要なことだと感じた。
最後に松尾教授との会談で締めくくられているが、そのなかで「自分自身のメタ認知をもう少し上げたほうがいい」という指摘が的を得ていると感じた次第。
新書サイズではあるけれど、生成AIについて基本的なところをおさえるには良い本です。
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