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GENTLE MONSTER Part 1: 「ラグジュアリーブランドの未来がある場所」

note 開設記念
2019年頃、書きっぱなしで公開していなかった文章アップ!

まずは、今年3月東京にもいよいよフラッグシップショップがオープンした韓国のアイウェアブランド GENTLE MONSTER について。


はじめに ※2024 年 7 月執筆

 2018-9年頃、ソウルのあちこちにあった「1階に商品がない、まるでアートギャラリーみたいなフラッグシップショップ」を展開するブランドに関心を持っていた。

 その先駆者かつ、今でも代表格なのが GENTLE MONSTER。

GENTLE MONSTER Haus Dosan, Seoul, May 2024

 当時、初めてカロスキルにある新沙店に入った時は「韓国のブランドって、こんな面白いことになっちゃってるの?」と、久しぶりにわくわくしたことを覚えている。

 それから、同様なスタイルを持つショップをあちこちと見てまわることがソウル旅での習慣になった。いくつかの気になるブランドに関しては、いろいろ調べて、自分が感じたことを文章にまとめることを始めた。
 その中で一番熱心に書いていたのが GENTLE MONSTER だ。

 2020年春、突然世界は新型コロナのパンデミックにより移動がままならない時代に突入。
 昨年ようやく3年ぶりにソウルを訪れ、コロナ禍前によく行っていたショップをまた訪れようとしたが、閉店していたり、失速感を感じるところがかなりあった。

 でも、GENTLE MONSTER を含め、5年前に特に印象深かったショップを展開していたブランドは今でも健在で、やっぱり哲学あるブランドは強度が違うのだなあと改めて感じたものだ。
 なので、書いてから 4 年以上の時を経ているけれど、またアップしてみようと思った。

 主な内容は、たどった歴史やそこからわたしが感じた哲学の部分なので、現在多少方針が変わっているところはあると思うが、そこまで古さは感じない…といいな。

結構ボリュームがあるので、4 つの記事に分けた。

以下から、「GENTLE MONSTER Part 1: 「ラグジュアリーブランドの未来がある場所」」になる。

※文章内のデータ、戦略等は注釈がない限り、すべて 2019 年執筆当時のものになります

***

サングラスショップで巻き込まれる、カラスと宇宙船の物語

 カロスキルから一本入った道に面した全面ガラスの入り口からは、びっしり吊るされたカラスの絵と、床にしきつめられた松ぼっくりしか見えない。そこが店舗だと知らなければ、間違いなく現代アートギャラリーだと思うだろう。

 入り口を入ると、聞こえるのは「カーー」「カーー」というカラスの鳴き声(たまにディスコ調の音が漏れ聞こえるが、その正体は最後に判明する)。

 キョロキョロしていると、すっと「ご来店は初めてですか?」とスタッフの青年に声をかけられる。
 そして、「ここのお店のコンセプトは『ホワイトクロウ』で、ストーリーがあります。なのでこのコンセプトブックを読んで、見ていくといいと思います」と渡されるのが、韓国語、英語、中国語で準備された赤い薄い本だ。

 開いてみると、どうやらそれはカラスにまつわる絵本のよう。カラスたちの住む静かな森に突如やってきたエイリアン。彼らから逃れ、戦うカラスたちの物語らしい。

 絵本を読んでいると、先程の青年が「日本人の方ですか? 日本語の上手なスタッフがいますよ」とすぐにひとりの女性を連れてきてくれた。

 彼女に「まずは上に行ってみましょう」と言われ、階段をあがるとすぐ目に飛び込むのが、奇妙な触手が動く大きなインスタレーション。彼女はにこやかにこう教えてくれた。

「これが、この本に出てくるエイリアンです」。

 ――― GENTLE MONSTER の店舗体験はこんな感じで始まる。

 ここまで、彼らの商品であるサングラス、眼鏡フレームはどこにも展示されていない。エイリアンに遭遇した後、ようやく左右にサングラスたちが並ぶ部屋が現れる。
 店は5階まであるが、どの階もフロアのほとんどを占めるのがカラスの物語を紡ぐ不思議なインスタレーションだ。

 たしかに写真が撮りたくなる店だが、大雑把に「インスタ映えな店舗」とは言い難いエキセントリックさがある。

 並んでいるサングラスたちも、若干つける人を選ぶ尖ったデザイン。中にはギョッとするようなユニークなものもあり、あちこちに試着し、自撮りする人がいる。

 およそキャッシャーに見えない屋根裏のような最上階フロアまで行き、エイリアンから守られ宇宙に旅立ったカラスの卵たちを見届けて1階まで戻ると、スタッフに地下もありますよと促された。

 階下にいたのは、50年後もその物語を語り継ぐ「ホワイトクロウ(真っ白になったカラス)」と映像が映し出されるテレビ。

 さらに促されるまま、横にあるドアを開けるとびっくりするような光景が広がる。整然と並んだ25羽のカラスたちが、ミラーボールが回る中ディスコ調の音楽に合わせて首を振り始めたのだ。

 入った時に、カラスの鳴き声に混ざって漏れ聞こえたディスコ音楽はこれだったのである。あっけにとられること数分、突然そのショーは終わり真っ暗になる。

 扉を出て、そこにいたスタッフに「これは何ですか?」と聞いてみた(聞いちゃうよね?)。

 曰く、「エンドクレジット後の映像みたいなもの」。マーベル映画などでおなじみの、映画の最後の最後に流れるお楽しみ映像。あれ、だそうだ。

 わかったような、わからないような、でも、どうやら私は何かの物語を体験していたらしい。サングラスを売るお店で。

 さてこのカラスの物語と彼らの商品は関係があるのだろうか? スタッフの方に聞くとあっさり「あ、眼鏡とカラスは関係ないです(笑)」と言われる。

 GENTLE MONSTER のフラッグシップストアは他にもあるが、このカラスの物語は新沙店だけで展開されているのもの。他店舗ではそれぞれ別のコンセプトの元、やはり大掛かりな空間デザインが構築されているらしい。

「ストーリーがあるのは今回が初めてなんです。これまではコンセプトだけだったので」と教えてくれるスタッフに「他のコンセプトだった時もあるんですか?」と聞くと、このような言葉が返ってきた。

「うちは、一年に一回コンセプトを変えていて、そのたびにお店の空間デザインもインスタレーションも全部も変えるんです」

「ラグジュアリーブランドの未来がある場所」

 GENTLE MONSTER は、こういった強烈なコンセプトと思い切った空間デザインのフラッグシップストアで有名になった韓国生まれのアイウェア・ブランドだ。

 2011年2月にキム・ハングク(Hankook Kim)とジェイ・オー(Jay Oh)によって設立されたスタートアップ企業IICOMBINED(設立当初の社名はSnoop Buy)が企画・開発から販売まで行っている。

 ブランド名 "GENTLE MONSTER" は、「表面上は穏やかだが、内にモンスター的欲望、情熱を持つ人」を意味し、それは彼らがターゲットとする顧客層のイメージでもある。

 自らを「ファッションブランド」としており、「眼鏡はファッションアイテムである」というそれまでの韓国にはなかった概念を打ち出した。

 現在の主力商品はサングラス 。
 どれもユニセックスでデザイン性の高いプロダクトだが、普段使いしやすい25万ウォン前後の商品と、とびきり奇抜なデザインが目をひく40万ウォン以上の商品が用意されている。

 ソウルのファッション好きな若者の間から徐々に話題になり始め、2014年に韓国の大ヒットドラマ「星から来たあなた」で女優チョン・ジヒョンがかけたことで、一般層及びアジア近隣諸国にもその名を知られることになった。

 2014年以降は海外にも本格展開。2019年8月現在、全世界に20店舗のフラッグシップストアがある 。(*2024年7月現在、45店舗)

 創業以来毎年売上高は上昇しており、2018年は約1,795億ウォン(*2023年6,082億ウォン) 。2017年9月には、LVMH 系投資会社である L キャタルトン・アジアが推定約600億ウォンを投資、同社二番目の株主となったたことが話題になった 。

 近年は、アレキサンダーワン、FENDIなど世界的ブランドとのコラボレーション、キャンペーンにオスカー女優ティルダ・スウィントン起用、また、ジジ・ハディド、ケンダル・ジェナーなどハリウッド・セレブにも着用されているなど、韓国発グローバル・ブランドの影響力を急速に強めていっている。

(*わたしの体感では、2020年から3回行っている BLACKPINK のジェニとのコラボレーションが特に若い女性の中での認知&人気アップに貢献している気がする。ソウル旅Vlog でも「ジェニがコラボしているブランド」として紹介しているのをよく見かけるし。実際、今ソウルでやってるコラボ(JENTLE SALON) はすごく可愛かった!!)

Jentle Salon

 ソウルのファッション・ピープルから世界へ。

 急成長しているGENTLE MONSTER だが、彼らを語る最大の個性がやはり「フラッグシップストア」だ。LVMHコリア社長のチョ・ヒョンウク(Cho Hyun-Ouk)は「フラッグシップストアこそが、GENTLE MONSTER」と語る。そしてそこは、「ラグジュアリーブランドの未来がある場所」だと 。

 私は冒頭に紹介した新沙店他、韓国外も含め 8 店舗のフラッグシップストアに足を運んだが、どこにいっても彼らの個性的なプロダクトと同様、「これぞGENTLE MONSTER」という独特な雰囲気を店舗から感じる。

 それは単に空間やインスタレーションが奇抜だという話ではなく、来店者が皆アバンギャルドなサングラスをかけてみてはそのユニークさに友達と笑ったり、動き出すインスタレーションに夢中でカメラを向けたり、はたまた座ってしゃべりだしたり、と店内を楽しんでいることが肌で伝わってくるからだ。

 もう何年も「ショッピング」でウキウキしたことがなかった自分にとって、久しぶりに感じた「お店が楽しい」という感覚だった。韓国でコンセプトにこだわったフラッグシップストアがいくつもできた理由のひとつは、彼らの成功による影響も大きいのではないかと感じる。

 さて、このようなフラッグシップストアを中心とする彼らの戦略は、いつ、どのようにして生まれたのだろうか?

 それを知るためには、GENTLE MONSTER設立当初の歴史を紐解いてみる必要がある。
 彼らの創業過程及び初期の戦略に関しては、コ・スンヨン東亜日報記者とイ・スンヨン延世大学経営学部教授による東亜ビジネスレビューの記事が詳しい 。

 それを中心にいくつかの記事を参照しながら、次の記事では、GENTLE MONSTER が独自のフラッグシップストアを中心としたブランド戦略を確立するまでの過程を追ってみる。

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